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「観る将」が観た第47期棋王戦五番勝負第二局

2月19日、棋王戦コナミグループ杯五番勝負第二局が、石川県金沢市の北國新聞会館で行われました。前日のインタビューで意気込みを聞かれ、先勝した渡辺明棋王は「第一局も大熱戦だったけれど、今回もそれに勝るとも劣らない将棋を指せるよう頑張りたい」、挑戦者の永瀬拓矢王座は「金沢対局ではケーキが風物詩なので、その点も注目して見ていただきたい」と話しています。

永瀬王座が濃紺のスーツに紺色のネクタイで入室すると、5分程してから渡辺棋王が鼠色の着物に藤色の羽織で入室します。先手の渡辺棋王が相掛かりに誘導し、永瀬王座も受けて立ち中住まいに構えます。20手目まで昨年の王将戦第二局と同じ進行(先後は逆)となりましたが、渡辺棋王は飛先の歩を交換してから手を変え、穏やかに八段目に引きました。

まだ前例のある将棋でしたが、永瀬王座も飛先の歩を交換したところで、25手目に渡辺棋王が▲6六歩と上がって未知の将棋となります。横歩を取る変化もあったようですが、永瀬王座は13分の少考で自陣の角頭に歩を打って傷を消します。渡辺棋王は研究の範囲なのかほとんど時間を使わず、▲4五銀と前進してから▲6五歩と突いて位を取ります。永瀬王座が玉頭の歩を突くと、渡辺棋王は初めて手を止め11分の少考で金を上がって自陣を整備します。

永瀬王座が△3一角と引くと、渡辺棋王は▲6七銀と上がって雁木に組みます。永瀬王座が8筋の歩を合わせ△8六角と取った手が王手となりますが、渡辺棋王はノータイムで▲4八玉と右玉に構えます。永瀬王座は4筋の歩を突いて銀を追い返し、6筋の歩を交換して△6三銀と陣形を整えます。渡辺棋王が次の55手目を考慮中に昼休となりました。形勢はほぼ互角、各4時間の持ち時間の内、残り時間は渡辺棋王も永瀬王座も2時間46分と並んでいます。

昼休前に38分考えた渡辺棋王は、昼休が明けるとすぐ▲4七金と上がります。永瀬王座が△4二銀と引くと、渡辺棋王は角筋を活かして▲4五歩と仕掛けます。永瀬王座は手抜いて△6四歩~△6五歩と6筋の位を取り返し、△6四角と出て先手の金頭を狙います。渡辺棋王は玉を寄って金の逃げ道を作ってから▲4五銀と前進しますが、永瀬王座は△3三銀と戻して受け止めます。

ここで渡辺棋王は18分の熟考で▲9七角と覗いてぶつけます。渡辺棋王の残り時間が1時間を切りました。永瀬王座は角を交換し、4三の地点に角を打ち込まれるのに備えて△4二歩と守ります。渡辺棋王が好所に▲4六角と据えると、永瀬王座は8筋の歩を合わせて飛車を走ります。渡辺棋王は歩を温存し、飛車を引いて後手の飛車成りを防ぎます。AIの評価値は永瀬王座の63%と少し傾いてきたようです。

AIは後手が敵陣に角を打ち込んで攻め込む手を推奨していましたが、永瀬王座は6分の少考で△4一玉と引いて自玉の安全を図ります。AIの評価値は互角に戻ります。永瀬王座が飛車を寄って先手に歩を使わせたところで、永瀬王座の持ち時間も1時間を切りました。渡辺棋王は▲6四歩~▲5四銀と攻め駒を前線に送り込み、手応えを感じているのか羽織を脱ぎます。永瀬王座は何度か首をひねって△4四銀と先手の歩を払いますが、AIの評価値も渡辺棋王の65%と逆転模様です。

渡辺棋王が▲8七歩と飛車を追うと、永瀬王座は飛車を二段目に引きます。渡辺棋王が▲5五銀~▲4五桂と攻め掛かると、永瀬王座は金取りに△6七歩成と攻め合いを選択します。AIの評価値は渡辺棋王の85%と大きく傾きました。ABEMAでは木村九段が「人間が見ても先手勝勢」と解説しています。

渡辺棋王は▲6三歩成と攻めを継続し、永瀬王座は△7八"と"と金を取ります。渡辺棋王が▲6二成桂と金を取ると、永瀬王座は△6二同飛と取りスーツの上着を着ます。永瀬王座はタダで取られる位置に△2六桂と怪しく打ちますが、渡辺棋王は▲3七金と寄って万全を期します。永瀬王座は8分考えましたが、残り3分となり次の手を指さずに投了を告げました。

本局は渡辺棋王が研究手順を見せましたが、永瀬王座もうまく切り返して難解な中盤戦が続きました。渡辺棋王は角を交換してから要所に据え、この角を起点に盤面中央を制圧しました。永瀬王座が飛車を走った辺りではチャンスもあったようですが活かせず、逆に渡辺棋王に踏み込まれてしまいました。渡辺棋王は形勢が好転してからは緩みなく攻め掛かり、最後は永瀬王座の反撃を許さず勝ち切りました。

渡辺棋王は2勝0敗となり、棋王10連覇に王手を掛けました。対局後には「2週間ほど空くので普段通り準備して臨みたい」と語り、自信に満ちた表情を浮かべました。カド番となった永瀬王座は「精一杯準備をして頑張りたい」と語っており、次局は先手番で一矢報いることができるか楽しみにしたいと思います。

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