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「観る将」が観た第3期清麗戦第五局

11月17日に第3期大成建設杯清麗戦五番勝負第五局が、東京将棋会館で行われました。挑戦者の加藤桃子女流三段が2連勝のスタートを切りましたが、里見香奈清麗が巻き返して2勝2敗となり、本局が決着局という形になりました。

先に加藤女流三段が紫色のワンピース、続いて里見清麗が白いシャツ姿で入室します。改めて振り駒が行われ、先手となった里見清麗は初手▲5六歩から中飛車に振り、加藤女流三段は左美濃に囲います。6筋で銀が向かい合う銀対向の形になり、里見清麗は飛先の歩を交換して下段に飛車を引き▲5四歩と垂らします。里見清麗はまだ美濃囲いが完成していませんが、積極的に▲7五歩と仕掛けます。加藤女流三段が20分の熟考で△5二歩と5筋を受けると、里見清麗は7筋の歩を取り込みます。

加藤女流三段は8筋の歩を突き捨て、玉を高美濃に入城させます。ここで里見清麗が28分考えて▲7七桂と援軍を送ると、加藤女流三段は角道を開けて先手の銀の動きを牽制します。里見清麗が金を上がって桂に紐をつけると、加藤女流三段は飛車を7筋に寄せて先手の歩を狙います。里見清麗はわずか5分の考慮で▲6五銀とぶつけて開戦し、5筋の歩を成り捨ててから▲6五桂と銀を取り返して5三の地点に飛角桂を利かせます。加藤女流三段は金取りに△7四飛と飛び出し、先手に7筋を受けさせてから△6四銀と先手の角筋を止めて受けます。

里見清麗は角で銀を食いちぎり▲5三桂成と金取りに飛び込みますが、加藤女流三段は歩の連打で飛車を吊り上げ△3五角と飛車と成桂の両取りに打ちます。里見清麗は飛車を浮いてかわし、加藤女流三段が角で成桂を取ったところで昼休となりました。AIの評価値は加藤女流三段の64%と少し傾いています。各4時間の持ち時間の内、残り時間は里見清麗が2時間28分、加藤女流三段が2時間34分と拮抗しています。

昼休明け、里見清麗は飛車を7筋に寄せて竜作りを目指します。加藤女流三段が3筋の歩を伸ばすと、里見清麗はここでようやく▲3八銀と上がって美濃囲いを完成します。加藤女流三段が△3四飛~△6四角と先手玉のコビンに戦力を集中させると、里見清麗は▲2六歩~▲2七銀打と銀冠を作って備えます。里見清麗は▲6三銀成~▲5三歩と"と金"作りを目指しますが、加藤女流三段は△5四飛と回って受け、△3七角成と角を切っての王手飛車が炸裂し飛車を取り返して竜を作ります。

里見清麗は▲5二歩成と"と金"を作りますが、加藤女流三段は竜を引いて金と銀の交換に収めます。里見清麗が竜角両取りに▲4五桂と跳ねますが、加藤女流三段は△5五角と王手で逃げ△4四竜と桂取りに竜も逃れます。里見清麗が▲4六金と玉のコビンを固めると、加藤女流三段は△4八歩と美濃の急所に叩きを入れ、△6九飛~△6六角と寄せに入ります。AIの評価値は加藤女流三段の84%と大きく傾いてきました。

里見清麗は後手の角を追いながら竜取りに▲7七角と打ち、5九の歩に紐を付けます。加藤女流三段が歩で先手の角の利きを遮ると、里見清麗は更に後手の角を追い先手陣への利きを遮断します。里見清麗の粘りに丁寧に対応してきた加藤女流三段は、1時間以上の残り時間から13分使い、△3六歩の突き捨てから△1五歩の端攻めで先手玉に迫ります。里見清麗は執念の粘りを見せましたが、加藤女流三段が134手目に竜を寄って銀を取ったところで受けなしとなり、無念の投了となりました。

本局は里見清麗が積極的に仕掛けて中央突破を図りましたが、加藤女流三段は丁寧に受け止めてから反撃し、端攻めを絡めて寄せ切りました。この結果、加藤女流三段は3勝2敗で清麗を奪取となりました。加藤女流三冠は奨励会時代に女流タイトルを通算8期獲得していますが、2019年に女流棋士としてデビューしてからは初のタイトル獲得となります。会見では「すごく嬉しい」と笑顔を弾けさせた加藤女流三段でしたが、視聴者への一言を求められると感極まる場面もあり、これまでの長い道のりの苦労を感じさせました。

里見清麗は先日女流王将を奪取して女流五冠に返り咲いていましたが、清麗の失冠により女流四冠となりました。現在西山女流王座への挑戦と、加藤女流三段を挑戦者に迎えた倉敷藤花戦が進行中であり、タイトルを巡る攻防が続いています。厳しい日程となっていますが、タイトル奪取あるいは防衛に向け、持ち味を出し切った将棋を魅せて欲しいと期待しています。

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