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「観る将」が観た第71回NHK杯決勝

3月20日、第71回NHK杯の決勝が放映されました。ともに初めての決勝となる、豊島将之九段と松尾歩八段の顔合わせとなっています。豊島九段は、服部四段、丸山九段、佐藤(天)九段、羽生九段を破って勝ち上がりました。松尾八段は、伊藤(匠)四段(当時)、三浦九段、郷田九段、千田七段、深浦九段を降して勝ち上がっています。両者とも今年度は苦難の年となりましたが、どちらが年度末に大輪の花を咲かせるのか楽しみな一局となりました。

振り駒の結果、先手となった松尾八段が相掛かりに誘導し、豊島九段も受けて立ち先に飛先の歩を交換します。お互いに中住まいに構え、豊島九段が飛先の歩を合わせると、松尾八段は少し時間を使って▲8六同歩と応じます。豊島九段が△8六同飛と走ると、松尾八段は更に少考して▲6六歩と角道を止めます。解説の佐藤(康)九段が珍しいという構想に、豊島九段も少し考えてから7筋の横歩を取ります。松尾八段がここで飛先の歩を交換すると、豊島九段は更に熟考して持ち時間を使い切り考慮時間も2回使って△8六歩と垂らします。

松尾八段も持ち時間を使い切り、▲6七玉と顔面受けで飛車を追い、▲8七歩と合わせて後手の垂れ歩を取り除きます。豊島九段が△2三歩と打って先手の飛車を追い返し△6四歩と突くと、松尾八段は飛車取りに▲8六金と上がります。豊島九段が構わず角取りに△8七歩と打つと、松尾八段はやむなく▲8七同金と引き下がります。歩で手得した豊島九段が△6五歩と畳み掛けると、松尾八段は▲7七歩と角道を止めます。豊島九段は△6六歩と楔を打ってから飛車を8筋に戻して引き上げます。AIの評価値は豊島九段の58%と少し傾いています。

お互いに駒組みに戻って自陣を整備し、松尾八段は玉を3八まで移動して右玉に構えます。豊島九段が飛車を6筋に回して△5四銀と上がって飛車の利きを通すと、松尾八段は▲6八歩と打って辛抱します。豊島九段は△4四角と飛び出しますが、松尾八段が▲4五歩と突くと△3三角と引きます。お互いに手待ちの続くジリジリした中盤戦となりましたが、松尾八段が▲9八香と上がって▲9九飛と回ると、豊島九段は△6五桂と仕掛けます。

お互いに桂を取り合ってから、松尾八段が▲3五歩と仕掛けると、豊島九段は△2三銀と上がって受けます。松尾八段は▲3四歩と取り込み、銀で取らせてから▲4六桂と追撃します。松尾八段は飛車を2筋に戻して▲2五歩と打ちますが、豊島九段は銀取りに△5五桂と打って先手の玉頭に攻め掛かります。松尾八段は10回の考慮時間を使い切り、銀取りに▲2四歩と取り込み攻め合います。AIの評価値は豊島九段の85%と大きく傾きました。

豊島九段が△2四角と応じると、松尾八段は▲5六銀とぶつけます。豊島九段は銀を交換してから桂取りに△3六歩と伸ばします。松尾八段は▲3四桂と王手で跳ね、銀で取らせて▲2四飛と角を取りますが、豊島九段は△4六桂と王手で逆襲します。松尾八段は▲4九玉と引きますが、豊島九段は△2三金と上がって飛車を追い返し△3七歩成と桂を取ります。松尾八段は金で取りますが、豊島九段が△3五銀と更に飛車を追い金取りに△3六歩と打つと、松尾八段は投了を告げました。

本局は松尾八段が珍しい構想を見せ、お互いに序盤から時間を使う展開となりましたが、豊島九段が強気に応じると先手陣は悪形を強いられてしまいました。豊島九段は優勢になってからも焦らず陣形を整備し、玉頭戦になってからは自玉の固さを活かして一気に寄せ切ってしまいました。

対局後のインタビューで、豊島九段は「今期はタイトル戦などで良い結果が出ていなかったので、NHK杯戦で優勝することができて非常に嬉しく思っています」と語り、タイトルを失ってからJT杯とNHK杯に優勝して来期への弾みを付けました。来年度もタイトル戦に登場し、好局を魅せてくれることを楽しみにしたいと思います。

松尾八段も今期は順位戦で長年勤めたB級1組から陥落となりましたが、初めてNHK杯決勝まで駒を進めたのを機会に巻き返しを期待したいと思います。

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