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第2回女流ABEMAトーナメント本戦準決勝第一試合

11月20日、第2回女流ABEMAトーナメント本戦準決勝第一試合が配信されました(諸事情で23日に視聴しました)。この日はBリーグ1位のチーム西山「ウォリアー」と、Aリーグ2位のチーム里見「不動」の顔合わせとなっています。両チームのリーダーは、ともに予選を6戦全勝と圧倒的な強さを見せており、リーダー対決が実現するのかどうか注目されます。

■一局目 上田初美女流四段 ● vs 〇 里見咲紀女流初段
一局目からチーム西山がタイムアウトを要求し、中村太地監督は「相手の迫力にビビらずに」、藤井猛監督は「自然体でいきましょう」と送り出します。先手の里見女流初段が中飛車に振ると、予選では振り飛車穴熊で戦っていた上田女流四段は居飛車穴熊で迎え撃ちます。里見女流初段は飛車を浮いてダイヤモンド美濃に囲い、銀を前進させて高美濃に組み替えます。上田女流四段も飛車を浮いて9筋の位を取ると、里見女流初段は8筋から仕掛けます。上田女流四段は飛車をぶつけて交換し、お互いに敵陣に飛車を打ち合います。里見女流初段は角で金を食いちぎり▲9一飛成と香を取って竜を作ると、▲2五桂から後手陣の金を剥がして寄せに入ります。上田女流四段は△6四角と竜取りで守りにも利かせますが、里見女流初段は竜も切って鮮やかに寄せ切りました。

■二局目 山口恵梨子女流二段 ● vs 〇 清水市代女流七段
初戦を落としたチーム西山は、清水女流七段の独特の形に準備をしてきたと言う山口女流二段が出陣します。先手の山口女流二段が初手▲5六歩から中飛車に振り、対抗形の将棋となりました。山口女流二段が▲5七銀~▲4六銀と左銀を前線に送り出すと、清水女流七段は△7五歩と先手の角頭から仕掛けます。山口女流二段は積極的に▲5五歩と反発し、美濃囲いを完成してから▲7五金と飛車にぶつけます。清水女流七段が飛車を引くと、山口女流二段は▲9五角と出て攻撃を加速します。清水女流七段が先手の角を攻めると、山口女流二段は▲5五銀~▲6四銀と一気に攻め掛かります。清水女流七段は飛車を切って金銀との2枚替えとしますが、山口女流二段は馬と竜を作ります。清水女流七段は△6七銀と先手の飛車を攻め、△5七角成と馬を作って攻め合いに持ち込みます。両者とも時間との戦いになりましたが、最後は清水女流七段が飛車を捕獲し、香と桂で先手の玉頭から攻め掛かり寄せ切りました。

■三局目 西山朋佳女流三冠 〇 vs ● 里見咲紀女流初段
2連敗のチーム西山はリーダーを投入し、チーム里見はリーダー対決を避け里見女流初段を投入します。お互いに7筋と3筋の歩を伸ばし、相三間飛車の将棋となりました。里見女流初段が先に飛先の歩を交換して▲7六飛と引くと、西山女流三冠も飛先の歩を突き捨て角交換後に△5五角と銀香両取りに打ちます。里見女流初段は▲7七角と合わせますが、西山女流三冠は再度角交換後に今度は△5四角と飛車取りに打ちます。西山女流三冠は飛車を王手でぶつけて飛車交換し、里見女流初段が香取りに▲6六角と打つのに構わず、指をしならせて銀取りに△8九飛と打ち込みます。里見女流初段は桂を犠牲に角で銀に紐を付け▲1一角成と馬を作りますが、西山女流三冠は△3三歩と馬の利きを止めて△2四香と飛車取りに打ちます。里見女流初段は金銀を玉側に集めて粘りますが、西山女流三冠は慌てずに寄せ切りました。

■四局目 山口恵梨子女流二段 〇 vs ● 清水市代女流七段
チーム西山は自ら手を挙げた山口女流二段が出陣し、二局目と同じ顔合わせとなりました。チーム里見がタイムアウトを要求し、中村監督は具体的な指し手をアドバイスし、藤井監督は「大丈夫」と励まして送り出します。二局目と同じ出だしになり、先手の山口女流二段が中飛車に振ります。清水女流七段が△5三金と上がって手を変えると、山口女流二段は美濃囲いを完成させてじっくりした駒組みが続きます。清水女流七段が△5五歩と仕掛けると、山口女流二段は7筋の歩を突き捨て▲9五角から馬を作って飛車と交換します。清水女流七段は金を前進させて先手の飛車を攻めますが、山口女流二段も▲7二飛と打ち込み▲5四歩と反撃します。山口女流二段は▲6三飛成と竜を作り、この竜を取らせる間に後手陣を崩します。清水女流七段も△5五角と飛び出して先手の玉頭から攻め掛かり、際どい終盤戦となりましたが、最後は山口女流二段が即詰みに討ち取り激闘を制しました。

■五局目 山口恵梨子女流二段 ● vs 〇 里見香奈女流四冠
チーム里見は満を持してリーダーが登場し、チーム西山は勢いに乗る山口女流二段の連投です。先手の里見女流四冠が中飛車に振ると、これまで中飛車を連投してきた山口女流二段は居飛車で臨みます。里見女流四冠が▲6五銀と出ると、山口女流二段は少し時間を使って△4三金と受け穴熊を断念します。山口女流二段が飛車を浮き△7六飛と角頭の歩を取ると、里見女流四冠は▲7二歩と垂らして"と金"作りを狙います。山口女流二段が飛車を角と交換し△6八角成と馬を作ると、里見女流四冠も▲8二飛と打ち込み竜を作ります。山口女流二段は先手の玉頭から攻め込みますが、里見女流四冠は自陣に桂を打って凌ぎ▲3五桂から反撃します。山口女流二段は自陣に金を2枚投入して粘りましたが、里見女流四冠が鮮やかな即詰みに討ち取りました。

■六局目 上田初美女流四段 ● vs 〇 里見香奈女流四冠
チーム里見はリーダーの連投です。後手の里見女流四冠がいきなり9筋の位を取る工夫を見せ、角交換後に向かい飛車に構えます。上田女流四段が銀冠に組むと、里見女流四冠は美濃囲いに組んでから△2四歩と仕掛けます。上田女流四段は▲6六角と後手の飛車を睨みますが、里見女流四冠は2筋を突破し竜を作ります。上田女流四段も▲4一飛成と竜を作りますが、里見女流四冠は力強く△1四角と竜金両取りに打ちます。上田女流四段は竜を切って攻め合いますが、里見女流四冠は2枚目の飛車を敵陣に打って鮮やかに寄せ切りました。

■七局目 西山朋佳女流三冠 〇 vs ● 清水市代女流七段
後がなくなったチーム西山はリーダーが出陣します。先手の清水女流七段が落ち着いた手つきで飛先の歩を伸ばし、西山女流三冠は中飛車に振ります。西山女流三冠が角交換してから飛先の歩を交換すると、清水女流七段は▲6六銀と飛車を追い返し▲5五歩と5筋の位を確保します。清水女流七段が早くも時間に追われる中、西山女流三冠は悠然と美濃囲いから銀冠に組み替えます。清水女流七段は飛先の歩を交換してから▲3六歩と仕掛けると、西山女流三冠は相手の飛車がいる2筋の歩を伸ばします。清水女流七段は▲3四歩と桂頭を叩きましたが、西山女流三冠は△2五桂と伸ばした歩の上に跳ね先手の飛車を押さえ込みます。清水女流七段が銀を引いて角道を開けると、西山女流三冠は△6四角と打って先手の飛車を睨みます。3分40秒ほど残していた西山女流三冠は1分以上考えて△8四桂と打ち、△7六桂~△3九飛成と竜を作って攻め込みます。西山女流三冠は△6八銀と詰めろで打ち込み飛車を入手すると、△1五角~△2九飛と怒涛の攻めを魅せ2枚竜で寄せ切りました。

■八局目 上田初美女流四段 〇 vs ● 里見咲紀女流初段
チーム里見は里見女流初段が手を挙げ、上田女流四段はリーダーに絶対回すと宣言し、一局目と同じ顔合わせになりました。チーム里見がタイムアウトを要求し、中村監督は「後ろにリーダーが控えているので伸び伸びと」、藤井監督は「ここまできたら思い切りやるだけ」と送り出します。先後は逆ですが一局目と同様に上田女流四段が居飛車、里見女流初段が中飛車に振ります。上田女流四段が慎重に時間を使って穴熊を選択すると、里見女流初段は美濃囲いに構えます。上田女流四段が角を引いて右辺に転回させようとした瞬間、里見女流初段は△6五歩と仕掛けます。上田女流四段が飛先の歩を突き捨ててから▲8六角と飛び出すと、里見女流初段は6筋の歩を取り込んでから△6四歩と先手の角成を防ぎます。里見女流初段は角を捌いて△3九角成と馬を作りますが、上田女流四段も飛車を走って竜を作ります。上田女流四段は▲5五桂から後手陣に攻め掛かり、最後は▲7五飛と攻防に打って即詰みに討ち取りました。

■九局目 西山朋佳女流三冠 〇 vs ● 里見香奈女流四冠
フルセットにもつれ込み、ここまで予選から8戦全勝同士のリーダー対決が実現しました。チーム西山がタイムアウトを要求し、中村監督は時間の使い方をアドバイスし、チーム西山は円陣を組んで送り出します。あらためて振り駒が行われ、先手となった西山女流三冠は珍しく初手に10秒程時間を使って▲5六歩と突き中飛車に振ります。里見女流四冠も少考して三間飛車を選択し、相振り飛車の将棋となりました。お互いに高美濃に囲い、西山女流三冠が9筋の位を取ると、里見女流四冠は飛車を2筋に振り直し飛先の歩を交換します。西山女流三冠が▲6六角~▲7七桂と9筋に狙いを付けると、里見女流四冠は矢倉に組み替え△8四銀と出て迎え撃ちます。西山女流三冠は構わず▲8五桂と跳ね、9筋の端攻めを決行します。里見女流四冠が△7六歩と垂らして"と金"攻めを狙うと、西山女流三冠は▲9三桂成と香を取り歩の裏から▲7五香と金取りに打ちます。西山女流三冠は▲8一"と"とタダ捨てで後手玉を下段に落とし、▲7三香成と桂を取って▲8五桂と金銀両取りに打ちます。里見女流四冠の持ち時間が1分を切りましたが、西山女流三冠はまだ4分残しています。お互いに相手に決め手を与えない大熱戦となりました。

里見女流四冠が"と金"を作ると、西山女流三冠は▲4四銀と打って角道を止め、飛車で"と金"を払います。西山女流三冠が9筋の歩を突いて後手の玉頭を攻めると、里見女流四冠は△5七歩成~△6四桂と飛銀両取りに打ちます。西山女流三冠は後手の角のラインに飛車を逃げますが、里見女流四冠は交換せずに△2六歩から先手玉に迫ります。里見女流四冠が△5七銀と角金両取りに打ち、西山女流三冠は1分以上考えて▲7四歩と金取りに打って後手玉に迫ります。里見女流四冠は△3八銀不成の王手から2枚角で先手玉を包囲しますが、西山女流三冠は▲7三歩成と金を取ってから少し迷った手つきで▲4六飛と角を1枚剥がします。里見女流四冠は自信ありげな手つきで△2八金と王手し、詰むや詰まざるやの攻防となりました。里見女流四冠は9連続王手で迫りましたがわずかに詰まず、詰めろを掛けて下駄を預けます。2分近く残していた西山女流三冠でしたが、わずか数秒の考慮で読み切り▲5六香から即詰みに討ち取りました。フィッシャールールとは思えない感動の名局での決着となりました。

【チーム西山 5勝 vs チーム里見 4勝】
チーム西山は、リーダーが予選からの連勝を9まで伸ばしチームを牽引しました。終盤まで時間に追われることのない戦いぶりは、フィッシャールールへの高い適応力を感じさせます。作戦会議室で穏やかに仲間を勇気づける雰囲気からは想像できない、盤上での圧倒的な強さは観る者を惹きつけます。上田女流四段は自身2連敗のスタートとなりましたが、カド番の八局目では力強い将棋を魅せて決着局につなぎました。山口女流二段も貴重な1勝を挙げ、八局目以降は涙を浮かべて応援する姿がチームを鼓舞する原動力となりました。
チーム里見は里見女流初段と清水女流七段で2連勝の好スタートを切り、リーダー対決を避けてリーダーに残り3勝してもらう作戦が奏功したように見えました。しかしフルセットとなり決着局がリーダー対決になったのは誤算だったのかもしれません。しかし最高の場面で最高の対局を魅せてくれたリーダーと貢献したメンバー全員に盛大な拍手を贈りたいと思います。
どちらのチームが勝ってもおかしくない素晴らしい試合でしたが、チーム西山の「西山さんが本当に素晴らしい人なので、西山さんを優勝させたい」という執念が、わずかに相手を上回ったように感じます。チーム西山には決勝でも素晴らしい戦いを魅せて欲しいと思います。

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