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「観る将」が観た第34期女流王位戦五番勝負第四局

6月7日に徳島市の「JRホテルクレメント徳島」で女流王位戦第四局が行われました。防衛まであと1勝となった里見香奈女流王位が決着を付けるのか、伊藤沙恵女流四段が勝ってフルセットに持ち込むのか、注目の一局となっています。

前日の食事会では、里見女流王位は「明日は自分の力を精一杯出しきれるように頑張っていきたいと思います」、伊藤女流四段は「スコアは1勝2敗で厳しい状況ではありますが、目の前の一局に全力を尽くしたいと思っております」と決意を述べています。

里見女流王位は中飛車から居飛車

伊藤女流四段が薄茶色のワンピースに白いカーディガンで入室し、里見女流王位は白のスーツ姿で入室します。先手の里見女流王位が5筋の歩を突き中飛車に振ると、伊藤女流四段は角道を止めて向かい飛車に振ります。里見女流王位は第二局と同様、玉を左側に移動し、飛車を2筋に戻して対抗形の将棋となります。

里見女流王位の機敏な仕掛け

伊藤女流四段は美濃囲いに構え、第二局では銀冠に組み替えましたが、本局は△6三銀と上がる工夫を見せます。後手の金銀の連結が切れたタイミングを捉え、里見女流王位が25分の熟考で4筋の歩を突き捨てて飛車を4筋に回すと、伊藤女流四段も28分の熟考で2筋の歩をぶつけます。里見女流王位は手抜いて▲4五桂と跳ね、伊藤女流四段が△4四角とかわすと、▲5三桂成と成り捨てます。

伊藤女流四段の長考

成桂を角で取ると飛角両取りがあるので、伊藤女流四段は金で取るしかありませんが、里見女流王位は▲4五銀と角にぶつけて攻め掛かります。伊藤女流四段が次の44手目を1時間以上考え、昼休の時刻となりました。激しい戦いが始まっていますが、形勢はまだまだ互角のようです。各4時間の持ち時間の内、残り時間は里見女流王位が3時間14分、伊藤女流四段が2時間5分となっています。

里見女流王位の竜

伊藤女流四段は昼休を挟む85分の長考で△5七歩と金頭を叩き、里見女流王位が金を6筋に寄せると、△3三角とかわします。里見女流王位が▲5四銀とぶつけると、伊藤女流四段は銀交換に応じ、更に角も交換します。里見女流王位が▲4一飛成と竜を作って金に当てると、伊藤女流四段は△7二金と陣形を整えます。

角と金桂の2枚替え

里見女流王位が21分の熟考で▲5五歩と金頭を叩くと、取ると飛金両取りがあるので、伊藤女流四段は△3三角と打ち、間接的に先手玉を睨んで受けます。里見女流王位が▲7七角と打ち返すと、伊藤女流四段は△5二銀と自陣に打って竜を追い、角取りに△8五桂と打ちます。里見女流王位は歩で金を取り、角と金桂の2枚替えとなり、形勢はわずかに里見女流王位に傾いてきたようです。

伊藤女流四段の竜

伊藤女流四段が7筋の歩をぶつけて桂頭を狙うと、里見女流王位は30分の熟考で▲8六金と持ち駒を投じて手堅く受けます。伊藤女流四段の残り時間が1時間を切り、△4二飛と飛車の活用を図ると、里見女流王位は5筋の歩を成り捨てて後手陣を乱してから竜で桂を取ります。伊藤女流四段は△4八飛成と竜を作りますが、里見女流王位は▲6六桂と打ち、後手の角の利きを遮断しつつ攻撃の拠点を作ります。

竜の睨み合い

伊藤女流四段が攻防に△4七角と打つと、里見女流王位は29分の熟考で▲4一竜と寄り、後手の角が動くと竜を素抜ける形にします。伊藤女流四段は24分の熟考で7筋の歩を取り込み、△7五歩と金頭を叩いて吊り上げ、更に△7四歩と打ちます。里見女流王位は残り1時間となり、▲7三歩と叩いて桂で取らせ、慎重に31分考えて△8一銀と後手玉に迫ります。伊藤女流四段は残り8分まで考えて△6二金とかわしますが、形勢は大きく里見女流王位に傾いてきたようです。

伊藤女流四段の粘り

里見女流王位が▲5四歩と銀取りに打つと、伊藤女流四段は△4二銀と引いて先手の竜の自陣への利きを止めます。里見女流王位が▲7二歩と垂らすと、伊藤女流四段は△5一銀と引いて先手の竜の横利きを止めます。里見女流王位が5筋の歩を成り捨て、竜を角と刺し違えて王手金取りに▲7一角と打つと、伊藤女流四段は△8一玉と銀を取ります。里見女流王位は▲5三角成と金を取って馬を作りますが、伊藤女流四段は△6二銀打と馬に当てて粘ります。

伊藤女流四段の辛抱

里見女流王位は▲7四金と前進し、伊藤女流四段が△7二銀と垂れ歩を取ると、▲5四馬と引いて間接的に後手玉を睨みます。伊藤女流四段は△8二飛と自陣に投じて辛抱しますが、里見女流王位は▲7五桂と追撃します。伊藤女流四段は△5六竜と引いて馬に当てますが、里見女流王位は馬を取らせる間に▲8三金~▲8二金と飛車を剥がし、▲5四桂と竜を取り返します。

長手数の即詰み

伊藤女流四段は攻防に△6五角と打ちますが、里見女流王位は▲6二桂成と銀桂交換し、角取りに▲3一飛と打ちおろして寄せを目指します。伊藤女流四段が△7六金と先手玉に迫って下駄を預けると、里見女流王位は取れる角を取らずに▲8三銀と王手し、そのまま長手数の即詰みに討ち取りました。

まとめ

本局は伊藤女流四段が囲いを組み直そうとした一瞬の隙に里見女流王位が仕掛け、桂損ながら竜を作って攻め込みました。伊藤女流四段も竜を作って反撃しましたが、里見女流王位は要所で時間を使って丁寧に受け、駒損を回復しつつ後手玉に迫りました。伊藤女流四段は懸命に粘りましたが及ばず、最後は里見女流王位が鮮やかな即詰みに討ち取りました。
里見女流王位は3勝1敗で防衛を果たし、5連覇(通算9期)を達成しました。西山女流三冠を挑戦者に迎え、7月からは清麗戦五番勝負が、8月末からは白玲戦七番勝負が始まります。五冠を維持し「体調に気をつけて、いい状態で力を出しきれるようにしたい」と語った里見女流王位が、ライバルとの好勝負を展開することを期待したいと思います。

女流王位戦は新聞三社連合が主催しています。
棋譜は下記サイトをご確認ください。


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