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「観る将」が観た第32期女流王位戦五番勝負第一局

4月27日に姫路市の夢乃井で女流王位戦が開幕しました。清麗・女流名人・倉敷藤花を併せて四冠を保持する里見香奈女流王位に、タイトル初挑戦の山根ことみ女流二段が挑む五番勝負となっています。

里見女流王位は、女流最多タイとなるタイトル獲得通算43期の記録を持つ女流棋界の第一人者です。昨年度は最優秀女流棋士賞を受賞した他、勝率も0.800で女流1位を記録しています。女流王位戦は2連覇中で、既に通算6期獲得しておりクイーン王位の資格を持っています。前日のインタビューで、通算タイトル獲得数の新記録が懸かることについて「記録には執着せず、自分の力を出せればと思います」と語っています。

山根女流二段は、昨年度は優秀女流棋士賞を受賞した他、31勝と17連勝は女流1位を記録しています。今期女流王位戦は予選を勝ち上がり、挑決リーグ紅組を4勝1敗で優勝すると、挑戦者決定戦で白組優勝の伊藤女流三段を破って挑戦権を獲得しました。前日のインタビューで、初めてのタイトル戦について「緊張していたと思いますが、自然が好きで、緑に癒されてほぐれた気がします」と語っています。

両者のこれまでの対戦成績は里見女流王位が2勝0敗ですが、若手成長株の山根女流二段がどのような戦いを魅せるのか注目されます。

振り駒の結果、山根女流二段が先手となりました。後手の里見女流王位が先に三間飛車に振ると、山根女流二段も向かい飛車に振って相振り飛車の将棋となりました。里見女流王位が飛先の歩を交換して美濃囲いを目指すと、山根女流二段も飛先の歩を交換して中段に飛車を引く工夫を見せました。山根女流二段が金無双に囲うと、里見女流王位は1筋と5筋の位を取り、山根女流二段も9筋、6筋、7筋の位を取ります。里見女流王位が6筋から反発し、お互いに仕掛けのタイミングを窺っている局面で昼休となりました。

昼休明け、里見女流王位が角を浮いて相手の玉頭に狙いを定めると、山根女流二段は飛車の横利きを通して守ります。銀交換の後、山根女流二段は持ち駒の銀を打って相手の飛車を追い返し角取りに銀を進めますが、里見女流王位は焦点の歩を放ち角と銀2枚の交換に持ち込み駒得に成功します。里見女流王位は1筋から端攻めを決行し、香を1七まで吊り上げてから△7八銀と金桂両取りを掛け、慌てず着実にリードを拡大する作戦のようです。

山根女流二段は8筋と7筋に歩を打って相手陣に嫌味を付け、5四に打たれた銀を取りに▲3二角と打ちこみます。立会人の稲葉八段は「もう後手がはっきりいいという局面ではない」と話しています。馬と角で激しく攻める山根女流二段に対し、里見女流王位も△6五香と馬と金の田楽刺しで対抗します。山根女流二段は馬を逃げずに、桂香との2枚替えから▲7五桂と飛車取りに打ちます。里見女流王位も飛車を逃げずに攻め合いを選択し、攻守が激しく入れ替わる終盤戦に突入しました。

残り時間は山根女流二段が10分、里見女流王位も12分と切迫してきました。里見女流王位が相手玉のコビンをこじ開けに行くと、山根女流二段は守りの金を前進させ相手の攻め駒を取りに行きます。里見女流王位が△3五桂と相手玉を上部から圧迫すると、ついに1分将棋となった山根女流二段も敵陣に飛車を打ち込んで寄せ合いを目指します。里見女流王位は相手の攻めを丁寧に受けてから、入手した銀を相手玉の左辺への逃げ道を塞ぐ△7八銀と打ちます。受けなしとなった山根女流二段は、この148手目を見て無念の投了となりました。

本局は、序盤から後手の里見女流王位が積極的な動きを見せ、駒得となった辺りでは少しリードを奪ったように見えました。しかし山根女流二段が反撃に転ずると形勢は二転三転したようで、白熱した戦いが続きました。最後は里見女流王位が攻め急がずに冷静な受けを見せ、山根女流二段に決め手を与えず寄せ切りました。

里見女流王位としては貫録を示す先勝となりましたが、山根女流二段も切れ味鋭い攻めを魅せ、中盤にはチャンスもあったように思います。終盤力に定評のある両者が、第二局以降も熱戦を魅せてくれることを確信させる好局だったと思います。

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