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「観る将」が観た第53期新人王戦三番勝負第三局

11月1日、新人王戦三番勝負第三局が関西将棋会館で行われました。どちらも初優勝を目指す黒田尭之五段と服部慎一郎五段の対決は、タイスコアで迎えたこの第三局で決着することとなっています。

黒田五段の筋違い角

改めて振り駒が行われ、先手となった黒田五段は第二局と同様に三間飛車を採用し、前局は穴熊でしたが美濃囲いに構えます。角交換の後、服部五段も左美濃に囲うと、黒田五段は向かい飛車に振り直し、6筋に銀を上がって7筋から仕掛けます。服部五段が飛車を上がって受けると、黒田五段は▲5六角と手放して3筋と7筋の歩を狙います。

服部五段の自陣角

服部五段が4筋の歩を突き、角で取らせてから銀を6筋に上がると、黒田五段は角で3筋の歩も取ります。服部五段は7筋で歩を取り返してから△3三角と打ち、間接的に先手の飛車を睨みます。黒田五段が次の41手目を考慮中に昼休となりました。各3時間の持ち時間の内、残り時間は黒田五段が1時間54分、服部五段が2時間8分となっています。

垂れ歩①

黒田五段が昼休を挟む26分の熟考で7筋に歩を垂らすと、服部五段は打ったばかりの角を4筋に上がって歩成に備えます。黒田五段が7筋に飛車を寄せると、服部五段は角をさらに5筋に引いて7筋への銀の進出を防ぎます。黒田五段が7筋の歩を成り捨てると、この"と金"は取ると7筋から突入されるので、服部五段は手抜いて8筋の歩を交換して飛車を走ります。

垂れ歩②

黒田五段が歩を打って後手の飛成を防ぐと、服部五段は角で"と金"を取ります。黒田五段が7筋で銀をぶつけて交換し飛車を走ると、服部五段は歩で先手の飛成を防ぎます。服部五段が飛車取りに銀を打つと、黒田五段も飛車取りに銀を打ち、お互いに飛車を引いて取り合いを回避します。黒田五段が再び7筋に歩を垂らすと、服部五段は銀頭を歩で叩いて9筋に追ってから、飛車で垂れ歩を取り払います。

垂れ歩③

黒田五段が▲4七角と引いて桂の活用を図ると、服部五段は△6四角と出て先手の飛車に圧力を掛けます。黒田五段が飛車を6筋に寄せて後手の角を質駒にすると、服部五段は飛車を8筋に戻します。黒田五段は三度目となる7筋への垂れ歩を飛車で取らせると、8筋で銀をぶつけますが、服部五段は銀を上がってかわし飛車に当てます。黒田五段は構わず▲8三角成と馬を作って飛車に当て、服部五段が飛車を6筋にかわすと、9分の考慮で飛車を角と刺し違え▲8二角と打ち込みます。

攻め合い

服部五段は8分の考慮で△8九飛と打ち込み、攻め合いを選択します。黒田五段が2枚目の馬を作って香と桂を拾うと、服部五段も竜を作って香を拾い△3三香と先手玉のコビンを睨みます。黒田五段も▲5九香と打って守りを固めると、馬を飛車とぶつけて交換し、服部五段が"と金"を作る代わりに馬で銀を取ります。服部五段は"と金"を金にぶつけますが、黒田五段は構わず▲7一飛と打ち込み、どちらの寄せが速いかという勝負になります。

美濃崩しの手筋

服部五段が"と金"で金を剥がすと、黒田五段は△3一銀と王手し後手玉を1筋に追ってから香で"と金"を取り除きます。服部五段は△4八歩と手筋の歩を放ち、黒田五段が金を3筋に寄せてかわすと竜で5筋の香を取ります。黒田五段が▲2五桂と打って後手玉の上部脱出を阻むと、服部五段は△3七香成と王手で飛び込みます。

攻守の駆け引き

服部五段が飛車取りかつ先手陣を睨んで△4五角と打つと、黒田五段は△4一飛成と金を食いちぎってから歩で玉頭を守って辛抱します。服部五段が自陣に金を打って守りを固めると、黒田五段は1筋の歩をぶつけて後手玉に迫ります。服部五段が△3三桂と継ぎ桂で先手の桂を外すと、黒田五段は4筋の歩を突いて自陣を睨む角に当てます。服部五段が△5五角と王手で飛び出し馬と交換すると、黒田五段はじっと4筋の歩を突いて金に当て、後手からの攻めを催促します。

ついに決着

服部五段は1筋に香を打ち捨て、桂で取らせてから△3一金と銀を取ります。黒田五段が香を打って竜の横利きを止めると、服部五段は王手で桂を跳ねます。両者の残り時間はほぼ10分で並び、お互いの玉頭で激しい攻防が続きます。最後はついに先手玉に長手数の即詰みが生じ、服部五段が落ち着いた手つきで△2六金と王手すると、黒田五段は静かに駒台に手をかざし、144手の激闘は終わりを告げました。

まとめ

本局は黒田五段が積極的に仕掛け、先に馬を作ってペースを掴むかと思われましたが、服部五段は決め手を与えず攻め合いに持ち込み、緩急自在の指し回しで着実にポイントを稼いでリードを奪いました。終盤の寄せ合いは、素人目にはどちらが勝っているのかわからない激戦になりましたが、自玉の安全を確保しつつ攻め続けた服部五段が勝ち切りました。
服部五段は2勝1敗で新人王に輝き、昨年度の加古川青流戦に続いて2度目の棋戦優勝を果たしました。今年度は対局数と勝数で1位を独走しており、活躍に相応しい勲章を手にしたという印象です。対局後に近い目標と遠い目標を聞かれ「まずは目の前の将棋を一局一局全力で指すこと、遠い目標はタイトル戦に出ること」と答えましたが、近い将来タイトル戦に登場することを期待したいと思います。
黒田五段は対局後に「全体的な内容は反省点も多いのですが、観てもらって面白い将棋は指せた」と語った通り、何が飛び出すかわからない将棋は非常に魅力的です。次の機会には是非結果を残せるよう楽しみにしています。

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