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「観る将」が観た第9期叡王戦本戦トーナメント決勝

3月19日に叡王戦本戦トーナメント決勝が行われました。今年度は王座戦七番勝負で藤井竜王名人の挑戦を受け失冠した永瀬拓矢九段と、藤井竜王と藤井棋王に挑戦し厚い壁に阻まれた伊藤匠七段の顔合わせとなっています。

前期準優勝の永瀬九段は本戦から出場し、佐々木(勇)八段、佐藤(天)九段、糸谷八段を降しています。伊藤七段は段位別予選は六段戦に出場し、高野六段、渡辺(和)六段、服部六段を破って本戦に進出し、山崎八段、斎藤(明)五段、青嶋六段を降しています。両者の対戦成績は、永瀬九段の1勝4敗となっています。

永瀬九段がいきなり飛車を捕獲

先手の永瀬九段は角換わりに誘導し、伊藤七段が右玉に構えると、雁木に組みます。永瀬九段は飛先の歩を交換してから、▲2五桂と跳ねて桂交換し、伊藤七段が飛先の歩を交換すると、▲8五桂打と飛車の退路を塞ぎます。伊藤七段は△8五同桂と取り、永瀬九段が▲2七歩と打って飛車を取る間に、△7七桂成ともう1枚桂を取って飛車取りに△3七桂と打ちます。

激しい駒の取り合い

永瀬九段が▲2五飛と浮いてかわすと、伊藤七段は△8七桂と王手してから27分の熟考で△7八成桂と金と交換し、△9九桂成と香を取ります。いきなり激しく駒を取り合いましたが、駒割りは飛車と金桂香の3枚替えとなっており、AIの評価値はほぼ互角です。永瀬九段は▲8五飛と転回し、伊藤七段が△4二玉と早逃げすると、▲8一飛成と竜を作ります。

永瀬九段が2枚飛車で攻勢

伊藤七段が△5一桂と打って竜の横利きを遮断すると、永瀬九段はもう1枚の飛車を▲2一飛と逆サイドに打ち込みます。伊藤七段が△2二角と打って香に紐を付けつつ飛車を閉じ込めると、永瀬九段は初めて手を止め、次の83手目を考慮中に昼休となりました。AIの評価値は永瀬九段の63%とわずかに傾き、各3時間の持ち時間の内、残り時間は永瀬九段が2時間39分、伊藤七段が1時間23分と1時間以上の差が付いています。

伊藤七段が飛車を捕獲

永瀬九段が昼休を挟む32分の長考で▲2五桂と打つと、伊藤七段は△3一金打と飛車を捕獲します。永瀬九段が飛車を角と交換し、飛車打ちに備えて玉を6筋に早逃げすると、伊藤七段は2筋の歩を突いて桂に当てます。永瀬九段は▲7三角と打ち込み、伊藤七段が桂を取ると、▲9一角成と香を取って馬を作ります。AIの評価値は伊藤七段の72%と逆転模様です。

両者とも残り1時間を切っての終盤戦

残り1時間を切った伊藤七段は△4九桂成と先手玉の右辺への退路を狭め、永瀬九段が▲7三馬と戻すと、△4一金と5筋を補強します。永瀬九段も22分の考慮で残り1時間を切り▲5七玉と早逃げし、伊藤七段が△5三桂と上部に厚みを加えると、7筋の歩を突き捨てて▲8四馬と引きます。伊藤七段は7筋の歩を伸ばし、永瀬九段が竜を7筋に寄せて歩成を受けると、△7四香と援軍を送ります。

永瀬九段の辛抱

永瀬九段は▲7八香と受け、伊藤七段が2筋の歩を伸ばすと、▲2八歩と打って辛抱します。伊藤七段は△2九飛と打ち込み、永瀬九段が香で7筋の歩を取ると、△2八飛成と竜を作ります。永瀬九段は6筋の歩を伸ばし、伊藤七段が2筋に"と金"を作ると、▲7四香と走って玉の上部脱出を図ります。伊藤七段は6筋の歩を取り、永瀬九段が▲6六歩と合わせると、△3七"と"と寄って銀に当てます。

永瀬九段が上部脱出

永瀬九段は▲6五歩と脱出路を作り、伊藤七段が"と金"で銀や金を取る間に、▲6六玉~▲7五玉と一目散に逃げます。伊藤七段が△2五竜と引いて詰めろを掛けると、1分将棋に突入した永瀬九段は▲3五香と打って竜の横利きを止めます。伊藤七段は△9二銀と打ち、永瀬九段が▲7三香成と飛び込むと、△3五歩と香を取ります。永瀬九段は▲2六歩と打って竜の横利きを逸らし、▲8二成香と銀を取りにいきます。

竜と金の交換

伊藤七段は馬取りに△8三歩と打って成香で取らせ、△8一金と打って竜を攻めます。永瀬九段は竜を諦めて▲7二歩と紐を付け、伊藤七段が竜を取ると、金を取って"と金"を作ります。伊藤七段は△7七飛と王手で打ち込み、永瀬九段が角や金を自陣に投じて粘ると、"と金"で銀を取り、角金両取りに△7七"と"と寄ります。先手は駒損が大きく、たとえ入玉しても点数勝負で持将棋にできる可能性は低くなり、永瀬九段はここで投了を告げました。

まとめ

本局は永瀬九段が2枚目の飛車を後手陣に打ち込むまで「予定通り」という研究将棋となり、形勢をリードし持ち時間でも大差を付けました。伊藤七段が角を打って先手の飛車を閉じ込めた一手は自然な一手に見えましたが、永瀬九段に何か誤算があったのか、昼休を挟む長考の末に放った一手が痛恨の一着となりました。伊藤七段は着実にリードを拡げ、永瀬九段の入玉も許さず寄せ切りました。
棋王戦に続き、自身3度目のタイトル挑戦を決めた伊藤七段は、対局直後に五番勝負に向けての抱負を聞かれ、「あまりタイトル戦で結果が出せていないので、もっと良い内容の将棋を指せるよう頑張りたいと思います」と話しています。4月に開幕する五番勝負では、伊藤七段が大きな壁を乗り越え、熱戦が繰り広げられることを期待したいと思います。

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