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「観る将」が観た第94期棋聖戦挑戦者決定戦

4月24日、第94期ヒューリック杯棋聖戦決勝トーナメントの決勝が行われました。決勝トーナメントで井上九段、広瀬八段、佐々木(勇)八段を降した永瀬拓矢王座と、大橋六段、糸谷八段、渡辺名人を降した佐々木(大)七段の顔合わせとなりました。永瀬王座は2期連続挑戦を、佐々木七段は自身初のタイトル挑戦を目指す戦いとなっています。両者の対戦成績は永瀬王座の2勝1敗と、数は多くありませんが拮抗しています。


佐々木七段の工夫

振り駒で先手となった佐々木七段が相掛かりに誘導し、永瀬王座が飛先の歩を交換すると、▲7七金と上がる工夫を見せます。佐々木七段が飛先の歩を交換して五段目に引くと、永瀬王座も△3三金と上がり両者似たような陣形になります。佐々木七段が▲2七銀と棒銀を見せると、永瀬王座が次の30手目を40分以上考えて昼休となりました。各4時間の持ち時間の内、残り時間は永瀬王座が2時間33分、佐々木七段が3時間42分と、1時間以上の差となっています。

見慣れない陣形

永瀬王座が昼休を挟む46分の長考で△3二銀~△2三銀と備えると、佐々木七段は▲8七金~▲7八銀と構えます。お互いに陣形の整備を続け、永瀬王座は銀冠の形になりましたが、囲いの中には角があって玉が入城できません。佐々木七段は金冠の形で玉も入城し、駒の損得はありませんがAIの評価値は佐々木七段の60%と少し傾いてきました。

勝負所

少し苦しくなってきた永瀬王座が3筋と6筋から仕掛けて残り1時間を切り、△4三金寄と間接的に角の利きを通すと、2時間以上残していた佐々木七段は、勝負所と見たか50分の長考で▲5五歩とぶつけて未然に角の利きを止めます。冷却シートを額に貼って考えていた永瀬王座は△3三角と上がって薄くなった2筋を補強し、何か所も歩がぶつかり合う難解な中盤戦となります。

佐々木七段の攻勢

佐々木七段も残り1時間を切り、2筋から攻め掛かって銀交換すると、永瀬王座はようやく△2二玉と入城し△3四金と上がって角頭を補強します。佐々木七段は5筋の歩を取り込み、空けたスペースに飛車取りで▲5三銀と打ち込むと、更に▲4四歩と垂らして圧力を掛けます。駒割りは先手の3歩得、後手陣は金銀がバラバラになり、AIの評価値は佐々木七段の72%と傾いてきました。

永瀬王座が秒読みに

残り時間が10分を切った永瀬王座は秒読みの中△9四歩と端攻めしますが、佐々木七段は手抜いて▲5五歩と銀取りに打ちます。永瀬王座は桂取りに△3六歩と伸ばし、佐々木七段が角取りに▲2五桂と跳ねますが、角を見捨てて△4五銀とかわします。佐々木七段が角桂交換すると、永瀬王座は"と金"を作って飛車を追い、6筋の金頭を叩いて桂を取ります。

飛車よりも銀

佐々木七段が飛銀両取りに▲7二角と打つと、永瀬王座は飛車取りに△3四桂と打ち返します。佐々木七段が飛車を浮いてかわすと、永瀬王座は△5六桂と攻め合います。佐々木七段は取れる飛車を取らずに▲4五角成と銀を取って馬を作り、永瀬王座が角取りに△6八銀と打つと、▲5六馬と根元の桂を取ります。AIの評価値は佐々木七段の94%と大きく傾きました。

着実な寄せ

1分将棋に突入した永瀬王座は角銀交換してから△4六角と王手し、成桂を作って食い下がりますが、佐々木七段は▲2五桂と打って後手陣の金を剥がし、▲4三飛成と竜を作って後手玉に迫ります。永瀬王座は必死の抵抗を続けましたが、佐々木七段は着実に包囲網を狭めて寄せ切りました。

まとめ

本局は佐々木七段が金を三段目に上げて受ける工夫を見せ、永瀬王座も似たような形で対抗しました。両者とも苦心の駒組みが続きましたが、先手が堅陣に玉を入城させたのに対し、後手は角が壁になって入城しづらい陣形となり、佐々木七段の作戦勝ちとなりました。佐々木七段はわずかなリードを焦らずに着実に拡げ、粘る永瀬王座を振り切る快勝となりました。
佐々木七段は自身初のタイトル挑戦権獲得となりましたが、現在王位リーグでも4戦全勝でトップを走るなど好調で、公式戦は15連勝となりました。対局直後のインタビューでは「藤井棋聖と指せる機会なので、思い切りぶつかっていきたい」と謙虚に語りましたが、前日行われたイベントもキャンセルせずにこの日に臨んだという、誠実な人柄の佐々木七段が挑む五番勝負を楽しみにしたいと思います。

本稿は「ヒューリック杯棋聖戦における棋譜利用ガイドライン」に従っています。(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#kisei)
第94期ヒューリック杯棋聖戦決勝トーナメント 主催:産経新聞社、日本将棋連盟

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