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「観る将」が観た第46期棋王戦五番勝負第一局

2月6日、2020年度タイトル戦の最後を飾る棋王戦五番勝負が開幕しました。緊急事態宣言の影響で会場は東京将棋会館に変更されましたが、関係者のご尽力により無事開催されたことは、将棋ファンとして非常に嬉しく思います。

渡辺棋王は第38期から8連覇中であり、相性の良い棋戦と言えると思います。現在、並行して王将戦七番勝負を戦っており、4月に開幕予定の名人戦七番勝負に掛けてタイトル戦が続きますが、12月以降7連勝中と大変充実しているようです。

糸谷八段はプロ入り後に国立大学に進学し、大学院在籍中に竜王を獲得した異色の経歴の持ち主です。順位戦ではA級に3期連続在籍中で、タイトル経験もありながら将棋の普及活動に熱心なことでも知られています。今期挑決トーナメントでは決勝で敗れたものの、敗者復活戦で永瀬王座を破り、挑決二番勝負で広瀬八段に連勝して挑戦権を獲得しました。

両者のこれまでの対戦成績は渡辺棋王が15勝5敗と圧倒しています。番勝負では第28期竜王戦で顔を合わせており、渡辺棋王(当時)が4勝1敗で糸谷竜王(当時)から奪取に成功しています。

振り駒の結果、本局は渡辺棋王の先手となりました。後手の糸谷八段が4手目に角道を止め雁木模様に駒組みを進めると、渡辺棋王は右四間飛車から左美濃に構えます。糸谷八段が居玉のまま中央に銀2枚を繰り出すと、渡辺棋王は5-4筋から反発し右金を前線に繰り出します。早指しで知られる糸谷八段が慎重に時間を使い、消費時間は渡辺棋王を上回っています。渡辺棋王は、Numberの将棋特集で脳科学者の池谷教授が「(対局中に)摂取するならブドウ糖が一番」と語っていたのを実践し、ラムネで糖分補給をしているようです。

難しい中盤戦となり、渡辺棋王が▲4五桂~▲5三歩と急所に拠点を作った辺りでは、立会人の木村九段やAbemaの解説陣は後手を持って指す気がしないと評価し、AIの評価値も若干渡辺棋王に振れてきたようです。渡辺棋王は▲9七角と5三の地点に睨みを利かせますが、糸谷八段は△8六歩と角の利きを遮断し△7六歩と相手玉頭に拠点を作ります。渡辺棋王が▲6八金と浮いて受けたのを見た糸谷八段は、△3三桂から桂交換して飛車金両取りに△5六桂と打ち、この桂は銀との交換になりましたが更に△5九銀と割り打ちし守りの金を剥がします。解説陣は後手が元気が出てきたと評価し、AIの評価値も逆転模様です。

糸谷八段は、4五にいた桂を取り5三にいた歩も取って、中段に築いた要塞に入城します。更に自陣の角を飛車と交換し、取った飛車を敵陣に打ち込んで寄せに入ります。AIの評価値は大きく糸谷八段に傾きました。最後は糸谷八段が竜も切って決めに行き、相手の攻守の要となっていた金を取ったところで渡辺棋王の投了となりました。

本局は、糸谷八段が対局後「作戦を持ってきたけどうまくいかなかった」という通り、序中盤は渡辺棋王が作戦勝ちしていたように見えました。しかし手が進むにつれバラバラだった糸谷陣は堅陣となり、渡辺陣では角が働かずむしろ邪魔駒になってしまいました。全体を通して、糸谷八段らしい独特の指し回しが光る1局だったと思います。

冬場のタイトル戦に滅法強く冬将軍とも呼ばれる渡辺棋王に対し、糸谷八段が後手番で先勝したことで、本シリーズは俄然面白くなってきたように思います。次局は先手の糸谷八段が、挑戦権獲得の原動力となった角換わり早繰り銀をぶつけてくると予想されますが、負けられない渡辺棋王がどのような対策を用意してくるのか注目されます。両者が持ち味を出し切った熱戦となることを期待したいと思います。

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