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「観る将」が観た第29期倉敷藤花戦三番勝負第二局、第三局

11月20-21日、第29期大山名人杯倉敷藤花戦三番勝負の第二局と第三局が倉敷市芸文館で行われました。第一局に先勝した里見香奈倉敷藤花が防衛を果たすのか、17日に行われた清麗戦第五局に勝って清麗を奪取したばかりの加藤桃子清麗が倉敷藤花も奪取するのか、注目の三番勝負となりました。前日に行われた歓迎会では倉敷市長や主催者とともに対局者も挨拶し、里見倉敷藤花は「今持っている力をすべて出しきれるように盤上に集中して頑張りたい」、加藤清麗は「自分の力を目いっぱい盤上に表現できたらと思っています」と話しています。

第二局

挑戦者の加藤清麗がグレーのワンピースに濃紺のジャケット、里見倉敷藤花が茶色のブラウスに白いスーツと対照的な装いで登場し、先手の里見倉敷藤花は初手▲5六歩と突きます。清麗戦第五局と同じ駒組みが進み、里見倉敷藤花は中飛車に振り、加藤清麗は左美濃に構えます。里見倉敷藤花が先に手を変え、左銀を前進する前に▲3八銀と上がって美濃囲いを完成させます。

里見倉敷藤花が▲5六銀と上がり▲6五歩と積極的に仕掛けると、加藤清麗は△7三桂と跳ねて銀を追い返し△6二飛と寄ります。里見倉敷藤花も飛車を6筋に寄せて対抗しますが、加藤清麗は構わず△6四銀と前進します。里見倉敷藤花は▲9五角と飛び出し後手の銀が動くと角が成り込める形にしますが、加藤清麗は△9四歩~△8二飛と先手の角を追い△8六歩と8筋突破を図ります。

里見倉敷藤花が6筋から反発すると桂交換に続いて銀交換となり、加藤清麗は△5六銀と飛角両取りに打ちます。里見倉敷藤花は▲6一飛成と竜を作りますが、加藤清麗は△5七銀不成と角得の戦果を挙げます。苦しくなった里見倉敷藤花は▲2六桂と玉頭攻めを見せますが、加藤清麗は自陣の飛車を竜金両取りにぶつけて竜を消しに行きます。里見倉敷藤花が▲3四桂と王手し、加藤清麗がかわしたところで昼休となりました。形勢は早くも加藤清麗に傾いているようです。各2時間の持ち時間の内、残り時間は里見倉敷藤花が1時間0分、加藤清麗が1時間1分と拮抗しています。

昼休明け、里見倉敷藤花が竜飛交換に応じ▲6三歩~▲6一飛と"と金"作りを狙うと、加藤清麗は△6六飛と防いでから△7八角と自玉に迫る桂を取りに打ちます。里見倉敷藤花は▲9一飛成と香を取って▲6九香と飛車取りに打ちますが、加藤清麗は△6七桂と金取りに打って切り返します。

攻め合いに活路を見出したい里見倉敷藤花は2度目の▲2六桂から▲3四銀と攻撃の拠点を作りますが、金銀3枚と馬に守られた後手陣は鉄壁で容易には崩せません。里見倉敷藤花が▲9三角と打って自陣に利かすと、加藤清麗は飛車を竜金両取りにあてて竜飛交換し△8八飛~△8四歩で角の利きを止めます。懸命に粘った里見倉敷藤花でしたが、銀1枚の守りでは持ちこたえられず、加藤清麗が△8九飛成と詰めろを掛けると投了を告げました。

本局は加藤清麗が序盤に得た駒得を活かして優勢を拡大し、自陣を固めて着実に攻め切った快勝譜となりました。これで両者1勝1敗となり、決着は翌日の第三局に持ち越されました。対局後の記者会見で、加藤清麗は「明日があることが本当に嬉しい」「いつも通りのびのびと指せたらいいなと思います」、里見倉敷藤花は「明日は自分の力を出し切れるように集中して迎えられたらと思います」と話しています。

第三局

あらためて振り駒が行われ、先手となった加藤清麗が飛先の歩を突くと、里見倉敷藤花は中飛車に振ります。里見倉敷藤花は他の振り飛車もこなしますが、清麗戦から続く加藤清麗との8局は、すべて中飛車を採用しました。加藤清麗は超速3七銀で対抗し、4筋で銀が向かい合う銀対向の形になりました。しばらく第一局と同じ進行でしたが、27手目に加藤清麗が9筋の端歩を突き前例を離れます。

里見倉敷藤花が飛車を3筋に回すと、加藤清麗は2筋の歩を突き捨て▲5五銀とぶつけます。里見倉敷藤花が構わず3筋の歩を伸ばすと、加藤清麗は銀交換してから3筋の歩を取ります。ここで里見倉敷藤花は29分の熟考で△3三飛と浮きます。加藤清麗が強く▲4四角と飛車取りに飛び出し、里見倉敷藤花が△4三飛とかわすと、先手は馬を後手は竜を作って激しい中盤戦に突入します。

加藤清麗が▲5五馬と攻防の要所に引き付けると、里見倉敷藤花は角をぶつけて馬を消します。加藤清麗も▲2三飛成と竜を作り▲5六香と金取りに打ったところで昼休となりました。形勢は、香得の加藤清麗が押しているように見えます。残り時間も里見倉敷藤花が44分、加藤清麗が1時間18分と30分程差が付いています。

昼休明け、里見倉敷藤花が歩の3連打で△5三金と成香を取ると、加藤清麗はこの金を取らずに▲2一竜と桂の方を取ります。里見倉敷藤花が△5二金引と陣形を整えると、加藤清麗は▲5五角と天王山に据えます。里見倉敷藤花は△6四歩で角の利きを止め、△5四銀と角を追ってから△6五香と先手の歩の裏から金2枚の田楽刺しに打ちます。加藤清麗は▲6六銀と手堅く受けますが、里見倉敷藤花は△4九角と先手の守りの金に狙いを付けます。里見倉敷藤花の迫力ある攻撃で、形勢は混沌としてきたようです。

加藤清麗は▲3四馬と引いて、自陣の金に紐を付けるとともに後手の守りの金を狙います。里見倉敷藤花は構わず△6六香から先手陣を崩し、金を取りながら△7六同角成と馬を作り先手玉に迫ります。加藤清麗は▲7七香と打って馬を引かせ▲8八玉と早逃げしますが、里見倉敷藤花は△7九金と打って寄せに入ります。

加藤清麗は1分将棋になるまで考えて▲6一竜と金を食いちぎり、▲6三歩成~▲6一馬と後手玉に迫って下駄を預けます。里見倉敷藤花は8分程残していましたが、ノータイムで△7八竜と金を食いちぎって詰ませにいきます。やはり先手玉には即詰みが生じていたようで、加藤清麗は数手指し続けましたが△7七金を見て無念の投了となりました。

本局は加藤清麗が昼休辺りまで少し優勢の局面を築いたかと思われましたが、里見倉敷藤花は先手の角を攻めて自陣の安全を確保してから反撃に転じ、出雲のイナズマと呼ばれる怒涛の攻撃で一気に寄せ切りました。両者の激しい攻防には見応えがあり、決着局に相応しい熱戦だったと思います。

里見倉敷藤花が防衛

里見倉敷藤花は2勝1敗で防衛に成功し、7連覇を達成しました。終局後の大盤解説会で、里見倉敷藤花は「一手一手時間を使いながら、全力は尽くせたかなと思っています」、加藤清麗は「思いきって自分らしい将棋は指せたかなと思います」と話しました。両者が持ち味を出し切った、素晴らしいシリーズだったと思います。

里見倉敷藤花は、中飛車の連投で直前に失冠した清麗戦の借りを返す形となり、第一人者の執念を感じさせました。加藤清麗は「やはり悔しいですね、負けるのは」と二強の一角を崩してタイトルホルダーとなった意地を感じさせており、今後もタイトル戦で二強に挑む姿を期待したいと思います。

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