推しの心得|横山友紀四段
最近仲の良い将棋VTuberさんに『さよならオルタ』という漫画を頂きました。一応電子書籍で購入済みだったのですが、表紙が尊すぎて1週間くらい袋とじを破れませんでした..紙の質感からも神聖さが伝わってきて本当に幸せです。菜々河さんありがとうございます。今日は作者である仲谷先生の魅力をどうしても伝えたいため、拙い文章ですがお付き合い頂けると幸いです。
代表作は『やがて君になる』で2015年4月~2019年月の4年半に渡り『月刊コミック電撃大王(KADOKAWA)』にて連載されました。全45話、単行本は全8巻。
→あらすじ
人に恋する気持ちが分からず悩みを抱える侑(ゆう)は、中学の卒業時に告白された返事をできずにいました。
そんなときに出会った生徒会の先輩燈子(とうこ)は、誰に告白されても相手のことを好きになれないと言います。共感を覚えた侑は悩みを打ち明けるのですが、逆に思わぬ言葉を告げられます―――。
「私、君のこと好きになりそう」
ここまで一巻の半分くらいですね。
照れ顔が可愛い……………!みたいなのはさておき、当時の私は「これで物語終わり!?」「燈子先輩変わり身早くない!?」と疑問符だらけになっていました。ついさっきまで誰のことも好きになれないって言ってたのに…実際侑も同じ感情だったみたいですね。この後は友だち以上恋人未満みたいな関係が続くのですが、見所ポイントを紹介させて頂きます。記念写真を撮るシーンなのですが、燈子先輩が後ろでそっと手を触れさせるシーンがあります。普通はそれで意識しちゃう展開なのに、照れる先輩を見て侑が一言。
「ズルい…」
!??? そう来るか …ってなりました。これが棋は対話なりというやつですね。(多分違う)
ここまで漫画の紹介をしてきましたが、ただ単に私の趣味として薦めているわけではありません。こうした素晴らしい作品が将棋にも通じる視点を与えてくれると信じているためです。
名局と呼ばれる将棋には2つの要素があると思っています。1つ目は新しい発想です。例えば相掛かりの86歩87金。従来の感覚からすると不思議な手で、反射的に騙された!となる方も多いでしょう。ときおり新手は"奇手"'と呼ばれることがありますが、アイデアはいずれ常識になりうる可能性を秘めています。新しい価値観が自分の中で昇華される(騙される)時間はとても好きですね。
2つ目は構成です。思い描いたプランを貫き通すというのは難しいことで、特に相手のいる将棋では邪魔されてしまうことが多いです。しかし先日のタイトル戦、藤井-渡辺戦では序盤に狙っていた地下鉄飛車が最終盤で実現されました。最後にピースが当てはまり、そこまでの努力が伝わってくる棋譜に弱いですね…。
仲谷先生の作品、特に『やがて君になる』は良い意味で騙され、そして最後に繋がります。将棋ファンである皆様に是非ともおすすめしたい一冊です!
魅力は『さよならオルタ』にも隠されています。短編集なのですが、『優しくなりたい』という章では主人公が死んだクラスメイトに鶴を折ってあげるシーンがあります。
「君は優しいね」
「俺はあんたの真似をしただけだよ」
優しさの真似は優しさでしょうか。将棋でも「本当はこの手を指したいけど怖いから違う手を指す」なんてことはよくあります。仲谷先生はそういった「心との距離」を描かれるのがお上手ですね。こちらも大変お買い得になっております。長文お付き合い頂きありがとうございました!