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「観る将」が観た第12期女流王座戦第五局

12月23日、第12期リコー杯女流王座戦五番勝負第五局が、東京の将棋会館で行われました。ここまで両者2勝2敗のタイスコアとなり、里見香奈女流王座が勝って防衛を果たすのか、加藤桃子女流三段が勝って通算5期目の女流王座を獲得してクイーン王座の資格を得るのか、非常に注目される一局となっています。

女流王座の中飛車

先手の里見女流王座が中飛車に振ると、加藤女流三段は5筋の位取りを許さず角交換し、左美濃に囲います。里見女流王座も美濃囲いに構えると、5筋の歩を交換して銀をぶつけます。加藤女流三段は飛金両取りに角を打ち込みますが、里見女流王座は構わず▲4四銀と銀を取ります。

早くも勝負所

加藤女流三段は25分熟考し、飛角交換してから取れる銀を取らずに8筋の歩をぶつけます。早くも勝負所を迎え、里見女流王座が次の43手目を26分考えたところで昼休となりました。各3時間の持ち時間の内、残り時間は里見女流王座が2時間9分、加藤女流三段が2時間4分となっています。

女流王座の決断

里見女流王座は昼休を挟む48分の長考で、飛車取りに▲7一角と打って攻め込みます。加藤女流三段が飛車を寄ってかわすと、里見女流王座はもう1枚の角を▲6六角と打って間接的に後手玉を睨みます。飛車で角を取ると開き王手からの猛攻を浴びるので、加藤女流三段は歩で銀を取り返しますが、里見女流王座は▲4四同角引成と馬を作って王手します。

女流王座の猛攻

加藤女流三段が持ち駒の銀を打って守ると、里見女流王座は5筋の金頭を歩で叩いてから▲4五馬と引きます。加藤女流三段は8筋の歩を成って金と桂に当てますが、里見女流王座は飛車取りに▲6三馬と飛び込みます。加藤女流三段が飛車を4筋にかわすと、里見女流王座は▲5二銀と追撃します。

挑戦者の反撃

加藤女流三段が△5一歩と打って手堅く受けると、里見女流王座は金銀交換してから8筋の"と金"を取らずに金を引き、桂を差し出す代わりに後手からの飛車の打ち込みの隙を消します。加藤女流三段の残り時間が1時間を切り、"と金"を桂と交換して△8七桂~△8九飛と反撃します。

馬と飛車の交換

里見女流王座の残り時間も1時間を切り、金をかわしてから▲3六歩と突いて自玉の退路を拡げます。加藤女流三段が取れる香を取らずに△7九桂成と金を剥がしに行くと、里見女流王座は▲4九金と手堅く打って守りを固めます。加藤女流三段も△3二銀と上がって陣形を引き締めると、里見女流王座は5筋の歩を成り捨て馬を飛車と刺し違えます。

挑戦者の攻勢

里見女流王座はすぐに後手陣に飛車を打ち込み竜を作りますが、加藤女流三段は成桂で金を剥がしてから竜で先手の角を追い、△4四銀打として自玉を間接的に睨むラインから外します。形勢はわずかに加藤女流三段に傾いてきたようです。

角銀交換

里見女流王座は5筋に歩を垂らして攻撃の拠点を作りますが、加藤女流三段はいったん竜を引き、竜で垂れ歩を払いつつ竜交換します。里見女流王座が金桂両取りに飛車を打ち込むと、加藤女流三段は金に紐を付けつつ角取りに△4五銀と打ちます。里見女流王座は桂を取って竜を作りますが、加藤女流三段は角銀交換してから△6四角と打ち、間接的に先手玉を睨みます。

角金両取り

里見女流王座が▲5一竜と戻して金に当てると、残り時間が10分を切った加藤女流三段は力強く歩頭に△4五銀と出ます。里見女流王座が角金両取りに▲5四竜と引くと、加藤女流三段は角で王手してから金に紐を付けつつ竜取りに△4四金と打ちます。お互いに竜と角をかわしますが、里見女流王座は更に桂と竜で角を追い、自玉を間接的に睨むラインから外します。

挑戦者の"と金"

加藤女流三段は△4六歩と打って金交換し、▲6九飛と打ち込み6筋の歩を取り込んで"と金"作りを目指します。里見女流王座は金取りに▲5六桂と跳ね、加藤女流三段が金を5筋にかわすと、3筋の歩をぶつけて攻め合います。加藤女流三段は6筋の歩を成って金に当てますが、里見女流王座は構わず3筋の歩を取り込み銀をぶつけます。

一瞬の隙

1分将棋に突入した加藤女流三段が銀を引くと、里見女流王座は一瞬の隙を突いて3筋の銀頭を歩で叩いて吊り上げ、王手金取りに▲5二竜と引きます。金を取って駒損を回復した里見女流王座は▲3四金と打って銀と交換し、更に銀交換して後手陣を崩すと、▲4一銀と打って追撃します。この銀はタダで取れますが、取ると後手玉の退路が塞がれ寄せられてしまうので、加藤女流三段は自陣に金を投じて凌ぎます。

馬切りの粘り

積極的な攻めで形勢を互角に戻した里見女流王座は銀を交換して攻め続けますが、加藤女流三段も守備駒を補充して粘ります。千日手の可能性も生じましたが、里見女流王座が▲4四桂と打って打開すると、加藤女流三段は馬で桂を食いちぎって粘ります。

竜切りの攻撃

加藤女流三段が竜取りに△2三銀と打つと、1分将棋に突入した里見女流王座は逃げずに金で竜に紐を付けます。加藤女流三段が更に竜取りに歩を打つと、里見女流王座は竜で銀を食いちぎり▲3五角と打って詰めろを掛けます。加藤女流三段は△4六角と打って詰めろ逃れの王手を掛け、△3六桂と王手を続けます。

激しく揺れる形勢

両者時間に追われる中、里見女流王座は▲1七玉とかわしますが、加藤女流三段が△3四金と角を取ると先手玉に詰めろが掛かり、先手に振れ始めていた形勢の針が大きく後手に傾きます。里見女流王座が金を取って詰めろを逃れると、加藤女流三段は飛車を打って金と刺し違えることで詰めろを続けます。

痛恨の一手

里見女流王座が▲3九金と打って詰めろを逃れると、加藤女流三段は△2五桂と王手で跳ねますが、対局後に「意外に寄らなかった」と悔やむ一手となります。加藤女流三段は50手以上前に作った"と金"で金を取りますが、里見女流王座が▲4六銀と角を取ると、△4八"と"と寄って詰めろを掛けて下駄を預けます。里見女流王座は▲2三金のタダ捨てから王手を続け、そのまま鮮やかな即詰みに討ち取り、199手の大激闘に幕を降ろしました。

まとめ

本局は里見女流王座の仕掛けから何か所も駒がぶつかり合う難解な中盤戦となりましたが、駒得となった加藤女流三段がわずかに優勢の局面が続きました。里見女流王座は積極的に攻め続け、一瞬の隙を突いて形勢を互角に戻すと、竜を切って攻めをつないで逆転模様となりました。両者時間に追われる中、加藤女流三段は懸命に反撃して再逆転したかに思われましたが、里見女流王座は頑強な受けで決め手を与えず、最後は出雲のイナヅマが炸裂し鮮やかな即詰みに討ち取りました。お互いに持てる力を振り絞り、決着局に相応しい名局を紡ぎあげた両者に盛大な拍手を贈りたいと思います。
里見女流王座は3勝2敗で防衛を果たし、通算6期目の女流王座獲得となりました。今年度登場した7つのタイトル戦で、白玲と清麗という2つのビッグタイトルを奪取し、女流王位、倉敷藤花、女流王座と3つのタイトルを防衛しました。対局後の会見では「対局が続いていく中で、コンディションを維持していくことの難しさを経験させていただいた1年だった」と反省を口にしましたが、第一人者として充実した実績を積み重ねた1年だったと思います。
加藤女流三段は惜しくも奪取はなりませんでしたが、十分タイトルを獲得できる実力があることを示したシリーズだったと思います。対局後には涙をこらえて「何とかまた立て直してここに戻ってきたい」と話しましたが、今後も里見・西山の二強を脅かす存在として、活躍を期待したいと思います。

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