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「観る将」が観た第4期白玲戦七番勝負第一局

8月31日、ヒューリック杯白玲戦七番勝負が東京都港区の「グランドニッコー東京 台場」で開幕しました。第2期から3期連続で西山朋佳白玲と福間香奈女流五冠の顔合わせとなっています。第2期には4勝3敗で福間女流五冠が奪取しましたが、前期は西山白玲が4勝3敗で奪還しており、今期も白熱した好勝負が期待されます。

両者のこれまでの対戦成績は、西山白玲が30勝、福間女流五冠が37勝となっています。今年度の成績は、西山白玲が18勝1敗、福間女流五冠が13勝2敗とともに好調です。4月以降、マイナビ女子オープン、女流王位戦、清麗戦では両者の直接対決はありませんでしたが、今後は女流王将戦、女流王座戦、倉敷藤花戦、女流名人戦で戦う可能性が残っており、まさに女流棋界を支える二人による頂上決戦となります。

前夜祭では、西山白玲は「番勝負を終えたあとに学びのある時間だったと思えるように、精一杯頑張りたいと思いますので、見守っていただけますと幸いです」と挨拶しています。先日妊娠を発表し、本シリーズではテーブル・椅子での対局と和服非着用の特例が認められた福間女流五冠は、関係者の配慮への感謝を述べた後、「今期の白玲戦は、いつもと違った状況ではありますが、自分の全力を尽くして戦っていきたいと思います」と意気込みを話しています。


戦型は相振り飛車

洋室にテーブルと椅子が設けられた対局室に、福間女流五冠が黒地の裾に花柄の入ったワンピースで入室すると、すぐに西山白玲が藤色の着物に象牙色の袴で入室します。振り駒で先手となった福間女流五冠は初手に5筋の歩を突いて銀を繰り出し、西山白玲が9筋の端歩を受けると、10分程少考して中飛車に振ります。西山白玲は△3三角と上がり、福間女流五冠が5筋の位を取ると、向かい飛車に振ります。

福間女流五冠は左玉

西山白玲が玉を6筋から7筋へ移動すると、福間女流五冠も玉を6筋から7筋へと移動し、居飛車のような左玉にします。西山白玲は美濃囲いに組み、福間女流五冠が▲5七銀と繰り出して2枚の銀を縦に並べると、飛車を4筋に回します。福間女流五冠が飛車を3筋に回して後手の角頭を狙うと、西山白玲は34分の熟考で△2二角と引いて緩和し、4筋の歩をぶつけて仕掛けます。次の35手目を福間女流五冠が考慮中に昼休となりました。各4時間の持ち時間の内、残り時間は西山白玲が2時間22分、福間女流五冠が2時間41分となっています。

4筋の歩を巡る攻防

福間女流五冠は昼休を挟む28分の熟考で同歩と応じ、西山白玲が5筋の歩も突き捨てて銀を繰り出すと、飛車を4筋に寄って歩を支えます。西山白玲が△5五歩と打って先手の銀を追い、△3三桂と跳ねて4筋の歩を取りに行くと、福間女流五冠は▲3七桂と跳ねて利きを足します。西山白玲は△4五桂と歩を取り、福間女流五冠が同桂と応じると、△4四歩と打って桂を取り返しにいきます。

桂を犠牲に竜を作って攻め込む西山白玲

福間女流五冠が桂を取らせる間に3筋の歩をぶつけて取り込むと、西山白玲は△4六桂と打って金に当てつつ先手が飛車を3筋に回すのを防ぎます。福間女流五冠は28分の熟考で金を6筋にかわし、西山白玲が△4四飛と浮くと、▲4六歩と打って桂を取りにいきます。西山白玲は桂を取らせる代わりに△3四飛~△3九飛成と竜を作り、福間女流五冠が9筋の歩をぶつけると、構わず△3六歩と垂らして"と金"作りを目指します。

福間女流五冠の辛抱

残り1時間を切った福間女流五冠は▲3八歩と受け、西山白玲が△2四角と覗いて先手の飛車を捌きを封じると、じっと飛車を5筋に寄って辛抱します。西山白玲は△9五歩と手を戻し、福間女流五冠が▲9三歩と垂らすと、△4六歩と2枚目の垂れ歩を放ちます。福間女流五冠は▲4八銀と引いて歩成を防ぎつつ竜に当て、西山白玲も残り1時間を切ったところで△3八竜と引いてかわすと、▲3九歩と更に竜を追います。

西山白玲の"と金"攻め

西山白玲が竜を2筋にかわすと、福間女流五冠は▲6五歩とぶつけて角道を通します。西山白玲が△3七歩成と"と金"を作って銀に当てると、福間女流五冠は▲5九銀とかわしつつ飛車の利きを竜に当てます。西山白玲は竜飛交換に応じてから△4七歩成と2枚目の"と金"を作って銀に当て、福間女流五冠が構わず▲9四桂と王手すると、ノータイムで△7一玉とかわします。西山白玲が好調に攻めているように思われましたが、福間女流五冠が待望の反撃に転じ、形勢も先手に傾き始めたようです。

福間女流五冠の反撃

福間女流五冠は6筋の歩を取り込んで金に当て、西山白玲が金を5筋に寄ってかわすと、▲2二飛と打ち込んで後手玉の退路を塞ぎます。西山白玲は△4二歩と打って飛車の横利きを止め、福間女流五冠が▲2三飛成と竜を作って角に当てると、△3五角とかわします。福間女流五冠が角金両取りに▲3三竜と寄ると、西山白玲は角を逃げると金を素抜かれてしまうので、△3六飛と角に紐を付けて辛抱します。

福間女流五冠の猛攻

福間女流五冠が竜で角を食いちぎり、銀取りに▲6六桂と打つと、西山白玲は△3四飛と引いて銀に紐を付け、銀桂交換を甘受します。福間女流五冠は飛車取りに▲6五銀と打ち、西山白玲が飛車をかわすと、▲5四歩と金頭を叩きます。西山白玲は金を引いてかわし、福間女流五冠が▲5五角と飛び出して1筋の香を狙うと、"と金"で先手陣の銀を剥がしてから、△9三香と自玉に迫る桂を攻めます。

攻め合いを目指す西山白玲

福間女流五冠が桂を取られる前に▲8二角と王手して、後手玉を6筋に追ってから香を取って馬を作ると、苦しくなってきた西山白玲は△4七"と"と寄って銀に当てつつ飛車の利きを先手陣に通します。福間女流五冠が▲7一角成と2枚目の馬を作ると、西山白玲は再度"と金"で銀を剥がしてから△3七飛成と竜を作りますが、形勢は大きく先手に傾いているようです。

西山白玲の痛烈な香打ち

持ち時間を使い切って1分将棋となった福間女流五冠が▲4七金打と竜を追い、▲5三歩成と飛び込んで後手陣の金を剥がすと、西山白玲は△5二歩と馬を追います。福間女流五冠は手抜いて▲6六馬と自陣に引き付けて竜に当てますが、西山白玲も1分将棋となり△7七香と王手します。先手玉にも危険が迫って形勢はほぼ互角に戻り、どちらが勝つのかわからない大熱戦になってきました。

西山白玲の連続王手

この香を馬で取ると竜取りが消え、後手玉を追い詰めている馬が取られてしまうので、福間女流五冠は桂で取りますが、西山白玲は空いたスペースに△8九銀と打って王手を続けます。この銀を取ると竜で金を取られて寄り筋になってしまうので、福間女流五冠が玉を6筋にかわすと、西山白玲は△8八飛~△6七歩と王手で畳み掛けます。

西山白玲の猛攻

福間女流五冠はやむなく馬で歩を取り、西山白玲が△5三歩と馬を取ると、▲6三歩成と"と金"を作って攻めの拠点を残します。西山白玲は△2四角と王手し、福間女流五冠が持ち駒の金を投じて角に当て返すと、馬金両取りに△5五桂と打ちます。福間女流五冠が▲6六馬とかわすと、西山白玲は△6七銀と放り込んで金で取らせ、△6九竜と金を食いちぎります。

長手数の即詰み

この竜を取ると先手玉は詰んでしまうので、福間女流五冠は玉を5筋に上がってかわし、西山白玲が金桂交換してから△7八銀不成と馬に当てると、金で角を取りつつ自玉の退路を作ります。先手玉には長手数の即詰みが生じているようで、西山白玲は竜で馬を取って王手し、△5五金とタダ捨てしてから△5四香と王手を続けます。福間女流五冠は数手指し続けましたが、西山白玲が△4三銀と王手したところで投了を告げました。

まとめ

本局は西山白玲が桂を犠牲に竜を作り、"と金"を2枚作って主導権を握ったかに見えましたが、福間女流五冠は辛抱して決め手を与えず、端攻めから攻守を入れ替えて勝勢となりました。西山白玲は苦しいながらも攻め合いに持ち込み、一瞬のチャンスを逃さず痛烈な香打ちで形勢を互角に戻しました。両者1分将棋の中、西山白玲は攻め続けて先手玉を追い詰め、152手の激闘を制しました。
終局直後のインタビューで、先勝した西山白玲は次局に向け「できる限りの準備をして挑めたらいいなと思います」と話しました。福間女流五冠は椅子とテーブルでの対局について「すごく良い環境を整えていただいて、集中して指すことができました」と話しており、次局以降も熱戦が続くことを期待したいと思います。

ヒューリック杯白玲戦は、ヒューリック株式会社と日本将棋連盟が主催しています。棋譜等は下記サイトをご覧ください。


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