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「観る将」が観た第63期王位戦挑戦者決定戦

5月31日、お~いお茶杯王位戦の挑戦者決定戦が行われました。紅組優勝の豊島将之九段と白組優勝の池永天志五段の顔合わせとなっています。豊島九段が勝てば前期に続く2期連続の挑戦となります。池永五段が勝てばタイトル初挑戦となり、同時に六段に昇段となります。


戦型は角換わり相腰掛け銀

振り駒で先手となった豊島九段が角換わりに誘導し、相腰掛け銀の将棋となりました。両者ともほとんど時間を使わずに駒組みを進めましたが、この戦型特有の間合いを測る段階に差し掛かると少しずつ時間を使い始めます。豊島九段は4筋の位を取り▲4六角と手放しますが、均衡は保たれているようです。池永五段が56手目を考慮中に昼休となりました。各4時間の持ち時間の内、残り時間は豊島九段が3時間44分、池永五段が2時間46分と1時間近い差になっています。

難しい中盤戦

池永五段が昼休を挟む29分の熟考で△4四歩と仕掛けると、豊島九段も慎重に33分考え▲3五歩とぶつけます。池永五段が4筋の歩を交換して桂取りに△4四銀と上がると、豊島九段は▲3六銀と上がって桂に紐を付けます。池永五段は更に37分考え△7五歩とぶつけますが、豊島九段は22分考え2筋の歩を突き捨ててから▲3四歩と取り込みます。池永五段は構わず7筋の歩を取り込み、銀で取らせてから8筋の歩も突き捨てます。何か所も駒がぶつかる難解な局面となり、両者とも慎重に時間を使って指し進めます。

池永五段の踏み込み

池永五段が続いて△7五歩と銀頭を叩くと、豊島九段は53分の長考で▲8七銀と引きます。池永五段は銀を援軍に送り、銀交換して飛車で取り、△6六飛と先手陣の懐に飛び込みます。豊島九段が持ち駒の銀を打って角取りを防ぐと、池永五段は△8六歩から先手の玉頭に攻め掛かります。豊島九段は▲6七歩と打って飛車を捕獲しますが、池永五段は飛車を取らせる間に先手陣の金を1枚剥がします。池永五段が△8六歩と玉頭を叩くと、豊島九段は67分の長考で▲7八玉と逃げます。両者の残り時間が1時間を切り、AIの評価値は池永五段の57%と少し傾いてきました。

ギリギリの攻防

池永五段は△5五歩と銀頭を叩いて吊り上げてから△8七銀と玉を追い、△8五角と王手で追撃します。池永五段は更に△7六銀成~△7七成銀と連続王手で先手玉に迫ってから△5五銀と銀を取ります。豊島九段が▲7七桂と成銀を取って角に当てると、池永五段は△7四角と王手で逃げてから△4六銀と角銀交換します。池永五段が攻防に△4四銀と打つと、豊島九段は▲5六歩と突いて5五の地点に利かせます。池永五段は△5四金と更に持ち駒を投じますが、豊島九段はここで▲7一飛と攻め合いに転じます。両者の持ち時間が15分前後となり、両者の間を激しく揺れていたAIの評価値は豊島九段の66%となっています。

向かい合う両者の玉

池永五段が底歩を打って飛車の横利きを止めると、豊島九段は▲5五銀と打って自玉の傍の攻め駒の清算を目指します。池永五段は残り7分まで考えて清算に応じ、王手で△6三角と引きます。豊島九段が手厚く▲5四銀打と応じると、池永五段は歩で先手の銀の位置を変えてから△5四角と銀を食いちぎります。豊島九段は力強く▲5四同玉と応じ、双方の玉が一路隔てて向かい合いました。池永五段は△4三銀~△4三同金と銀交換してから王手で押し返します。先手玉は守り駒がなくなりましたが、後方に広い逃げ道が確保されています。

両者1分将棋の結末

豊島九段は▲7四角と王手し寄せに入ります。池永五段は銀を打って守りますが、豊島九段は角を銀と刺し違え、▲7二飛成と竜を作ります。豊島九段が左右からの挟撃態勢を作りましたが、池永五段は△4六角と王手し勝負を諦めない執念を見せます。最後は両者が相次いで1分将棋に突入し、懸命に先手玉に迫る池永五段の攻撃をかわした豊島九段が即詰みに討ち取りました。

藤井聡太王位への挑戦者は

本局は池永五段が後手番ながら思い切りよく踏み込み、先手陣を切り崩した辺りではわずかに優勢になったように見えました。豊島九段は自陣を追い出された玉が単騎で敵玉と睨み合う形になり、素人目にはかなり危険な状態に見えましたが、タイミング良く飛車を敵陣に打ちおろしてから流れを取り戻し、171手の激闘を制しました。
豊島九段は2期連続で藤井王位への挑戦権を獲得し「前期は1勝しかできなかったので、もうちょっといい戦いができるようにしっかり準備したい」と話しました。昨年度は数々の名局を生み出した両雄の再戦に、期待で胸が膨らみます。
池永五段は惜しくもタイトル初挑戦を逃しましたが、近い将来タイトル戦に登場することを期待させる戦いぶりでした。「注目される舞台での対局だったので、熱戦になったのは良かったかなと思います」と話しましたが、今後の活躍を楽しみにしたいと思います。

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