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「観る将」が観た第34期女流王位戦五番勝負第一局

4月26日に姫路市の夢乃井で女流王位戦が開幕しました。女流王位を通算8期獲得して既にクイーン王位の称号を持つ里見香奈女流王位と、昇段したばかりの伊藤沙恵女流四段の顔合わせになっています。里見女流王位は前期、西山朋佳女流二冠(当時)の挑戦を3勝1敗で退け4連覇を達成しています。伊藤女流四段は今期、5戦全勝で白組優勝し、挑戦者決定戦で紅組優勝の甲斐智美女流五段を降して挑戦権を獲得しました。

これまでの2人の対戦成績は、里見女流王位が23勝、伊藤女流四段が9勝となっています。タイトル戦では過去7回顔を合わせ、里見女流王位が6連勝していましたが、直近の第48期女流名人戦で伊藤女流四段が悲願の初タイトルを獲得したのは記憶に新しいところです。

前日の取材では、里見女流王位は「持ち時間が女流棋戦最長の4時間ですので、自分の力を出せるように集中して、一手一手しっかり考えていけたらと思います」、伊藤女流四段は「やっぱり挑戦者になって、こういう大きな舞台で戦うからには、一局一局集中して、自分の力を出しきることを第一に、いい将棋を指したいと思っています」と、意気込みを述べています。

里見女流王位の向かい飛車

挑戦者の伊藤女流四段が茶褐色のワンピースで入室し、里見女流王位は白いスーツ姿で入室します。振り駒で先手となった伊藤女流四段が初手に飛車先の歩を突き居飛車を宣言すると、里見女流王位は8手目に珍しく向かい飛車に振り、美濃囲いに構えます。伊藤女流四段も左美濃に囲うと、里見女流王位は早々に△7三桂と跳ねて先手の駒組みを牽制します。

伊藤女流四段は銀冠穴熊

伊藤女流四段が銀冠から銀冠穴熊に組み替えると、里見女流王位は飛車を5筋に振り直して△5五歩とぶつけます。伊藤女流四段が41分の長考で同歩と応じると、次の42手目を里見女流王位が考慮中に昼休となりました。各4時間の持ち時間の内、残り時間は里見女流王位が2時間59分、伊藤女流四段が2時間18分となっています。

お互いに角取りの桂跳ね

昼休が明けるとすぐ里見女流王位が3筋の歩を突き捨て、52分の長考で4筋の歩をぶつけると、伊藤女流四段は23分の熟考で▲4七銀と上がって受けます。里見女流王位が4筋の歩を取り込んでから角取りに△6五桂と跳ねると、伊藤女流四段は▲8八角と引きます。里見女流王位は△5六歩と垂らしますが、伊藤女流四段は構わず2筋の歩を突き捨て角取りに▲4五桂と跳ねます。

強気の受け

里見女流王位が△4四角と上がってかわすと、伊藤女流四段は21分の熟考で▲2四飛と走ります。里見女流王位は△5七歩成と飛び込んで金に当てますが、伊藤女流四段は金を見捨てて▲6六歩と根元の桂を取りにいきます。金と桂を取り合ってから、里見女流王位が△6八金と打って先手陣の金を剥がしに行くと、伊藤女流四段は▲7七角と上がって強気の受けが続きます。

先手陣の穴熊の崩壊

里見女流王位は金を交換した後△6九"と"とタダ捨てし、銀で取らせて△8七金と角取りに打ち込みます。伊藤女流四段が▲8八金と埋めると、里見女流王位は角金交換して銀取りに△4七角と打ち込み、△3六角成と馬を作って銀に当てます。先手陣の穴熊は崩壊しましたが、伊藤女流四段が構わず6筋の歩を取り込んで金に当てると、里見女流王位も強く同金と応じます。

伊藤女流四段の反撃

伊藤女流四段は角金両取りに▲5六桂と打ち、里見女流王位が△4六馬と銀を取ると、金を取って▲6四桂と跳ねた手が更に飛銀両取りになります。里見女流王位は△5五飛と走りますが、伊藤女流四段は▲7二桂成と銀を取って王手し、▲2一飛成と桂を取って竜を作ります。伊藤女流四段が▲6一竜と攻守に利かせると、里見女流王位は△6二歩と打って竜の縦利きを止めます。

後手陣の美濃囲いの崩壊

伊藤女流四段が金取りに▲6四桂と打つと、里見女流王位は△7五桂と歩頭桂を放って詰めろを掛けます。伊藤女流四段は残り10分を切って▲7二桂成と金を取って王手し、里見女流王位が△7二同馬と自陣に引き付けて守ると、▲7一銀と王手を続けます。後手陣の美濃囲いも崩壊し、里見女流王位は△7三玉から馬を見捨てて中央への脱出を図ります。

堅陣の復活

里見女流王位も残り10分を切って△5九飛成と竜を作って王手すると、伊藤女流四段は▲8九金打と埋めて金銀3枚の堅陣を復活させます。里見女流王位は△8七桂打と王手し銀を1枚剥がしてから△5四玉と逃げますが、伊藤女流四段が▲3七角と放った手が竜取りかつ後手玉の退路を塞ぐ痛打となります。

懸命の粘り

先に1分将棋に突入した里見女流王位が懸命に詰めろを逃れると、伊藤女流四段も1分将棋に突入し、後手玉の上部脱出だけは阻止して包囲網を狭めます。里見女流王位は玉を1筋まで逃がして粘りますが、伊藤女流四段に▲3三桂成と迫られると受けがなく、133手の激闘に終止符を打ちました。

まとめ

本局は後手の里見女流王位が積極的に仕掛けましたが、伊藤女流四段は強気の受けで主導権を渡しませんでした。先手陣の穴熊が崩壊すると、伊藤女流四段は金駒を埋めて修復しましたが、後手陣の美濃囲いが崩壊すると、里見女流王位は玉が単身で逃走せざるを得なくなりました。両者1分将棋となり、里見女流王位は執念の粘りを見せましたが、伊藤女流四段は冷静に後手玉の上部脱出を許さず寄せ切りました。
次局に向け、伊藤女流四段は「体調に気をつけて頑張りたいと思います」、里見女流王位は「難しい将棋だったと思いますが、反省点がいくつかあったので、それを修正して次局に向かえたらと思います」と話しました。挑戦者の先勝で幕を開けた本シリーズが、次局以降も盛り上がることを期待したいと思います。

女流王位戦は新聞三社連合が主催しています。
棋譜は下記サイトをご確認ください。


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