第2回女流ABEMAトーナメント予選Bリーグ第一試合
10月30日、第2回女流ABEMAトーナメント予選Bリーグ第一試合が放映されました。この日は白玲戦七番勝負に進出した渡部愛女流三段率いるチーム渡部「North」と、清麗戦と倉敷藤花戦で挑戦者となっている加藤桃子女流三段率いるチーム加藤「野生の桃」の顔合わせとなっています。
■一局目 内山あや女流2級 ● vs 〇 加藤桃子女流三段
チーム渡部は今大会最年少の内山女流2級、チーム加藤はリーダーが自ら出陣します。振り駒で先手となった加藤女流三段の誘導で相掛かりの将棋となりました。お互いに飛先の歩を交換し、加藤女流三段は角頭を受けずに▲3六歩と突きます。内山女流2級は飛車を四段目に引き△2三歩と受けて局面を落ち着かせます。加藤女流三段が左右の桂を跳ねて攻めの姿勢を見せると、内山女流2級は△7五歩と桂頭を攻めます。加藤女流三段は▲4五桂~▲6五桂と2枚の桂を跳ねて攻め掛かり、▲2二角から馬を作ります。早くも両者10秒を切り時計のブザー音が鳴り響く中、内山女流2級も馬を作って飛車と刺し違え、△8九飛と金銀両取りに打ち込みます。加藤女流三段は▲8八角と自陣に打って凌ぐと▲4四桂から後手陣に攻め掛かり、粘る内山女流2級を投了に追い込みました。
■二局目 中井広恵女流六段 ● vs 〇 香川愛生女流四段
先勝したチーム加藤は「後手番なので」と香川女流四段が自ら手を挙げて出陣します。後手の香川女流四段が三間飛車に振り、中井女流六段は穴熊に囲います。香川女流四段は美濃囲いに構え、飛先の歩を交換します。中井女流六段が飛車を5筋に回すと、香川女流四段は再び△3六歩と打ち△4五桂と跳ねて突破を狙います。中井女流六段は金で3筋を受けると▲5五歩と飛先の歩を伸ばしますが、香川女流四段は持ち駒の銀を打って手厚く受けます。中井女流六段が2筋に歩を垂らして飛角両取りを狙うと、香川女流四段は飛車で金を食いちぎり、△6七金と飛角両取りに打って後手陣に迫ります。中井女流六段は9筋の端攻めから香を吊り上げ▲4一飛と打ち込みますが、香川女流四段も金と"と金"で先手玉に迫ります。最後は際どい寄せ合いとなりましたが、香川女流四段が角を素抜いて即詰みに討ち取りました。
■三局目 渡部愛女流三段 〇 vs ● 野原未蘭女流初段
チーム渡部がタイムアウトを要求し、広瀬章人監督は渡部女流三段を励まし、渡辺明監督は野原女流初段に将棋盤も使ってかなり具体的な指示をして送り出します。野原女流初段は初手▲9六歩、3手目▲4八銀と英春流の出だしを見せ、相居飛車の将棋となりました。渡部女流三段は角交換して角換わり風の駒組みを進め、野原女流初段は銀冠風に構えます。渡部女流三段が△8四銀と上がって飛車先の突破を狙うと、野原女流初段は▲3七角と自陣に打って後手の飛車を睨みます。渡部女流三段は角を合わせて角交換し、今度は先に△6四角と打って先手の飛車を狙います。野原女流初段は銀を上がって飛車を守ると金銀3枚を前線に繰り出し後手の飛車角を押さえ込み、捕獲した飛車を敵陣に打ってから引き成って竜を作って守りを固めます。渡部女流三段は△3九角成から反撃し、野原女流初段も飛車を見捨てて後手玉に迫りましたが、最後は渡部女流三段が即詰みに討ち取りました。
■四局目 内山あや女流2級 ● vs 〇 香川愛生女流四段
チーム渡部は順番通り内山女流2級を送り出します。後手の香川女流四段が三間飛車に振って美濃囲いに構えると、内山女流2級は急戦調の駒組みから左美濃に囲います。香川女流四段が△3五歩から仕掛けると、内山女流2級は角道を通して馬を作ります。香川女流四段が桂を援軍に送り3筋突破を図ると、内山女流2級は▲4七金と上がって凌ぎます。難解な中盤戦で両者時間が無くなり時計の叩き合いとなりました。香川女流四段が△8四桂~△7四香と小駒で先手の玉頭を攻めると、内山女流2級も竜と馬で後手玉の横から攻め、どちらが勝つのかわからない激闘になりました。香川女流四段の猛攻を強靭な粘りで耐えていた内山女流2級でしたが、最後は痛恨の二歩を犯してしまい反則負けとなりました。
■五局目 渡部愛女流三段 ● vs 〇 野原未蘭女流初段
チーム渡部は相手をリーダーと読んで渡部リーダーが出陣しますが、チーム加藤も順番を変え三局目と同じ顔合わせとなりました。チーム加藤がタイムアウトを要求し、渡辺監督は前回同様に将棋盤を使った指導をして送り出します。三局目と似た出だしになりましたが、渡部女流三段は監督のアドバイスに従い△3三角を保留する工夫を見せます。渡部女流三段は7筋の歩を伸ばして角交換を迫りますが、野原女流初段は▲9七角と覗いて拒否し2筋から反撃します。渡部女流三段が飛車を浮いて2筋の守りにも利かせると、野原女流初段は▲6四角と飛び出し角交換に応じます。野原女流初段は飛車も交換して竜を作りましたが、渡部女流三段も馬と竜を作り先手の竜を捕獲して2枚飛車で攻め掛かります。野原女流初段は後手の竜を奪って息を吹き返し後手玉に迫りますが、渡部女流三段も必死の受けで粘ります。形勢の針が二転三転する大熱戦となりましたが、最後は野原女流初段が即詰み討ち取り289手の激闘を制しました。
■六局目 中井広恵女流六段 ● vs 〇 加藤桃子女流三段
カド番となったチーム渡部ですが、リーダーは激闘疲れでベテランの中井女流六段に託します。先手の中井女流六段が矢倉に誘導し、加藤女流三段も受けて立ちました。中井女流六段が3筋の歩を伸ばしてから▲7五歩と桂頭を攻め、"と金"を作って桂得の戦果を挙げます。加藤女流三段は△3九角から馬を作り、飛車を銀と刺し違えて△7六銀と角金両取りに打ち攻め合いを目指します。中井女流六段も角を見捨てて後手の玉頭から攻め掛かり、攻守に利かせて▲6二飛と打ちます。加藤女流三段は△8八金から先手陣の守備駒を一掃し、△3五馬と自玉に迫る桂を外します。中井女流六段は馬を作って後手玉に迫りますが、加藤女流三段は△6二飛成と竜を守りに利かせてから角で先手の竜と交換し、2枚の竜で先手玉を追い詰めます。中井女流六段は豊富な持ち駒で後手玉を詰ませにいきますが届かず、無念の投了となりました。
【チーム加藤 5勝 vs チーム渡部 1勝】
現在の女流棋界は8つのタイトルを振り飛車党の西山女流四冠と里見女流四冠が分け合っていることもあり、女流タイトル戦では相居飛車の将棋を観ることが稀ですが、この日は6人中5人が居飛車党のため女流の相居飛車の将棋を多く観ることができました。個人的に楽しみにしていた高校生同士の野原女流初段と内山女流2級の対局は実現しませんでしたが、将来この2人が女流タイトル戦で対決する姿を期待したいと思います。
チーム加藤はリーダーの加藤女流三段と香川女流四段が2勝ずつを挙げ、スコア的には圧勝となる原動力となりました。2人とも途中まで押される展開が多かったように思いますが、中終盤のねじり合いで勝利を手繰り寄せる実力者の指し回しを魅せつけました。野原女流初段も英春流の独特の指し回しで2局とも中盤まで優勢の局面を築き、五局目には相手のリーダーを破る殊勲の星を挙げました。渡辺監督はタイムアウトの際にはかなり具体的な戦術を示しており、メンバーにとっては頼りがいのある監督ぶりだったと思います。
チーム渡部はリーダーの渡部女流三段の1勝に終わりました。しかし中井女流六段も内山女流2級も中盤までリードする展開が多く、スコアほどの差はないように感じました。内山女流2級は反則負けの後遺症が心配ですが、応援に回った控室では笑顔も魅せており、次戦では名誉挽回の白星を期待したいと思います。
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