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第63期王位戦挑戦者決定リーグ 伊藤匠五段3回戦

3月30日、お~いお茶杯王位戦の挑戦者決定リーグ(王位リーグ)紅組で、伊藤匠五段と西尾明七段との対局がありました。伊藤五段は藤井聡太竜王と同学年の期待の新鋭で、本局に勝てば今年度の勝率1位賞が確定します。王位戦は今期が初参戦で、予選で永瀬王座や日浦八段らを降して王位リーグ入りを果たしました。西尾七段は43歳のベテランで、予選で深浦九段や青嶋六段らを破って勝ち上がりました。

先手の西尾七段が矢倉を選択すると、伊藤五段は急戦調の駒組みを進めます。西尾七段が飛先の歩を交換してから9筋の位を取ると、伊藤五段は中住まいに構えて雁木調の陣形を敷きます。伊藤五段は△9二香~△9一飛と端からの逆襲を狙いますが、西尾七段は▲8八銀と引いて備えます。千日手模様の繰り返しがありましたが、西尾七段が打開し両者が間合いを測るような駒組みが続きます。

西尾七段が5筋から仕掛け4筋で桂交換すると、伊藤五段は△5五桂と銀取りに打ち6,7筋の歩を突き捨て9筋の歩もぶつけます。西尾七段は9筋を手抜いて2筋の歩を合わせてから▲6六桂と反発します。伊藤五段は8筋の歩を突き捨て△8七歩と叩いて先手の陣形を乱し、更に△8五歩と継ぎ歩攻めを見せます。西尾七段も▲2三歩と叩いて後手の金を上ずらせてから▲8五歩と応じますが、伊藤五段は9筋の歩を取り込み△9六歩と伸ばして先手陣に迫ります。西尾七段は2筋の継ぎ歩攻めを見せますが、伊藤五段は角の利きを活かして△2六歩と打って先手の飛車を押し返します。両者が小技の応酬を魅せ難解な中盤戦となりましたが、AIの評価値はわずかに西尾七段に傾いているようです。

伊藤五段は先手の桂の利きに△7四歩と合わせ、▲7四同歩~△7四同銀~▲7四同桂と銀を桂で取らせてから△8六歩と金頭を叩きます。銀捨ての効果で後手の角道が通ったため、この歩を取れない西尾七段は▲7七金と逃げますが、伊藤五段は更に金取りに△8五桂と勇躍します。西尾七段は▲8二歩と飛頭を叩きますが、伊藤五段は構わず△9七歩成と王手で飛び込みます。9筋で香を取り合った後、伊藤五段は金桂交換してから△9一飛と端からの突破を図ります。AIの評価値は逆転し、伊藤五段に大きく傾きました。

西尾七段はやむなく▲9八歩と桂を支えますが、伊藤五段は△9六飛と走ります。西尾七段は飛取りに▲8五銀と打って辛抱しますが、伊藤五段は△8七歩成と王手で迫ります。西尾七段は▲6六玉と逃げますが、伊藤五段の△7五金が痛打となります。伊藤五段が△6八銀と王手したのを見て、西尾七段の投了となりました。

本局は西尾七段の矢倉に伊藤五段が中住まいで応じ、歩で相手陣を崩す応酬では西尾七段がわずかにリードを奪いました。伊藤五段は相手の桂の利きに銀を差し出す妙手を魅せ、西尾七段が意表を突かれたのか応手に隙が生じて一気に逆転してしまいました。形勢が傾いてからの伊藤五段の攻めは鋭く、瞬く間に先手玉を寄せ切りました。

本局の結果、伊藤五段は王位リーグの成績を2勝1敗とし、挑戦権争いに望みをつなぎました。また今年度の対局を終えて勝率が0.818となり、初めての勝率1位賞の獲得も確定したようです。伊藤五段にとって今年度は、新人王戦優勝、王位リーグ参戦、順位戦昇級と飛躍の1年となりましたが、藤井竜王の5年連続を阻む勝率1位賞の獲得で、最高の形で年度末を締めくくる形となりました。対局後の中日新聞の取材で勝率1位賞の感想を聞かれ「対戦している相手が全然違いますから、自分も来年度以降は上位の棋士との対戦の機会を増やせればと思っています」と冷静に話しています。

西尾七段は豊島九段戦に続いて優勢の局面を築きましたが、白星には恵まれず0勝3敗となりました。若手との対局を2局残しており、一矢報いることができるか注目していきたいと思います。

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