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「観る将」が観た第11期女流王座戦第三局

12月7日、第11期リコー杯女流王座戦五番勝負第三局が、神奈川県秦野市の元湯陣屋で行われました。カド番に追い込まれた西山朋佳女流王座が巻き返すのか、清麗を失冠した里見香奈女流四冠が一気に奪取して五冠に返り咲くのか、注目の一局となりました。

先に里見女流四冠がダークブラウンのスーツ、西山女流王座が黒のブラウスと濃緑色のスカートで入室します。先手の里見女流四冠が初手▲5六歩から中飛車に振ると、西山女流王座は2手目△3四歩から向かい飛車に振り相振り飛車の将棋となりました。里見女流四冠はあまり見かけない左玉に構えると、西山女流王座は高美濃に囲います。西山女流王座が先に飛先の歩を交換すると、里見女流四冠は4筋の歩を突き捨ててから飛車を4筋に振り直します。

里見女流四冠が▲4五桂と跳ねてから▲5四歩と角道を開けると、西山女流王座は角を交換して△4五銀と桂を食いちぎります。里見女流四冠は▲4五同飛と飛成を見せますが、西山女流王座は手抜いてわずか1分の考慮で△2六歩と飛先の歩を突きます。ここまで9分しか消費していなかった里見女流四冠が長考に沈み、40分考えたところで昼休となりました。いきなり終盤戦に突入しかねない激しい局面を迎えています。各3時間の持ち時間の内、残り時間は西山女流王座が2時間15分、里見女流四冠が2時間11分となっています。

里見女流四冠は昼休を挟む73分の大長考の末、▲4一飛成と決戦を挑みます。西山女流王座が△2七歩成から竜取りに△1四角と打つと、里見女流四冠は▲3一竜と飛車を追い▲4五銀と出て後手の飛車の活用を防ぎます。西山女流王座が△4一歩と竜の横利きを遮断すると、里見女流四冠は▲4四角と飛香両取りに打って駒得の拡大を図ります。西山女流王座は手抜いて△8四桂と先手の玉頭を狙うと、里見女流四冠も▲8五桂と跳ねて後手玉の退路を断ちます。お互いに強気の応酬が続き、里見女流四冠の残り時間が早くも1時間を切りました。

西山女流王座は銀取りに△7六桂と跳ねますが、里見女流四冠は手抜いて角を飛車と交換し▲5四銀と金を取ります。西山女流王座は取れる銀を取らずに△3六角と飛び出し先手の金を睨みますが、里見女流四冠は▲7七銀と桂頭に上がってかわします。西山女流王座は△5四角と銀を取って桂に紐を付けますが、里見女流四冠は▲4一竜と歩を払って竜の横利きを復活します。西山女流王座の残り時間も1時間を切り、△5二銀と打って竜を追います。

里見女流四冠は▲4六竜と桂取りに引きます。後手陣は桂に弱く、西山女流王座は"と金"で竜を追いますが、里見女流四冠は▲5四竜と角と交換してから▲2一飛成と桂を入手します。形勢ははっきり傾いてきたようですが、西山女流王座は△5七角成~△4六飛と反撃し、里見女流四冠が▲6六桂と詰めろを掛けると馬で食いちぎって粘ります。里見女流四冠が更に▲7三桂打と詰めろを掛けると、西山女流王座は3分程考え次の手を指さずに無念の投了となりました。

本局は里見女流四冠が序盤に工夫を見せ、西山女流王座が思い切りのよい踏み込みで挑みました。里見女流四冠は大長考の末、一歩も引かずに攻め合いを選択し、お互いに一手も間違えられない激しい将棋となりました。里見女流四冠が75手目に竜をいったん引いて自陣の玉頭に迫る桂を狙ったのが好判断だったようで、西山女流王座の攻撃が続かなくなってしまったように思います。

この結果、里見女流四冠は3勝0敗で女流王座を奪還し、通算5期目となるためクイーン王座の資格も獲得しました。今秋は4つのタイトル戦を戦い、女流王将と女流王座を奪取、倉敷藤花を防衛、清麗を失冠して女流五冠になっています。対局後の取材では「短い間隔で対局が続いていくなかで、体調を崩すことなく自分なりに精いっぱい戦うことができた」と話しています。年明けには伊藤女流三段を挑戦者に迎えて女流名人の防衛戦があり、どのような将棋を魅せてくれるのか楽しみです。

西山女流王座は女流王将に続いて女流王座も失冠しましたが、初代白玲を戴冠しており女流二冠となりました。4月に女流棋士に転向し、奨励会員の立場では出場できなかった女流棋戦の予選に参加していますので、これからも両者の意地がぶつかり合う白熱のタイトル争いを期待したいと思います。

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