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奨励会退会とYouTube裏事情|折田翔吾四段

2016年1月11日、三段リーグ戦で連敗し折田青年(26才)の奨励会退会が決まった。
その後も3月まではリーグ戦の対局を消化しなければならないのだが、もう将棋の勉強をする理由が無くなったこともあり毎日スマホゲーム※1に明け暮れる自堕落極まりない生活を送っていた。
しかし、その期の三段リーグ最終節では昇段候補との対戦※2が決まっていた。
「気の抜けた将棋を指して他の三段リーガーに迷惑をかけてはならない、せめて全力は出そう」の思いで、その対局だけは全力で準備して臨み何とか勝利することができ、悪くない気分で奨励会を去った。

とはいえ厳しい現実に変わりはなく、将棋の道が駄目になった以上新たな道に進まなければならない。
「まあ将棋が駄目になってもう俺の人生終わりだし死んじゃったけど、ようやく将棋以外のこともできるし~」と、以前から興味があったプログラミングの勉強を始めたりした。
と同時に「これまで培ってきた将棋の技術、経験を無駄にしたくない」と、何かしら将棋関係の活動もしたいという思いもあった。

そんな中で当時の彼女さんと天王寺公園のてんしばエリアにあるめちゃめちゃおいしいクレープ屋さん※3でめちゃめちゃおいしいクレープやガレットやミルフィーユを食べながら、「将棋動画配信やってみたらおもろいかも」みたいな話になった。
これは名案だと思い、その翌日に早速YouTubeチャンネルを開設し初の動画投稿をしてみた。将棋も人生も割と勢い重視の棋風だ。投稿日は2016年4月26日と記録されている。
YouTubeを始めるに当たって直感的に重要だと思ったことが二つある。
1、毎日動画投稿すべし、継続は力なり
2、負けた動画も投稿すべし

初めて録った動画は、将棋ウォーズでネット対戦をしながら、実況解説するという内容のものだ。
当時将棋の勉強を全くしていなかったこともありその将棋はひどい内容で、あまりにも恥ずかしい逆転負けだった。
こんなひどい動画をわざわざ投稿して恥をかかないといけない意味が分からなかったが、とにかく投稿し将棋YouTuberとしての初手を指した。
投稿を始めた当初はほんのわずかな再生回数だったが毎日動画を録って投稿していると、一ヶ月ほど経った頃に段々再生回数やチャンネル登録者数が伸び始めた。

YouTubeで再生回数を増やすには、他の動画の関連動画に表示されたりおすすめ動画に表示されたりというように、YouTube内部の仕組みに好かれることが非常に大事だ。
どれほど良質な動画を投稿しても、見つけてもらえなければ見てもらえない。
見つけてもらうため、つまりYouTube内部の仕組みに好かれるために、毎日動画を投稿するのは基本的な手法だと思われる。
また視聴者との関わりとしても単純接触効果※4によって、動画を目にする回数が増えるほど親しみを感じていただけるだろう。

動画投稿者は人それぞれタイプがあり、視聴者第一で考える方、再生回数第一の方、自分の楽しさ第一の方など、十人十色で面白いところだと思う。
個人的にはアマ時代にYouTubeで活動する上で「自分にとって将棋が強くなるための時間になっているかどうか」を重視していた。
そのため動画編集にかける労力は極力少なくし、強豪と対戦する動画を多く投稿してきた。プロになった今もその名残はある。

ただ需要があるかどうかは別問題で、YouTube視聴者の方はアマ初段までの方が圧倒的に多いため、初級者向けの講座は抜群にウケが良い傾向がある。
私はかなりのものぐさで、講座系の動画は作成に労力がかかるので正直あまり好きではないが、今後好きになっていきたい所存だ。

動画投稿を開始した1年後から将棋大会へ参加し始め、4年後にはなぜかプロ入りすることができ、本欄に拙文を載せていただいている。
アマ時代から将棋へのモチベーションを高く持つことができたのも、視聴者の存在があってこそで心より感謝いたしております。
今回は昔話とYouTubeの話を書かせていただきました。
今も動画投稿を続けておりますので、よろしければチャンネル登録お願いします!(宣伝してしまい申し訳ありません)

【アゲアゲ将棋実況】
https://www.youtube.com/channel/UCumepnTtqL4apOScbzzVxCg

20210725折田四段・YouTube写真

※1 HearthStoneというカードゲーム。当時無課金でレジェンドランクまで行けて嬉しかった。
※2 2016年3月5日に行われた佐々木大地三段(現五段)との一戦。2局目の山本博志三段(現四段)との対局にも勝利し気分よく退会した。自慢してすみません。
※3 クレープリー・スタンド シャンデレールというお店。めちゃめちゃおいしい。梅田にも店舗がある。
※4 心理学用語で、繰り返し接すると好意度や印象が高まるという効果。