「観る将」が観た第33期女流王位戦五番勝負第一局
4月26日に姫路市の夢乃井で女流王位戦が開幕しました。並行して行われているマイナビ女子オープンと同じ、里見香奈女流王位と西山朋佳女流二冠の顔合わせになっています。里見女流王位は3期連続通算7期の女流王位獲得実績があり、前期はタイトル初挑戦だった山根ことみ女流二段を3勝0敗で降して防衛しています。女流棋士に転向して今期から女流王位戦に参戦した西山女流二冠は、予選を突破して挑戦者決定リーグ入りすると5戦全勝で白組優勝し、挑戦者決定戦で紅組優勝の渡部愛女流三段を降して挑戦権を獲得しました。
これまでの2人の対戦成績は、里見女流王位が14勝、西山女流二冠が15勝と拮抗しています。タイトル戦は進行中のマイナビ女子オープンも入れて8度目となり、西山女流二冠が4棋戦連続で制した後、昨年度は里見女流王位が女流王将と女流王座を奪還しています。
戦型は相振り飛車
先に挑戦者の西山女流二冠が桜色のワンピースに黒いカーディガンを羽織って入室し、続いて里見女流王位が白いシャツに紺のスーツ姿で入室します。振り駒で先手となった西山女流二冠が初手▲7八飛と三間飛車に振り、里見女流王位も20手目に△3二飛と相振り飛車の将棋になりました。西山女流二冠が8筋の歩を伸ばして飛車を8筋に振り直すと、里見女流王位は銀を上がって飛先の歩交換を防ぎます。西山女流二冠が▲8六角と上がって7筋の歩を交換すると、里見女流王位も飛先の歩を交換します。
挑戦者が開戦
西山女流二冠が▲7四歩と銀頭を叩くと、この歩を取ると王手銀取りが掛かるので15分考えた里見女流王位は△6二銀と引きます。西山女流二冠は角を引いて飛車の利きを通すと、飛先の歩も交換して中段に引き2筋への転回を狙います。里見女流王位は5筋の歩を突いて先手の飛車の横利きを止めますが、西山女流二冠が▲5六歩とぶつけた手が角道を通して後手の飛車の退路を断つ手を見せています。
里見女流王位は飛車を△3二飛と引き、△6三金と上がって7筋の歩を取りに行きます。西山女流二冠が飛車を7筋に回して歩を支えると、里見女流王位はようやく居玉を解消し矢倉への入城を目指します。西山女流二冠の攻勢を里見女流王位が旨く凌いだようで、形勢互角のまま昼休となりました。各4時間の持ち時間の内、残り時間は里見女流王位が2時間56分、西山女流二冠が2時間30分となっています。
陣形を整えてから女流王位が仕掛け
西山女流二冠は昼休が明けるとすぐ、5筋の歩を伸ばして飛車の横利きを通します。里見女流王位が5筋に歩を打って遮断すると、両者ともいったん陣形の整備に戻り、矢倉を築いて入城します。里見女流王位が先手の飛車を下段に追い返してから飛車を5筋に振り直すと、西山女流二冠は16分の考慮で▲7六銀と前進します。
里見女流王位は9分の考慮で1筋から端攻めを仕掛け、香を吊り上げてから6筋の歩を伸ばします。西山女流二冠が▲8六角と浮いて受けると、里見女流王位は△5六歩と伸ばして角道を通します。西山女流二冠が▲7七桂と跳ねて後手の角のラインを遮断すると、里見女流王位は△6四金と寄って飛車の利きを通します。立会人の糸谷八段は「歩切れの後手が、少し無理をしている印象」と話しています。
挑戦者の馬と女流王位の竜
西山女流二冠は11分の考慮で▲5三歩と垂らし、飛車で取らせてから飛銀両取りに▲6五桂と跳ねます。里見女流王位が△5五飛と浮いてかわすと、西山女流二冠は▲6三歩と叩き、残り時間が1時間を切ったところで▲5八歩と守りに回ります。反撃のチャンスを得た里見女流王位が11分考えて△6七歩成と"と金"を作ると、西山女流二冠は▲7三桂成と銀と交換してから▲6七銀と"と金"を取ります。里見女流王位は角取りに△8五飛と回り、▲4二角成と馬を作らせる代わりに飛車取りで△8八飛成と竜を作ります。
激しい攻防
里見女流王位の残り時間も1時間を切り、金銀両取りに△5五桂と打ち攻め続けます。金桂交換を果たした里見女流王位が飛車取りに△6六角と飛び出すと、西山女流二冠は▲5七銀と打って守りを固めます。里見女流王位は△7七角成と馬を作りますが、西山女流二冠は馬の利きを活かして▲7五歩と反撃します。勝負所と見た里見女流王位は26分の熟考で1筋に狙いを付けて△4四馬と引きますが、西山女流二冠は▲7四歩と取り込み金を上ずらせてから馬取りに▲4五歩と突きます。里見女流王位が△3四馬と辛抱すると、西山女流二冠は更に▲3五歩~▲4六銀左と馬を追います。里見女流王位は△6三馬と自陣に引き付け守りを固めます。
お互いに守りを固めて長期戦か
西山女流二冠は再び▲7五歩と打って攻撃の拠点を作り、更に馬取りに▲6四歩と打ちます。里見女流王位が△5四馬とかわすと、西山女流二冠は更に▲8四歩と歩の連打で後手陣を崩しに行きます。里見女流王位はこの歩を竜で取り、120手を超えて長期戦の様相を呈してきました。西山女流二冠が9分の考慮で馬取りに▲6六桂と打つと、里見女流王位は△6四馬と歩を取りながら馬をぶつけます。西山女流二冠は馬交換に応じ、金取りに▲7四歩と伸ばします。里見女流王位が△6三金とかわすと、西山女流二冠は歩と銀で竜を追い王手で▲5五角と放ちます。
決め手を与えぬ攻防
里見女流王位は歩で王手を避けますが、西山女流二冠は▲1一角成と香を取って馬を作ります。里見女流王位は銀取りに△5五歩と打って馬を呼び戻し、△4四金~△5五歩と馬を封じ込めようとしますが、西山女流二冠は強く▲4五銀とぶつけて金銀交換します。里見女流王位は△6五銀と打って先手の攻撃の拠点となっている桂を取り銀交換しますが、西山女流二冠が▲6七同馬と取った手が竜取りになっています。里見女流王位が角を合わせて馬を消しにいくと、西山女流二冠は▲8三歩成と後手陣を乱してから馬角交換に応じます。
負けられない意地と執念
里見女流王位が△6六同竜と馬を取った手が銀取りになっており、西山女流二冠は後手の金を歩で吊り上げてから銀を守ります。里見女流王位が自陣に銀を投入して傷を消すと、西山女流二冠も▲5七銀と竜取りに打ちます。西山女流二冠は更に竜を追って▲6六角と打ち、▲2二角成と馬を作って桂を取りにいきます。里見女流王位は△4四桂と打ち、桂の利きを活かして歩で先手陣を乱します。西山女流二冠は▲6九香と打って後手の竜を追い、歩で横利きを遮断します。お互いに負けられない執念を感じる指し手が続き、容易に崩れそうもありません。
女流王位の勝負手
西山女流二冠が馬で桂を拾うと、里見女流王位は△6五角と攻防に放ちます。西山女流二冠は取ったばかりの桂で角道を遮断すると、里見女流王位は竜で香を拾って△3七香と金と飛車の田楽刺しに放り込みます。西山女流二冠が金香交換に応じると、里見女流王位はタダ捨ての飛車取りに△2八金と勝負手を放ちます。ここで指し手は200手を超え、両者ともに持ち時間を使い切って1分将棋に突入します。西山女流二冠が玉で金を取ると、里見女流王位は△4七角成と銀を取り返して先手玉のすぐそばに馬を作ります。里見女流王位の強烈なパンチが決まったかに見えます。
ついに決着
西山女流二冠は自陣に金を2枚投じて粘り、金を1枚剥がされたものの馬を取って一息つきます。大駒を得て持将棋模様になれば点数が優位になる西山女流二冠は、ここから上部脱出を図ります。里見女流王位は入玉を妨害しつつ先手の飛車を取りにいきますが果たせません。後手陣には先手の馬と"と金"があって入玉はほぼ確実となり、点数の挽回も困難になった里見女流王位は持将棋を目指さず潔く投了を告げました。両者の思いが込められた239手の激闘は、対局開始から10時間以上を経て20時15分に決着しました。
第一局の結果
本局は200手を超えてもまだどちらが勝つのかわからない大熱戦となりましたが、最後は里見女流王位の勝負手を凌ぎきった西山女流二冠が逃げ切りました。終盤までお互いに相手に決め手を与えない指し手には、両者の負けられない強い想いが感じられる好局だったと思います。
対局直後のインタビューで次局について聞かれ、西山女流二冠は「少し日が開くのでしっかり挑みたい」、里見女流王位は「先後は決まっていますので、体調に気をつけて指したい」と言葉少なく語りました。
並行して行われているマイナビ女子オープンと合わせて、2人による春の十番勝負は始まったばかりです。次局以降も白熱した好局を期待したいと思います。
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