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第2回女流ABEMAトーナメント本戦決勝

12月4日、第2回女流ABEMAトーナメント本戦決勝が配信されました。準決勝でチーム里見をフルセットの熱戦の末降したBリーグ1位のチーム西山「ウォリアー」と、Aリーグ1位のチーム伊藤を破ったBリーグ2位のチーム加藤「野生の桃」の顔合わせとなりました。両チームは予選でも対戦しており、チーム西山が5勝2敗で制しています。決勝での再戦でチーム加藤のリベンジが成るか、楽しみな対決となりました。

■一局目 上田初美女流四段 〇 vs ● 香川愛生女流四段
チーム西山が初戦からタイムアウトを要求し、藤井猛監督は上田女流初段の作戦をアドバイスし、渡辺明監督は気合で頑張るだけと香川女流四段を送り出します。後手の香川女流四段が3筋の位を取って三間飛車に振り、上田女流四段は居飛車で▲6八銀と上がり穴熊を予想する相手の読みを外します。逆に香川女流四段が△9二香と上がり穴熊に囲うと、上田女流四段は6筋の位を取って▲6六角と後手の玉頭を睨みます。お互いにジリジリした駒組みが続きましたが、上田女流四段が▲8五桂~▲9三桂成と単騎で後手陣に跳び込みます。香川女流四段は9筋で得た香を△2五香と飛車取りに打って△2九香成と桂を取り、上田女流四段は▲9九香と打ってあくまでも後手の玉頭を狙います。香川女流四段が△5四桂から先手陣に殺到すると、上田女流四段は▲7五角と援軍を送り、この角も切って▲8五桂と後手陣に攻め掛かります。両者強気の応酬が続きましたが、最後は上田女流四段が3枚の桂をうまく使って即詰みに討ち取りました。

■二局目 上田初美女流四段 〇 vs ● 野原未蘭女流初段
チーム西山は事前にメンバーで話し合っていたという上田女流四段の連投です。先手の野原女流初段が初手▲9六歩と英春流の出だしを見せると、上田女流四段は中飛車に振ります。野原女流初段が飛車を3筋に寄せると、上田女流四段も飛車を3筋に振り直してから5筋の位を取ります。野原女流初段が▲5五銀から銀交換すると、上田女流四段はすぐに△6五銀と打って先手の玉頭に圧力を掛け、飛車を5筋に戻して先手の銀を狙います。野原女流初段も▲6六銀と打って守りを固めますが、上田女流四段は△7六銀と歩を取って先手の玉頭に迫ります。野原女流初段が▲6四銀と攻めの姿勢を見せると、上田女流四段は△5四歩と相手の攻めを催促し、▲4四銀から先手の飛銀と後手の角金の交換になります。野原女流初段が▲4三角~▲2一角成と馬を作ると、上田女流四段も△4九飛~△2九飛成と竜を作り寄せ合いとなります。野原女流初段は馬桂香香を後手の玉頭に利かせる迫力の攻めを見せましたが、上田女流四段は金銀を自陣に打って凌ぎ、取った桂を△7六桂と打って鮮やかな即詰みに討ち取りました。

■三局目 西山朋佳女流三冠 ● vs 〇 加藤桃子女流三段
チーム西山が2連勝の好スタートを切り、予選では実現しなかったリーダー対決となりました。先手の西山女流三冠が初手▲7八飛と三間飛車に振ると、加藤女流三段は△3一角~△5三角と転回します。これを見た西山女流三冠は飛車を5筋に振り直し飛先の歩を交換します。加藤女流三段は左美濃、西山女流三冠は美濃囲いに構え、お互いにじっくりと戦機を探ります。西山女流三冠が▲6五桂と仕掛けると、加藤女流三段は8筋の歩を伸ばして角交換します。西山女流三冠は▲7三桂成と桂交換して▲4六角と打って後手の7筋と1筋を睨みますが、加藤女流三段は△6六桂と金取りに打ち△8八角~△8七飛成と8筋を突破します。西山女流三冠は▲1五歩と端攻めして1筋を詰めますが、加藤女流三段は△5八歩から飛車角交換し、△8九飛と打って2枚飛車で先手陣に迫ります。西山女流三冠は自陣に角を打って粘りますが、加藤女流三段は冷静に成桂で角を取り△3九角と王手で先手玉を追い詰めます。西山女流三冠は必死に逃げ道を作ろうとしますが、加藤女流三段は落ち着いて△4八角成と退路を塞ぎます。西山女流三冠は▲4二飛から竜を作って後手陣に迫りましたが、最後は加藤女流三段が△3九竜から必至を掛け勝ち切りました。

■四局目 山口恵梨子女流二段 ● vs 〇 野原未蘭女流初段
リーダーの今大会初黒星で暗雲漂うチーム西山は、山口女流二段が手を挙げて出陣です。先手の野原女流初段はいつも通り初手▲9六歩と突き、山口女流二段は中飛車に構えます。野原女流初段が二局目と同様袖飛車にすると、山口女流二段も3筋に飛車を振り直します。山口女流二段が5筋の位を取ると、野原女流初段は銀を繰り出して5筋の歩を取りにいきます。山口女流二段は金を前進させて5筋の位を守り、先手の銀を押し返し盤面全体を制圧しているように見えます。野原女流初段が▲3七桂と跳ねると、山口女流二段は△3五歩と仕掛け銀交換します。この瞬間、藤井監督が思わず顔をしかめましたが、チャンスが巡ってきた野原女流初段は▲4六銀と打ち5筋から攻め掛かります。山口女流二段も△7五歩から先手の角頭を狙いますが、野原女流初段も▲2二角成から2筋を突破し竜を作ります。山口女流二段は先手玉に殺到して詰めろを掛けましたが、野原女流初段が反撃に転じて即詰みに討ち取りました。

■五局目 山口恵梨子女流二段 ● vs 〇 香川愛生女流四段
チーム西山は、負けて悔しい山口女流二段が連投します。両者とも居飛車も振り飛車も指しこなすオールラウンダーで戦型選択が注目されましたが、先手の山口女流二段が初手▲2六歩で居飛車を宣言すると、香川女流四段は三間飛車に振ります。香川女流四段が美濃囲いに構えると、山口女流二段は▲9八香と上がって穴熊を目指します。香川女流四段が△5一角と引いて角の転回を目指すと、山口女流二段は囲いを後回しにして▲5五歩と仕掛けます。山口女流二段は銀を犠牲にして▲1一角成と馬を作り、香川女流四段がは△5七銀成と攻撃の拠点を作ります。山口女流二段は▲5九香と打って銀を取り返しますが、香川女流四段は△6六角と打って馬を作ります。山口女流二段は▲3三角成と飛車と交換しますが、香川女流四段は手順に左桂を捌いて△5七桂成と飛び込みます。山口女流二段は▲4一飛と打って竜を作りますが、香川女流四段は落ち着いて△4四角と王手し△6六香と小駒で先手の金駒を剥がし、△5七角成と2枚目の馬を作って寄せ切りました。

■六局目 西山朋佳女流三冠 〇 vs ● 加藤桃子女流三段
チーム加藤が怒涛の3連勝で勝ち越し、再びリーダー対決になりました。後手の西山女流三冠は中飛車に振り、加藤女流三段は超速3七銀から銀対向の形になりました。西山女流三冠は飛車を3筋に振り直し、美濃囲いを完成させると先手の囲いが完成する前に積極的に仕掛けます。加藤女流三段も左美濃を完成させますが、西山女流三冠は△4七銀成と飛び込み竜を作ります。加藤女流三段が▲6四歩から反撃すると、西山女流三冠は左金を上がって凌ぎます。加藤女流三段が角取りに▲5四銀成としますが、西山女流三冠は手抜いて△5五桂と金取りに打ち△6七銀と先手玉に迫ります。加藤女流三段は▲3九歩と打って後手の竜を自玉のラインから外そうとしますが、西山女流三冠は△3八銀成と王手で金を剥がすと、更に△3八同竜と竜も切って先手玉に迫ります。加藤女流三段は▲3二飛と打ち込み詰めろを掛けますが、西山女流三冠は△5二歩と詰めろを逃れると再び先手玉に殺到します。最後は西山女流三冠が先手玉の退路を断ち、加藤女流三段の投了となりました。

■七局目 山口恵梨子女流二段 ● vs 〇 野原未蘭女流初段
3勝3敗のタイスコアとなり、改めて三番勝負の形になりました。チーム西山がタイムアウトを要求し、四局目の再戦ということもあり、藤井監督も渡辺監督も具体的な作戦をアドバイスして送り出します。先手の山口女流二段は初手▲5六歩から中飛車に振り、野原女流初段はまたしても袖飛車に構え△5四歩と上がって5筋の位を許しません。野原女流初段は△6五銀とぶつけて開戦し、お互いの駒台に角と銀が乗ります。山口女流二段が銀取りに▲6六銀と打つと、野原女流初段も△6四銀と打って手堅く守ります。時間がなくなってきた山口女流二段が力強く▲4六角と据えると、野原女流初段も△4四角と打って対抗します。ジリジリとした手待ちが続きましたが、野原女流初段が△4五桂と跳ねると、山口女流二段は▲6五銀と銀桂交換し▲9一角成と馬を作ります。野原女流初段も馬を作り△6八銀~6七銀不成と2枚の銀で飛車を攻めると、山口女流二段は飛車を見捨てて▲5五馬~▲4五桂と後手陣に迫ります。野原女流初段は"と金"で先手陣の金を1枚剥がし△4四金と守りに投じて凌ぐと、△7八飛と打ち込み寄せに入ります。山口女流二段は▲7七馬と引き付けて粘りますが、最後は野原女流初段が即詰みに討ち取りました。

■八局目 西山朋佳女流三冠 〇 vs ● 香川愛生女流四段
カド番のチーム西山はリーダーに託します。チーム加藤がタイムアウトを要求し、藤井監督も渡辺監督も「大丈夫」と励まして送り出します。後手の西山女流三冠が先に三間飛車に振ると、香川女流四段は向かい飛車に振り相振り飛車の将棋となりました。西山女流三冠が飛先の歩を交換し四段目に引くと、香川女流四段も飛先の歩を交換して五段目に引き、9筋から仕掛けて香交換します。西山女流三冠は再度飛先の歩を交換し、△6六飛と角と交換して△4五桂と攻め掛かります。香川女流四段が▲8七香と後手の玉頭を狙うと、西山女流三冠は△6九角と香取りに打ち込みます。香川女流四段は▲6七飛と角取りに打って香を守りますが、西山女流三冠は△7八銀と打って飛車角交換します。西山女流三冠は更に△3一香と打って先手玉を狙い、指をしならせて△6七飛と金銀両取りに打ちます。香川女流四段は▲6八飛と粘りますが、6分近く残している西山女流三冠の流れるような攻めは止まりません。香川女流四段は額に手を当て時間切れ寸前まで考えて▲5八金と自陣に投入しますが、西山女流三冠の△4八銀を見て無念の投了となりました。

■九局目 上田初美女流四段 ● vs 〇 加藤桃子女流三段
ついにフルセットにもつれ込み、この日好調の上田女流四段とリーダーの加藤女流三段の顔合わせとなりました。チーム加藤がタイムアウトを要求し、藤井監督は準決勝に続いて円陣を組み、渡辺監督はリーダーを励まして送り出します。先手の上田女流四段が四間飛車に振り穴熊を目指すと、加藤女流三段は△4四角と飛び出しミレニアムに囲います。加藤女流三段が早速△2五桂と跳ねると、上田女流四段は銀を前進し▲2五銀と桂と交換します。加藤女流三段は△7九角成と馬を作り、飛車取りに△6七馬としますが、上田女流四段は▲5七飛とぶつけて馬と交換します。加藤女流三段が△2七歩で先手の穴熊を崩し△5九飛と金の両取りに打ち込むと、上田女流四段は自陣に角を打って粘ります。上田女流四段は馬を作って歩で後手陣を乱しますが、加藤女流三段は飛車で角を食いちぎり△5九竜と攻め込みます。上田女流四段は自陣に飛車を打って頑張りましたが、加藤女流三段が△5五角と王手すると受けがなく無念の投了となりました。

【チーム加藤 5勝 vs チーム西山 4勝】
チーム加藤は予選から全員が着実に白星を重ね、予選2位通過から総合力で優勝を勝ち取りました。渡辺監督の明快な指導もこのチームには合っていたようで、メンバーが伸び伸びと力を発揮できた要因の一つになっていたように思います。決勝では2連敗のスタートでしたが、加藤リーダーがここまで無敗の相手リーダーを破って流れを取り戻し、フルセットとなった最終局も安定した指し回しで快勝し有終の美を飾りました。香川女流四段はこの日は1勝に終わりましたが、ここまでチームを勇気づける勝利で大きく貢献してきました。野原女流初段は英春流の独特の指し回しで活躍し、準決勝では悔し涙を流す場面もありましたが、この日は2勝して嬉し涙を流しました。まだ10代の高校生であり、今後各棋戦での躍進を期待したいと思います。
チーム西山はリーダーが圧倒的強さを見せてここまでチームを牽引してきましたが、大会を通じて唯一の黒星が響いて無念の準優勝となりました。しかし11勝1敗という成績だけでなく、内容的にも持ち時間を5分以上に増やしての終局が何度もあり、圧巻の勝ちっぷりは観る者を魅了しました。上田女流四段はチームの精神的支柱となり、メンバーを励まし鼓舞してきました。決勝ではいきなり連投で連勝し、最終局に勝っていればMVP級の活躍でした。山口女流二段はなかなか白星には恵まれませんでしたが、挫けそうになりながらも一生懸命指す姿でチームの士気を高めました。藤井監督は振り飛車党の多いメンバーにかなり指導したようで、このチームにとっては最高の監督だったように思います。
今大会は、普段あまり観ることのない女流の将棋を堪能する濃密な機会となりました。団体戦としては、男性の大会よりチームへの想いを強く感じる場面も多く、一味違う感動を与えてくれました。女流ABEMAトーナメントも、次回はより一層パワーアップした大会として開催されることを期待したいと思います。

※加藤女流三段は清麗を獲得していますが、収録時の肩書である女流三段のまま記述しました。

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