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「観る将」が観た第12期女流王座戦第一局

10月26日、第12期リコー杯女流王座戦五番勝負がホテル椿山荘東京で開幕しました。

里見香奈女流王座は前期通算5期目となるタイトル奪還を果たし、クイーン王座の資格を得ています。先日白玲戦七番勝負に勝ち女流六冠に返り咲いていますが、女流王将戦は最終第三局を残しており、11月からは倉敷藤花戦の防衛戦も始まります。

挑戦者の加藤桃子女流三段は、過去に女流王座を通算4期獲得しており、今期タイトル奪還に成功すればクイーン王座の資格を得ることができます。今夏行われた清麗戦五番勝負では、里見女流王座に敗れて失冠しており、本シリーズはリベンジマッチという思いもありそうです。

中飛車で銀対向

加藤女流三段が緑色の着物と辛子色の袴で入室し、里見女流王座は桜色に花柄の着物と紫色の袴で入室します。振り駒で先手となった里見女流王座が中飛車に振り、加藤女流三段は右銀を前線に繰り出し銀対向の形になります。里見女流王座は飛先の歩を交換して▲5四歩と垂らし、7筋の歩をぶつけます。加藤女流三段が5筋を歩で受けると、里見女流五冠は7筋の歩を取り込みます。

挑戦者の研究手順

ここまで両者の対局で前例があったようですが、ここで加藤女流三段が研究手順なのかノータイムで飛車を7筋に寄せて前例を離れます。里見女流王座もノータイムで銀をぶつけますが、加藤女流三段が飛車で歩を取ると、初めて6分手を止めて銀を交換します。里見女流王座は▲5五角と飛び出し飛車に当てますが、加藤女流三段は迷わず△6七飛成と竜を作ります。里見女流王座も▲9一角成と馬を作りますが、加藤女流三段は△6八銀と打って金と交換し、△6八同竜と王手が掛かります。

中空の歩

里見女流王座が持ち駒の銀を投じて受けると、加藤女流三段は角道を開けて馬を作りにいきます。里見女流王座が36分の熟考で後手の竜と角の利きに▲6六歩と打つと、ここまでわずか1分の消費で指し続けてきた加藤女流三段は18分考えて左高美濃に入城します。里見女流王座は馬で桂を取り、加藤女流三段が4筋の歩をぶつけると、馬を引いて4筋の守りに利かせます。加藤女流三段が△6六角と歩を取って飛び出したところで昼休となりました。各3時間の持ち時間の内、残り時間は里見女流王座が1時間38分、加藤女流三段が2時間39分と1時間近い差が付いています。

田楽刺し

昼休が明けるとすぐ、里見女流王座が竜角両取りに▲7七銀と打つと、加藤女流三段は竜を飛車と刺し違えてから角を引きます。里見女流王座が4筋の歩の裏から▲4五香と金の田楽刺しにすると、加藤女流三段は15分熟考して持ち駒の金を差し出して辛抱します。里見女流王座が金香交換してから47分の長考で▲4六歩と取り込むと、加藤女流三段は7筋の銀頭を歩で叩いてから△8八飛と打ち込みます。里見女流王座の残り時間が1時間を切りました。

攻防の馬

里見女流王座も▲6一飛と打ち込みますが、加藤女流三段は△8九飛成と桂を取りながら竜を作ります。里見女流王座が角取りに▲2五桂と打つと、加藤女流三段は20分考えて角を2筋にかわします。里見女流王座は竜取りに▲5六馬と引き付けて攻防に利かせると、▲5五銀と前進して中央を制圧します。この銀を取ると王手竜取りが掛かるので、加藤女流三段は△3五金とかわして桂に当てます。

挑戦者の勝負手

里見女流王座は構わず銀を前進し、加藤女流三段が金で桂を取ると、金取りに▲3四馬と出て後手玉に迫ります。加藤女流三段は持ち駒の桂を打って金に紐を付けますが、里見女流王座は▲4三金と打って殺到します。苦しくなってきた加藤女流三段は、△2六香と歩頭に打ち捨てる勝負手を放ちます。里見女流王座は同歩と応じ、加藤女流三段が△2六同金と先手玉に迫ると、落ち着いて歩で蓋をします。加藤女流三段は金を見捨てて△4七桂と金銀両取りに打ち、金を取らせる代わりに△3九桂成と銀を取ります。

瞬く間の寄せ

里見女流王座は3分程の少考で、▲4一飛成と金を食いちぎって寄せに入ります。加藤女流三段は△2七香と王手で打ちますが、里見女流王座が1筋に玉をかわすと続きません。加藤女流三段はやむなく飛車を取りますが、里見女流王座は▲3二金と打って即詰みに討ち取りました。

まとめ

本局は加藤女流三段が研究手順と思われる指し手を続け、ほとんど時間を使わないまま竜を作って先手陣に攻め込みました。しかし里見女流王座が後手の角と竜の利きに打った歩が好手だったようで、加藤女流三段の攻めが失速してしまいました。里見女流王座は竜角両取りに自陣に打った銀まで攻撃に参加させ、全ての駒が躍動する形で後手陣を一気に押しつぶしてしまう快勝となりました。
11月16日に予定されている第二局では先手番となる加藤女流三段が、どのような工夫を魅せてくれるのか楽しみにしたいと思います。

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