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「観る将」が観た第50期女流名人戦第一局

1月14日、岡田美術館杯第50期女流名人戦五番勝負が、神奈川県足柄下郡の岡田美術館で開幕しました。前期に続いて連覇を目指す西山朋佳女流名人に挑むのは、1月1日に昨年結婚したことを発表した福間(旧姓里見)香奈女流四冠です。

西山女流名人は前期が初参戦でしたが、女流名人リーグを8勝1敗で駆け抜け、当時の伊藤沙恵女流名人を3勝1敗で降して奪取しています。
福間女流四冠は第36期から12連覇しており、既にクイーン名人の称号を得ています。今期の女流名人リーグでは少し苦しみましたが、5回戦で敗れて7勝2敗で並んだ内山あや女流初段をプレーオフで破っています。

両者の対戦成績は西山女流名人の29勝34敗と拮抗しています。タイトル戦で顔を合わせるのは今年度だけでも4回目で、白玲を西山女流名人が奪取し、清麗と倉敷藤花を福間女流四冠が防衛しています。女流名人戦での対決は初めてとなりますが、『強く、咲き誇るか。鋭く、返り咲くか』というキャッチフレーズに相応しい熱戦が期待されます。

前日に行われた開幕式で、福間女流四冠は「第50期という大きな節目に対局させていただくことは、大変光栄なことであると感じているとともに、緊張感のあることだと思っております。いま持っている自分なりの精一杯で頑張って参ります」、西山女流名人は「年明けから女流名人戦のタイトルを戦えることに、すごく幸せな気持ちでいます。自分の力をすべて出しきれるように頑張っていきたいと思っております」と挨拶しています。


福間女流四冠は居飛車

落ち着いた雰囲気の対局室に、福間女流四冠が白いスーツ姿で入室すると、西山女流名人は濃紺のワンピース姿で入室します。振り駒で先手となった西山女流名人が7筋の歩を伸ばし、9筋の端歩を突くと、福間女流四冠は8筋の歩を突いて居飛車を選択します。

両者とも浮き飛車に

西山女流名人が四間飛車に振り、玉を3筋まで移動してから三間飛車に振り直すと、福間女流四冠は角を交換してから右銀を△6四銀と繰り出します。西山女流名人は飛車を浮き、福間女流四冠が5筋の位を取ると、9筋の位を取ります。福間女流四冠は8筋の歩を伸ばし、西山女流名人が▲6六銀と繰り出すと、飛車を浮いて備えます。

西山女流名人の苦心

西山女流名人は▲7七桂と跳ね、福間女流四冠が△5二金上と陣形を整えると、飛車を9筋に寄って空けたスペースへの角打ちを狙います。西山女流名人の苦心の駒組みが続き、次の36手目を福間女流四冠が考慮中に昼休となりました。各3時間の持ち時間の内、残り時間は西山女流名人が2時間14分、福間女流四冠が1時間31分となっています。

角の打ち込み

福間女流四冠が昼休を挟む17分の熟考で金取りに△6九角と打ち込むと、西山女流名人は飛車を引いて金に紐を付けます。福間女流四冠は飛先の歩を交換し、次に角金交換からの飛成を狙いますが、西山女流名人は▲8五角と打って阻止します。

福間女流四冠が攻勢

福間女流四冠が9筋の歩をぶつけると、放置すれば桂で角を狙われるので、西山女流名人は35分の熟考で歩交換に応じます。福間女流四冠は香で取り返して飛車に当て、西山女流名人が角で取ると、飛頭を歩で叩いて吊り上げ、△7八角成と金を取って馬を作ります。

福間女流四冠の工夫

西山女流名人も▲6一角成と馬を作り、福間女流四冠が更に飛頭を叩いて△8七飛成と竜を作ると、金取りに▲5四香と打ちます。福間女流四冠は△6二金打と馬に当て、西山女流名人が▲5二馬と金を食いちぎると、△5二同金左と工夫の受けを見せます。この手は守りの金が自玉から離れる形になりますが、先手がすぐに飛車を成れば歩で追う手を秘めた好手のようです。

西山女流名人の辛抱

西山女流名人は▲5二同香成と金香交換してから、▲9二飛成と金桂両取りに竜を作りますが、福間女流四冠は先に金香交換させた効果で△5一香と打って金を守ります。攻めが続かなくなった西山女流名人は自陣に金を埋めて補強し、福間女流四冠が△7六角と攻め駒を足すと、更に▲6八金打と馬に当てて辛抱します。

"と金"攻め

福間女流四冠は△7九馬とかわし、西山女流名人が桂取りに▲8二歩と打つと、△8八竜と入って2枚替えを狙います。西山女流名人は▲5九金寄と防ぎ、福間女流四冠が5筋の歩を突き捨ててから8筋に歩を垂らすと、桂を取って"と金"を作ります。福間女流四冠も8筋に"と金"を作り、西山女流名人が"と金"を7筋に寄せると、△4二金と寄って自陣に打った香の利きを先手陣に通します。

福間女流四冠の丁寧な受け

西山女流名人は銀取りに▲2五桂と打ち、福間女流四冠が△7八"と"と金に当てると、▲5七銀と引いて粘ります。福間女流四冠は△2四銀とかわし、西山女流名人が"と金"を6筋に寄せると、取られそうな香を△5六香と走ります。西山女流名人が構わず"と金"を5筋に寄せると、福間女流四冠は8筋に歩を打って竜の横利きを遮断します。

角取りと竜取り

西山女流名人は▲5六銀と香を取り、福間女流四冠が"と金"で金を1枚剥がしてから△2五銀と桂を取ると、5筋に歩を垂らして銀で取らせ、遊んでいた桂を▲6五桂と跳ねて銀に当てます。福間女流四冠は銀を6筋に引いてかわし、西山女流名人が角取りに▲7八香と打つと、構わず銀取りに△4四桂と打ち返します。西山女流名人は角を取り、福間女流四冠が△6八馬と金を取ると、竜取りに▲6六角と打ちます。

一直線の寄せ

福間女流四冠は竜も見捨てて△5九馬と金をもう1枚剥がし、西山女流名人が竜を取ると、△4九金と打って先手玉に迫ります。受けが効かない西山女流名人は▲8二竜~▲6二竜と形を作りますが、福間女流四冠は△3八金寄~△2八金打と即詰みに討ち取りました。

まとめ

本局は序盤の駆け引きの末、福間女流四冠が居飛車を採用しました。西山女流名人は石田流を目指しましたが、何か誤算があったのか飛車を9筋に回す苦心の駒組みとなり、福間女流四冠が先手陣の隙を突いた角の打ち込みで主導権を握りました。西山女流名人も馬と竜を作って攻め込みましたが、福間女流四冠の工夫の受けで攻めが切れ、辛抱を重ねる将棋となりました。最後は福間女流四冠が角と竜を取らせる間に先手陣を攻略し、寄せ切りました。
先勝した福間女流四冠は、地元出雲で行われる次局に向け「対局を開催してくださりありがたいので、力を尽くせるよう頑張ります」と話しています。西山女流名人は「切り替えてできるだけ調整して臨めたらと思います」と話しており、熱戦を期待したいと思います。

岡田美術館杯女流名人戦は、報知新聞社と日本将棋連盟が主催し、株式会社ユニバーサルエンターテインメントが特別協賛しています。棋譜等は下記サイトをご覧ください。


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