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「観る将」が観た第17期マイナビ女子オープン五番勝負第三局

5月12日、マイナビ女子オープン五番勝負第三局が、神奈川県藤沢市の「時宗総本山 遊行寺ゆぎょうじ」で行われました。防衛まであと1勝となった西山朋佳女王が一気に決着を付けるのか、大島綾華女流二段が1つ返して流れを変えることができるのか、楽しみな一局となりました。

前日の検分後に行われたインタビューで、西山女王は「大島さんは序盤の作戦巧者だと思っていて、そういったところでリードされないように意識して、良い勝負を目指して頑張りたいと思っています」、大島女流二段は「自分らしくぎゅっと集中して頑張りたいと思います」と意気込みを話しています。


西山女王は三間飛車

大島女流二段が桜色に淡い模様の入った着物と紫色のグラデーションの袴で入室すると、西山女王は紫地に華やかな花模様の着物に藤沢にちなんだという藤色の袴で入室します。先手の西山女王が三間飛車に振って角道を止めると、大島女流二段は左美濃に囲います。

相穴熊の持久戦か

西山女王は飛車を浮いて石田流に構え、大島女流二段が銀冠に組み替えると、珍しく穴熊を目指します。先手の玉形が整う前に急戦を仕掛ける選択もあったようですが、石田流の好形に組んだ先手からの反動も大きく、大島女流二段は小刻みに時間を使って持久戦に方針を切り替え、銀冠穴熊を目指します。

西山女王の揺さぶり

両者の穴熊が完成する前に、西山女王が▲2六角と上がって角成を狙うと、大島女流二段は△4四歩と突いて防ぎます。西山女王が▲5六銀と繰り出すと、大島女流二段は△4三金右と備えます。西山女王は▲3九金~▲4八金寄と穴熊を整え、大島女流二段が△4二角~△8四飛と整備すると、▲3七角と引いて6筋に狙いを変えます。

大島女流二段が玉頭位取り

大島女流二段が△2五歩と伸ばして玉頭の位を取ると、西山女王は6筋の歩をぶつけます。大島女流二段が15分の考慮で△2二金と穴熊の蓋を閉めると、西山女王が次の51手目を考慮中に昼休となりました。各3時間の持ち時間の内、残り時間は西山女王が2時間16分、大島女流二段が1時間46分と30分程の差となっています。

3枚穴熊と2枚穴熊の差

昼休が明けるとすぐ、西山女王は▲3八金寄と3枚穴熊を完成させ、大島女流二段が6筋の歩交換に応じてから、△2四角と覗いて角成を狙うと、▲4六歩と突いて防ぎます。大島女流二段は△5三金と寄って中央に厚みを加えますが、後手陣の穴熊は金銀2枚と先手陣より薄くなり、形勢もわずかに先手が指し易くなってきたようです。

角切りの強襲

西山女王が2筋の歩を突き捨てて▲2五歩と打ち、後手の角を追いつつ位を奪還してから4筋の歩をぶつけると、大島女流二段は3筋を継ぎ歩して玉頭戦を挑みます。西山女王は角で歩を取り払い、大島女流二段が△3四銀と角に当てると、▲4四角と歩を食いちぎって金に当てます。17分の熟考で残り1時間を切った大島女流二段は金で角を取り、飛車取りに△5八角と打ち込みます。

大島女流二段が端攻めで反撃

西山女王は3筋の銀頭を歩で叩き、大島女流二段が△2三銀と引くと、▲4三歩成と"と金"を作って角に当てます。大島女流二段は5筋に角を引いてかわし、西山女王が歩で飛車を守ると、△2五角成と馬を作って"と金"に当てます。大島女流二段は1筋の歩をぶつけて端攻めに命運を託し、西山女王が▲4五銀と繰り出して飛車の横利きを通すと、△1六歩と取り込みます。

飛車の盾

西山女王は馬取りに▲2六金と打ち、大島女流二段が△5八馬とかわすと、▲3四銀と前進してぶつけます。大島女流二段は飛車取りに△6七馬と引き、西山女王が銀交換後に金取りに▲3四銀と打ち直すと、△8二飛と引いて守りに利かせます。西山女王は▲5六飛と飛車を盾にして馬の利きを止め、大島女流二段が歩で金を支えると、金銀交換してから3筋の歩を伸ばします。先手の小駒の攻めは途切れず、形勢は大きく傾いてきたようです。

西山女王の猛攻

残り10分を切った大島女流二段は飛車取りに△4五銀と打ちますが、西山女王は構わず3筋の歩を成り捨て、慎重に10分考えて▲3二金と打ち込み後手玉に迫ります。大島女流二段は△3一歩~△7七馬と懸命に守りますが、残り1時間となった西山女王は取った桂を▲3五桂と打って攻め駒を足します。大島女流二段が△2二銀と打って補強すると、西山女王は1筋の香を歩で吊り上げてから▲2三桂成と飛び込んで詰めろを掛けます。

懸命の粘り

1分将棋となった大島女流二段は△3三角~△3三同銀と、角と銀の代わりに金と"と金"を取り除き、△4四馬と引き付けて粘ります。西山女王は香取りに▲2四角と打って成桂に紐を付け、大島女流二段が成桂取りに△2一桂と打って香に紐を付けると、▲3五金と馬に当てます。

華麗な即詰み

大島女流二段は馬と桂で先手の成桂と角を除去し、西山女王が桂取りに▲3四歩と打つと、24手前に打った銀で飛車を取ります。西山女王は▲3三歩成と桂を取りつつ"と金"を作って詰めろを掛け、大島女流二段が△2一歩と受けると、▲1二銀とタダ捨てします。玉で取っても華麗な17手詰めになっているようですが、大島女流二段は潔く飛車で取り、詰みの形まで指して投了を告げました。

まとめ

本局は西山女王の穴熊に対し、負けられない大島女流二段が公式戦では自身初という穴熊を採用して対抗しました。西山女王はお互いの穴熊が完成する前に揺さぶりを掛けて後手が堅陣を築くのを許さず、積極的に仕掛けて徐々にリードを拡げました。大島女流二段に目立った悪手はありませんでしたが、西山女王の大局観が光った一局だったと思います。

本シリーズの総括

本シリーズは結果的に西山女王の3連勝で決着となりましたが、タイトル初挑戦の大島女流二段が序盤に工夫を見せ、特に第二局では優勢の局面を作るなど大健闘だったと思います。
西山女王は終局後のインタビューで「一局一局の積み重ねで7連覇を達成できました。修業時代からお世話になっているタイトル戦ですので、またタイトルをお預かりすることができて嬉しく思います」と話した通り、思い入れの強い棋戦で強さを見せつける形となりました。
大島女流二段は「反省点が多かった」と振り返っていますが、終局後の大盤解説会場では爽やかな笑顔を見せており、本シリーズの経験を活かして次世代の女流棋界を牽引する存在に成長することを期待したいと思います。

マイナビ女子オープンは、株式会社マイナビと日本将棋連盟が主催しています。棋譜は下記公式サイトをご確認ください。


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