「観る将」が観た第50期女流名人戦第四局
2月25日、岡田美術館杯第50期女流名人戦五番勝負第四局が、広島県廿日市市の「宮島弥山大本山 大聖院」で行われました。連敗スタートから1つ返した西山朋佳女流名人がフルセットに持ち込むのか、奪取まであと1勝としている福間香奈女流四冠が決着を付けるのか、楽しみな一局となりました。
前日に行われた前夜祭で、西山女流名人は「後のない状況ではありますが、今の自分の目一杯頑張っていけたらなと思っています」、福間女流四冠は「明日は自分の力を精一杯出し切って頑張りたいと思います」と挨拶しています。
福間女流四冠が中飛車から居飛車へ
広々とした明るい対局室に、福間女流四冠が白いスーツ姿で入室し、西山女流名人は濃紺のボトムスに白いカーディガン姿で入室します。先手の福間女流四冠は中飛車に振りますが、西山女流名人が向かい飛車に振ると、9筋の位を取ってから飛車を2筋に戻し、対抗形の将棋となります。
福間女流四冠の仕掛け
西山女流名人が9筋の香を上がって穴熊を目指すと、福間女流四冠は少考を重ねて▲4六銀~▲3五歩と仕掛けます。西山女流名人は△4三銀と上がって角頭を守り、福間女流四冠が3筋の歩を取り込んで飛車を3筋に寄せて銀に当てると、△2四飛と浮いて銀に紐を付けます。
早くも決戦か
福間女流四冠が▲3六飛と浮くと、西山女流名人は初めて手を止め、17分の考慮で2筋の歩を突き捨ててから△3五歩と飛頭を叩きます。福間女流四冠は銀交換に応じ、西山女流名人が△2六飛と走ると、▲3七桂とかわしつつ飛車をぶつける構えを見せます。
西山女流名人が飛交換を回避
まだ陣形が整っていない西山女流名人が45分の長考で△2四銀と飛車取りに打って辛抱すると、福間女流四冠は飛車を8筋に転回します。西山女流名人が次の42手目を考慮中に昼休となりました。各3時間の持ち時間の内、残り時間は西山女流名人が1時間40分、福間女流四冠が2時間9分となっています。
西山女流名人の"と金"と福間女流四冠の竜
西山女流名人が昼休を挟む15分の熟考で桂取りに△3六歩と打つと、福間女流四冠は桂を4筋に跳ね、歩で取らせて飛車で取ります。西山女流名人は△3七歩成と"と金"を作り、福間女流四冠が31分の熟考で金桂両取りに▲4一飛成と竜を作ると、△5一金寄と金の壁を作ります。
角桂交換
福間女流四冠は▲2一竜と桂を取り、西山女流名人が△2八飛成と竜を作ると、▲2九歩~▲3九歩と手筋の歩で竜の位置を変え、角取りに▲4五桂と打ちます。西山女流名人が構わず金取りに△4七"と"と寄ると、福間女流四冠は▲5九金引と竜を追ってから角桂交換します。形勢は駒得となった里見女流四冠に傾き始めたようです。
激しい攻防
残り1時間を切った西山女流名人は金取りに△5七桂と打ち、福間女流四冠が▲6六角と自玉の懐を拡げつつ間接的に竜を睨むと、△4八歩と垂らして角の利きを緩和しつつ攻め駒を足します。福間女流四冠が▲2八角~▲3九歩と竜を追い、残り1時間となったところで▲5五角右と飛び出すと、西山女流名人は狙われた銀を△4二銀と引き締めます。激しい攻防が一段落し、形勢は混沌としてきたようです。
福間女流四冠の馬
福間女流四冠は▲1一竜と香を補充し、西山女流名人が△4九歩成と2枚目の"と金"を作って金に当てると、▲6八金右とかわします。福間女流四冠は▲4三歩と銀頭を叩き、西山女流名人が△3一銀とかわすと、▲5七金と桂を食いちぎります。西山女流名人は△5四歩~△6五金と角を追いますが、福間女流四冠は手順に自陣の"と金"を取り、▲1三角成と馬を作ります。形勢は後手の攻め駒を一掃した福間女流四冠に大きく傾いてきたようです。
後手玉を睨む馬
西山女流名人は△4三竜と歩を払いつつ角に当て、福間女流四冠が▲3七角とかわすと、△5七歩成と成り捨て、馬で取らせて△4五桂と馬角両取りに打ちます。福間女流四冠は▲4七馬とかわしつつ金に当て、西山女流名人が△5六歩と金を守ると、▲2六角とかわして両取りを空振りに終わらせます。西山女流名人は△5七桂成と馬に当てますが、里見女流四冠は▲3七馬とかわしつつ間接的に後手玉を睨みます。
怒涛の寄せ
西山女流名人が歩で角を追うと、福間女流四冠は▲7四桂と王手し、▲7一角成と銀を食いちぎり、▲8二銀と王手で後手玉に迫ります。福間女流四冠は▲3一竜と詰めろを掛け、西山女流名人が△7四歩と桂を取ると、▲5三歩と金頭を叩きます。西山女流名人は△6七成桂と歩を食いちぎって△4六歩と馬の利きを止めますが、福間女流四冠は▲5二歩成と金を剥がしてから▲6二歩と王手し、そのまま長手数の即詰みに討ち取りました。
まとめ
本局は西山女流名人が穴熊を目指しましたが、福間女流四冠は後手玉が潜るのを許さず、機敏に仕掛けて主導権を握りました。お互いに陣形が整わないまま激しい戦いに突入しましたが、福間女流四冠は駒得を活かして"と金"攻めを凌ぎ、大駒3枚の威力で後手陣を攻略しました。
福間女流四冠は3勝1敗で通算13期目の女流名人を獲得して女流五冠に復帰するとともに、女流通算400勝を達成しました。「福間香奈」としては初タイトルとなり、終局直後には「新鮮な気持ちもあり、以前と変わらない気持ちで集中して番勝負を戦うことができたので、引き続き頑張ります」と話しました。
西山女流名人は前期獲得したタイトルを1期で明け渡すこととなり、「初めて指すような展開もあったので新鮮な気持ちで指していました。形勢判断だったり、内容だったりに問題があるところがあったので、反省点が残りました」と話しました。来期はまた女流名人リーグを勝ち上がってくることを期待したいと思います。
岡田美術館杯女流名人戦は、報知新聞社と日本将棋連盟が主催し、株式会社ユニバーサルエンターテインメントが特別協賛しています。棋譜等は下記サイトをご覧ください。
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