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「観る将」が観た第46期棋王戦五番勝負第四局

3月17日、東京の東郷神社で行われた棋王戦第四局を観た感想です。
渡辺棋王が2勝1敗と、9連覇に王手を掛けて迎えた1局です。糸谷八段としては先手番の本局に勝ち、最終局に決着を持ち越したいところです。

本局は第二局と同様、角換わりの将棋となりました。糸谷八段は▲1五歩と1筋の位を取りましたが、第二局では1筋から反発されて形勢を損ねており、本局では右桂の活用の前に腰掛け銀に構える工夫を見せました。これを見た渡辺棋王も、第二局で見せた早繰り銀ではなく棒銀に作戦を変えてきました。渡辺棋王が7筋から仕掛けると、糸谷八段は9筋も位を取って対抗します。ここまで両者ほとんど時間を使わず、研究範囲であることを感じさせます。

渡辺棋王は7筋の歩を取り込んで相手陣を乱すと、自玉を悠々と矢倉に入城し金銀3枚で固めます。糸谷八段は40分の熟考の上、居玉のまま▲4五銀と前進させます。渡辺棋王は△7二飛と寄って▲7一角と自陣に打ち込まれるのを防ぎましたが、糸谷八段は△8三角と打ちこんであくまでも馬を作りにいきます。ここで昼休となりましたが、形勢はまだ互角のようです。糸谷八段がこの馬を活かせるかどうかが、本局の行方を左右することになりそうです。

昼休明け、渡辺棋王は銀交換から攻め合いを選択します。△5六歩から相手陣に角を打ち込み馬を作った辺りでは、形勢も渡辺棋王に傾き始めたようです。自玉が薄い糸谷八段は、馬を自陣に引き付けて粘りますが、相手陣への攻撃の糸口が見出せません。渡辺棋王は飛車取りを放置して、2度目の△5六歩から寄せに入ります。形勢は大きく渡辺棋王に傾きました。

糸谷八段は取った飛車を敵陣に打ち込み反撃しますが、渡辺棋王の攻撃に自陣の金銀を全て剥がされ、玉を中段まで逃げ出します。渡部棋王は上下から包囲網を築き、最後は即詰みに討ち取りました。

本局は第二局と似たような駒組みから、糸谷八段が居玉のまま仕掛ける工夫の手順を見せましたが、渡辺棋王に適切に対処されると徐々に苦しい状況に陥りました。渡辺棋王は、第一局や第三局で苦しめられた糸谷八段の粘り腰も封じ込め、自陣はほとんど無傷のまま完勝となりました。

この結果、渡辺棋王は3勝1敗で防衛に成功し9連覇を達成しました。3日前の王将戦に続く防衛によりタイトル獲得通算28期となり、谷川九段の27期を抜き歴代単独4位となりました。4月に開幕する名人戦に向け、弾みとなる記録達成だと思います。

糸谷八段は、本シリーズでは先手番で得意の角換わりを封じられ、序盤に形勢を損ねてしまう将棋が多かったのは残念です。しかし第一局や第三局では、開幕前に自身が観て欲しいと語っていた「玉捌き」を魅せ、糸谷八段らしさを垣間見せることはできました。次の機会には、四強の一角を崩してタイトル奪取できるよう期待したいと思います。

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