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「観る将」が観た第93期棋聖戦挑戦者決定戦

4月25日、棋聖戦決勝トーナメントの決勝が行われました。決勝トーナメントで島九段、三浦九段、久保九段を降した渡辺明名人と、丸山九段、西田五段、佐々木(大)六段を降した永瀬拓矢王座の顔合わせとなりました。2人のタイトルホルダーが順当に勝ち上がり、2期続けて同じ顔合わせでの挑戦者決定戦となります。両者の対戦成績は渡辺名人の19勝6敗で、先月まで行われていた棋王戦五番勝負でも渡辺名人が3勝1敗で防衛を果たしています。


戦型は矢倉対雁木

振り駒で先手となった渡辺名人は、1分程目をつぶって考えてから初手に角道を開け矢倉を選択します。永瀬王座が急戦調の駒組みを進めると、渡辺名人は飛先の歩を交換して角で取り▲4六角と引きます。永瀬王座が△4四歩~△4三銀と雁木に構えて1筋の位を取ると、渡辺名人は▲6八角と引きます。永瀬王座が△3一角と引き、渡辺名人が次の43手目を考慮中に昼休となりました。AIの評価値は全くの互角、各4時間の持ち時間の内、残り時間は渡辺名人が3時間18分、永瀬王座が3時間4分と拮抗しています。

陣形の組み換え

渡辺名人は昼休を挟み20分の考慮で、4八にいた銀を▲5九銀~▲5八銀と位置を変えます。永瀬王座が△4二角と上がると、渡辺名人は▲4六角と戻します。永瀬王座は11分の少考で△2四歩と伸ばし、渡辺名人が入城すると△2三金と出て歩を支えます。渡辺名人が▲6九銀~▲6八銀上と更に自玉に寄せる間に、永瀬王座は△3二玉と上がって少し珍しい陣形に組み替えます。AIの評価値は永瀬王座の60%と少し傾いてきました。

千日手は名人が打開

永瀬王座が△6二金と寄ると、渡辺名人は2筋の歩を合わせて交換し相手に手番を渡します。永瀬王座も金の往復で手を渡し、千日手の気配が漂いましたが、渡辺名人は▲9八香と上がり穴熊を目指して打開します。永瀬王座はこの機を捉えて△6五歩と仕掛け、角取りに△4五歩と伸ばします。渡辺名人が角を引くと、永瀬王座は桂取りに△6四角と出ます。渡辺名人が飛車で桂を守ると、永瀬王座は△3三桂と跳ねて援軍を送ります。後手陣の駒が前へ前へと伸びていくのに対し、先手陣は次第に身動きが取り辛くなっているようです。

後手玉は安全地帯へ

渡辺名人は辛抱して穴熊を完成し4筋の位を奪還しますが、永瀬王座は9筋の歩を突き捨ててから8筋の歩も突き捨て角を交換します。永瀬王座はすぐに△4九角と飛車取りに打ち込み、"と金"と馬を作って右辺を制圧します。渡辺名人は追われた飛車で後手陣に攻め掛かりますが、永瀬王座は丁寧に応じて押さえ込むと、自玉は制圧した右辺への上部脱出を図ります。AIの評価値は永瀬王座の74%と大きく傾いています。

盤石の寄せ

渡辺名人は桂と歩で金を奪いますが、永瀬王座は金を取らせる間に上部開拓を進め入玉を目指します。渡辺名人は飛車で銀を食いちぎり、銀と金で後手玉の入玉阻止を図りますが、永瀬王座はその間に先手玉に迫ります。穴熊に収まり相入玉が望めない渡辺名人は、後手の馬を取って形を作ると自玉が受けなしになったところで投了を告げました。

藤井聡太棋聖への挑戦者

本局は永瀬王座が先手の飛車がいる2筋の歩を突いて作った陣形が安定し、渡辺名人としては自身がブログに記した通り「先手番ながら千日手で仕方がなかったかもしれません」。永瀬王座は3期連続で棋聖戦の挑戦者決定戦に挑み、三度目の正直で藤井棋聖への挑戦権を獲得しました。対局後のインタビューで「藤井棋聖の凄さは自分が一番わかっているので、なりふり構わずやらないと勝負にならないという印象」と話しており、白熱した五番勝負を期待したいと思います。

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