見出し画像

「観る将」が観た第32期女流王位戦挑戦者決定戦

3月2日に行われた女流王位戦の挑戦者決定戦を観た感想です。
今期の挑決リーグは先日最終局が行われ、紅組優勝の山根女流二段と白組優勝の伊藤女流三段が挑戦者決定戦を戦うこととなりました。山根女流二段は挑決リーグ最終局で敗れるまで女流棋戦歴代3位タイの17連勝を記録し、伊藤女流三段も女流棋戦で11連勝中と、好調同士の対決で注目されました。両者のこれまでの対戦成績は、伊藤女流三段が6勝1敗と圧倒しています。

振り駒の結果後手となった山根女流二段は14手目に先に向かい飛車に振り、これを見た伊藤女流三段も19手目に向かい飛車に振り、相向かい飛車という将棋になりました。両者の対局では、これまでも相振り飛車が多かったようです。

伊藤女流三段が先に飛車先の歩を交換した後、7筋に飛車を回して相手の金無双の陣形を乱します。続いて4筋に転回すると、山根女流二段も4筋に振り直し、飛車が向かい合う形になりました。伊藤女流三段が先に4筋から仕掛けると、山根女流二段は2筋に歩を垂らし相手の玉頭に嫌味を付けます。伊藤女流三段は構わず盤面中央を制圧し、少し指し易い状況のようです。

山根女流二段は辛抱の時間帯が続きます。伊藤女流三段は角を捨てて奪った銀を相手陣に打ち込み、と金を作って攻め込みます。山根女流二段ももらった角を敵陣に打ち込み、相手陣の金を食いちぎって対抗します。伊藤女流三段は角を敵陣に打ち飛車と刺し違えてから竜を作って攻めを加速します。この辺り激しい攻め合いとなり、AIの評価値も激しく揺れ動きます。

伊藤女流三段は自陣の飛車も成り込み、2枚竜の攻撃態勢を作ります。山根女流二段は手駒を補充しながら粘ります。攻めあぐねた伊藤女流三段は、王で2筋に垂らされた歩を払い上部脱出を図ります。上部は伊藤女流三段の2枚の竜が守りにも利いており、入玉を許せば山根女流二段に勝ち目はありません。

山根女流二段は1分将棋に突入しましたが、馬と角の利きを活かし、歩の連打で入玉を阻止します。伊藤女流三段は歩で馬の利きを遮断しましたが、ここで山根女流二段の馬を捨てる強襲が決め手となりました。伊藤女流三段は五段目まで逃げた王が自陣にまで押し戻され、無念の投了となりました。

本局は、受けが得意な伊藤女流三段が積極的に攻め、攻めが持ち味の山根女流二段が受ける時間帯が長く続きましたが、好調同士の対決らしく終盤まで見応えのある攻防が展開されました。山根女流二段が反撃に転じてからは流石の切れ味を魅せ、192手の激闘を制することとなりました。

この結果、山根女流二段は里見女流王位への挑戦権を獲得しました。対局後のインタビューで「いつもは心が折れてしまうことがあるんですけど、本局はもう少し粘ろうと頑張れたのがよかった」と語りましたが、元々定評のある攻撃力に加え、本局でも中盤に見せた辛抱の受けが最近の好調を支えているのかもしれません。里見女流四冠と西山女流三冠の二強時代に自身初のタイトル挑戦となり「まずは自分が成長することがいちばんなので、トップのお二人に少しでも近づけるように精進したい」とも語りましたが、新鋭の飛躍への第一歩として4月に開幕する五番勝負を楽しみにしたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?