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「観る将」が観た第16期マイナビ女子オープン五番勝負第三局

5月28日、マイナビ女子オープンの第三局が神奈川県藤沢市の「時宗総本山 遊行寺」で行われました。防衛にあと1勝と迫った西山朋佳女王が一気に決着を付けるのか、前局から1か月以上間隔が空いてリフレッシュした甲斐智美女流五段が巻き返すのか、注目の対局となりました。

前日のインタビューでで、西山女王は「明日は新鮮な気持ちで頑張れたら良いなと思っています」、甲斐女流五段は「西山女王を相手に精一杯ぶつかっていって、良い内容の将棋を指せるよう頑張りたいと思います」と意気込みを語っています。

西山女王の三間飛車

西山女王が藤色の着物に鳥の子色の袴で入室すると、甲斐女流五段は桃色の着物に紺色の袴で入室します。後手の西山女王が三間飛車に振ると、甲斐女流五段は9筋の端歩を受けずに急戦調の駒組みを進めます。西山女王は四間飛車に振り直しますが、甲斐女流五段は4筋の歩をぶつけて仕掛けます。

角交換

甲斐女流五段が4筋の歩を取り込むと、西山女王は角で取って角交換します。甲斐女流五段が飛車先の歩を交換すると、西山女王は9筋の位を取って美濃囲いに構えます。甲斐女流五段も陣形を整え、西山女王が44手目を考慮中に昼休となりました。各3時間の持ち時間の内、残り時間は西山女王が1時間49分、甲斐女流五段が2時間13分となっています。

地下鉄飛車

昼休が明け、両者とも陣形を変えながら間合いを測りますが、中央で金銀4枚を連結させた先手陣は手厚く、金銀がばらけた後手陣は薄く見えます。西山女王が△8四歩~△8三玉~△7三桂と、玉で桂頭を守る形にして桂を跳ねると、甲斐女流五段は▲8九飛と地下鉄飛車を通して後手の玉頭を狙います。

桂交換

西山女王も9筋の香を上がって地下鉄飛車を目指すと、甲斐女流五段は42分の長考で▲2六角と打って銀に当て、後手の飛車の動きを牽制します。西山女王が25分の熟考で△6二金と寄って5三の地点を守ると、甲斐女流五段は8筋の歩をぶつけて桂を交換します。西山女王が2筋の歩を伸ばして先手の角を追い、△4三金と前進すると、甲斐女流五段は4筋の歩もぶつけて桂交換を図ります。

桂の打ち合い

西山女王が4筋の桂を取り返す前に△9六歩とぶつけると、甲斐女流五段は26分の熟考で▲9五桂とタダ捨てし、吊り上げた香取りに▲8七桂と打ちます。西山女王は△9七歩成と飛び込み、甲斐女流五段が▲9五桂と香を取って王手すると、△7三玉とかわします。甲斐女流五段が香で"と金"を取ると、西山女王は香取りに△8五桂と打ち返します。

激しい玉頭戦

甲斐女流五段は▲8八香と二段ロケットを設置し、西山女王が△9七桂成と香を取ると、▲8四香と走って詰めろを掛けます。西山女王が△8七角と王手で飛車の利きを遮断すると、甲斐女流五段は飛車と角桂の2枚替えに応じます。西山女王は王手で△8九飛と打ち、甲斐女流五段が玉を7筋にかわすと、△8四飛成と香を外して詰めろを逃れます。形勢はわずかに西山女王に傾いているようです。

甲斐女流五段の反撃

甲斐女流五段が飛金両取りに▲3二角と打ち込むと、西山女王は△8一飛とかわして詰めろを掛けます。1分将棋に突入した甲斐女流五段が歩の連打で詰めろを解除し、▲9六歩と桂を支えると、西山女王は△8六竜と歩を外しにいきます。甲斐女流五段は▲4三角成と金を取って馬を作り、9筋を明け渡す代わりにもう1枚の角で▲4四角と銀も取ります。形勢は大きく駒得した甲斐女流五段が逆転しているようです。

金駒を独占

西山女王は竜で先手玉を追いますが、甲斐女流五段は桂の合い駒でかわすと、▲5三桂成と反撃します。西山女王は△9八飛成と2枚目の竜を作って詰めろを掛けますが、甲斐女流五段は▲6八銀と引いて逃れます。西山女王も1分将棋に突入し、玉の上部脱出を図りますが、甲斐女流五段は成桂で更に金銀を取って詰めろを掛けます。8枚すべての金駒を手にした甲斐女流五段が勝勢となっています。

死闘の終焉

甲斐女流五段は▲6二角成と王手を掛け、西山女王が香で合い駒すると、馬で香を食いちぎって王手を続けます。後手玉には長手数の即詰みもあったようですが、甲斐女流五段は時間に追われる中、もう1枚の馬の利きを通して詰めろを掛けて手を渡します。西山女王は△9六角と王手し、△6五桂と歩頭に打って馬の利きを止めて詰めろを逃れます。対局後の検討では、先手が馬でこの桂を取ってしまえば勝ちだったようですが、甲斐女流五段は▲8六金から連続王手し、▲9八馬と竜を剥がします。西山女王が△6八金から連続王手すると、甲斐女流五段は潔く投了を告げ、二転三転した138手の死闘は幕を閉じました。

まとめ

本局は甲斐女流五段が仕掛けて角交換となりましたが、本格的な戦いには至らず、お互いに間合いを測る展開となりました。甲斐女流五段は地下鉄飛車を通して玉頭から攻め掛かりましたが、西山女王が凌いで竜を作りわずかにリードを奪ったように見えました。甲斐女流五段は逆サイドから攻め掛かり、大きく駒得して逆転しましたが、時間に追われて決めきれませんでした。最後は両者1分将棋に突入し、手に汗握る激闘となりましたが、西山女王が歩頭桂を放って再逆転し寄せ切りました。
西山女王は3勝0敗で防衛を果たし、女王6連覇となりました。甲斐女流五段には奨励会時代からお世話になっていたそうで、対局後には「尊敬している甲斐さんと番勝負ができたことが自分にとって今後の糧になると思います」と話しています。
甲斐女流五段は「初タイトルを獲得できた棋戦で、引退を決めてから対局させていただけたので光栄と感じました。西山女王と番勝負で一局一局学ぶことがいっぱいあって、すごくよかったなと思います」と話しており、リスペクトし合う両者の恐らくは最後になるであろう対局は、観る者の心にも響く名局だったと思います。

マイナビ女子オープンは、株式会社マイナビと日本将棋連盟が主催しています。棋譜は下記公式サイトをご確認ください。


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