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「観る将」が観た第1期白玲戦七番勝負第四局

10月16日、白玲戦七番勝負第四局が奈良市の「ふふ奈良」で行われました。ここまで3連勝してきた西山朋佳女流三冠が一気に初代白玲の座を射止めるのか、渡部愛女流三段が1つ返して流れを変えるのか注目されます。

西山女流三冠が黒地に花柄の凛とした着物で入室すると、しばらくして渡部女流三段が桃色に花柄の華やかな着物で入室します。立会人を初めて務める奈良出身の斎藤慎太郎八段が対局開始を告げると、先手の渡部女流三段は飛先の歩を突き、西山女流三冠は角道を開け三間飛車に振ります。渡部女流三段が銀冠に構えると、西山女流三冠は△5一角~△3四飛と石田流の駒組みを進めます。

渡部女流三段は後手の囲いが完成する前に、飛車を3筋に寄せて揺さぶります。西山女流三冠も強く△2五桂と跳ねて開戦します。渡部女流三段は4筋の歩を伸ばし、取った歩を▲2六歩と打って桂得の戦果を挙げます。ここで西山女流三冠はお互いの角道を止める△5五歩と伸ばし、渡部女流三段が47手目を考慮中に昼休となりました。形勢はほぼ互角、残り時間は西山女流三冠が2時間55分、渡部女流三段が2時間7分と1時間近く差が付いてきました。

昼休明け、渡部女流三段は6筋の歩を伸ばして後手の角の動きを牽制します。西山女流三冠が銀取りに△4七歩成と"と金"を作りますが、渡部女流三段は手抜いて▲8五桂と角取りに打ちます。西山女流三冠が角を引くと、渡部女流三段は▲5五角と王手香取りに角を飛び出し好調に攻め立てます。渡部女流三段が▲1一角成と香を取って馬を作ると、西山女流三冠も"と金"で銀を剥がしてから△8四歩と桂取りに伸ばして反撃します。

渡部女流三段は▲3七歩と後手の銀を追い返し、▲4九香と打って後手からの△4四角の王手を防ぎます。西山女流三冠は手順に銀を引き、自陣を引き締めてから玉頭の桂を取り払います。この辺りのやり取りで、西山女流三冠が少し指しやすい状況になってきたようです。西山女流三冠は△5三角と上がって、自玉の懐を拡げるとともに先手の玉頭を睨みます。渡部女流三段の残り時間が1時間を切りました。西山女流三冠はまだ2時間以上残しています。

渡部女流三段は▲2五歩~▲4四歩と、飛車と4筋に打った香の活用を図りますが、西山女流三冠は△4五歩と手厚く受けて許しません。逆に西山女流三冠は△3六飛~△7六飛と飛車を先手の玉頭に回して攻め立てます。渡部女流三段は飛車を6筋に回して▲6三歩成と後手玉に迫りますが、ここで1分将棋となりました。西山女流三冠が飛車取りに▲6七歩と叩くと、渡部女流三段は手抜いて▲4四馬と金を取る勝負手を放ちます。

まだ1時間15分残している西山女流三冠ですが、あまり時間を使わずに飛車を取って"と金"を作ります。渡部女流三段は▲5四角と王手飛車を掛けますが、当然西山女流三冠の読み筋に入っておりノータイムで歩合いで受けます。渡部女流三段は飛車を取りますが、西山女流三冠は△7八"と"から寄せに入ります。最後は西山女流三冠が△5六角から即詰みに討ち取り、渡部女流三段は無念の投了となりました。

本局は渡部女流三段が積極的に仕掛け、調子良く攻めている局面もありましたが、西山女流三冠は攻め合いに持ち込み次第に主導権を握る展開となりました。最後は玉頭戦となり、先手陣の守備駒を順次削った西山女流三冠が、手厚い陣形を築いて寄せ切りました。この結果、西山女流三冠は4勝0敗と圧倒的な強さで初代白玲の座に就くとともに、自身最多の女流四冠となりました。渡部女流三段は4局とも積極的な指し回しでリードする局面がありましたが、中終盤に掛けて「豪腕」と言われる西山女流三冠の怒涛の攻撃の前に涙を呑むこととなりました。

対局後の会見では、白玲戦の創設当初から携わった日本将棋連盟常任理事の清水女流七段が感極まる場面もあり、女流棋界の発展に向けた本棋戦への想いの深さを感じさせました。西山女流四冠は「初代白玲を預からせていただくことが決まり、まだ少し茫然としている感じも残っている」「当初から思い描いていたビジョンでもあり、この上ない喜びと感じている」と言葉を選びながら話しています。里見女流四冠とタイトル数で並び、今後も2人の覇権争いから目が離せません。

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