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「観る将」が観た第92期棋聖戦挑戦者決定戦

4月30日、棋聖戦決勝トーナメントの決勝が行われました。前期、藤井七段(当時)のタイトル初挑戦を受け1勝3敗で残念ながら失冠した渡辺名人と、挑戦者決定戦で藤井七段(当時)に敗れた永瀬王座の顔合わせとなりました。両者の対戦成績は渡辺名人の15勝5敗で、先日行われた王将戦七番勝負でも渡辺名人が4勝2敗で防衛に成功しています。

本局は渡辺名人の誘導で相掛かりとなりました。後手の永瀬王座が7筋の横歩を取り、△2三歩と相手の飛車を追い返したところで昼休となりました。

昼休明け、永瀬王座は角交換から△9五角と仕掛け、角金交換の駒損を厭わず攻め立てます。渡辺名人は何か誤算があったのか、しきりに首を傾げながら熟考を重ね、2枚の角を自陣に打って防戦します。AIの評価値も、少し永瀬王座に傾いてきたようです。

永瀬王座が相手陣に金を打ち込み角を捕獲して駒損を解消すると、渡辺名人は相手の玉頭を狙って2枚の桂を五段目まで跳ねて攻め合いを目指します。AIの評価値は、はっきり永瀬王座に傾いてきましたが、素人目にはまだまだ混戦模様に見えます。

渡辺名人は、取られそうになった桂を1枚成り捨ててから▲7五銀と飛車取りに出ます。AIはここで飛車をぶつけて交換し、敵陣に飛車を打ち合う展開を推奨していましたが、永瀬王座は△5五馬と中央に引き付け、飛車を3筋に回して攻めを継続させる順を選択します。渡辺名人は相手の目障りな桂を奪ってから▲5六香と相手の馬と銀を田楽刺しにして反撃に転じます。この数手のやり取りで、AIの評価値は逆転模様となりました。

永瀬王座は馬を取らせる間に、銀を奪って3筋に歩を成り込みます。更に竜を作って相手玉に迫りますが、渡辺陣は左辺が広く捕まりません。渡辺名人が2筋に飛車を成り込み△7一角と挟撃体制を作ると、永瀬王座は持ち駒の3枚の桂で王手を掛けますが届きません。自玉の腹に銀を打たれた永瀬王座は、斜め上に視線をやり自らの心を落ち着けるかのようにマスクをすると、秒読みの声を55秒まで聞き投了を告げました。

本局はAIの評価値を見る限り、昼休明け辺りから後手有利の局面が長く続きました。しかし、対局直後のインタビューで渡辺名人が「序盤は失敗したので粘る方針だった」と語った通り、相手に決め手を与えずに戦線を拡大し難解な中盤戦に持ち込みました。永瀬王座も必死に攻めをつなぎましたが、渡辺名人が反撃に転ずると盤石の寄せを魅せ、再逆転の隙を見せませんでした。

この結果、藤井棋聖の初防衛戦の相手は渡辺名人となりました。渡辺名人は、年明けから王将・棋王の防衛を果たし名人戦七番勝負が進行中と、4つのタイトル戦に続けて登場することとなりました。現時点でもっとも充実している最強の挑戦者だと思います。

昨年の五番勝負は、将棋ファンのみならず日本中の注目を集めるシリーズとなりました。将棋大賞名局賞を受賞した第一局をはじめ、内容的にも非常に濃い好局が多かったと思います。渡辺名人は「今年は通常日程ですし準備する期間はあるので、昨年よりいい将棋が指せるように準備して精一杯臨みたい」と語りましたが、渡辺名人が第一人者の貫録を示してリベンジを果たすのか、藤井棋聖がそれを上回るパフォーマンスを魅せるのか、とても楽しみな五番勝負となりそうです。

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