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【シンカビト vol.1】 里 大輔 #part3

少年の「僕」が、今日の「僕」に教えてくれること
里 大輔 / DAISUKE SATO

-PART3-
【競技者としての引退 絶対に譲れないものを一貫して持つこと】
里:ある世界的な指導者が「一流」と「二流」との差を「二流になることへの絶対的な抵抗」って答えたんです。自分の選択に一貫性があるのは、絶対に譲れない点があって、自分の中でなりたくない自分に対しての強い抵抗があったからかもしれない。常にワクワク度が高い自分で居続けたいですし、僕の中では『見逃すか、見逃さないかの差が勝負をわける』ということがテーマでもあるので、知らず知らずのうちに安心してしまっている自分を見逃さないようにしたいと思っています。

林:競技者として、どこかで自分の限界を感じる時があると思う。格闘技は相手との戦いだけど、陸上ってタイムとの戦いだからもっと残酷だよね。どこで自分の競技のピークを感じましたか?

里:ピークの可能性を感じるシーズンがありました。パフォーマンスの状態としては凄く良いんですけど、そのパフォーマンスがヒットする可能性が低いみたいな。

パフォーマンスが90%で良いシーズンだっていう選手もいるんですけど、僕の場合は、150%のパフォーマンスで、ヒットする可能性が低い方を良いシーズンとして考えていました。中途半端に110%のパフォーマンスよりかは、チャレンジして一発150%のパフォーマンスが出るか出ないかの挑戦の方が僕は良くて、身体の限界を超えて入院することもありました。最後の2年間はこの状態で、怪我もしなくなって凄い良い状態だったと思います。自分でも、周囲も本当に速いなって感じてたと思います。感覚とタイムは比例していて、やっぱ一発がきちんとヒットすれば良いタイムが数字として出るんですよね。だから、その一発を感じてしまったら、364日絶不調だったとしても、本番でその一発が1日でも出ることを信じて、ずるずる続けてしまいました。アスリートあるあるだと思うんですけど。結局、その一発は公式戦で出すことができなくて、自分以外の人に表明することはなかったです。でも今は、それも良い勉強になったって言えるようになりました。

林:その時の精神状態って誰が何を言おうと自分を100%信じていたと思うんですけど、引退を決めた時はどうやって決めたんですか?

里:引退の選択は自分の決断ではありませんでした。僕は24歳で大学の監督になったので、最初は自分自身を指導をしていたのが徐々に選手に指導をすることにシフトしていったんですよね。移行期っていうのがはっきりなくて。プレイヤーとコーチをする過程で、コーチに対する想いが確実に大きくなっていました。だから良い意味で自然とプレイヤーからコーチになっていたので、引退という引退はありませんでした。普通引退レースとかあるんですけど、僕はやらなかったです。

【コーチとしての苦悩 それでもやり続ける理由】
林:なめらかに自然体でコーチに移行して、うまくいきましたか?

里:全然うまくいかなかったですね。僕は点を教えるのがうまかったので、選手の納得感、満足感が非常に高くて、選手のパフォーマンスの成長は好調でした。でも、監督として組織を強くするっていうことに躓きました。今まで僕は、自分と向き合って、自分で全て選択してきたから、組織の人をどう教育するか分からず、最初は本当に難しかった。誰よりも後にフィールドに来て、誰よりも先に帰宅する監督が良いって思っていました。でも、これじゃダメだって、自分の中で徐々に誤魔化しが効かなくなったのに気が付きましたね。自分は監督をする能力があるって思っていたのに、ただの一人のコーチでしかないって思って、監督としてチームを強くする難しさを痛感しました。

林:部分最適と全体最適ってありますよね。

里:個人の能力を育てる力が無くても、全体を動かす力があった方が、個人の実力が伸びるチームもあって、実際そういう監督も多く見てきました。全然各選手に能力指導出来てないじゃんって思っても、強いチームとして成り立っているんですよね。多分それは選手同士で高め合っているんでしょうけど。本当恥ずかしい話なんですけど、若い頃は各選手に対しての指導力がない人を馬鹿にしたような目で見ていたことがあるんですけど、全然そんなことないなって気づきました。チームを強くするために役目を果たしているんだなって。

林:里さんはコーチとして生きる道を選んだってことですか?

里:そうですね。コーチとしての自分や、監督とコーチをコネクトする自分の方が、僕に向いているって思います。実際、最近やっと、コーチの方が良いって心の底から思えるようになったんですけど。監督である自分を捨てきれない自分がいました。その枠組みから解放されてから、世の中に出る自分の結果や評価が劇的に変わったと思います。

里:組織を育てるって、開発者として新しいものを生み出す能力とはまた違う領域である忍耐や寄り添う力が必要なんですけど、そういう能力は自分にはないなって気が付きました。僕は生み出す作業が好きだって自覚していましたし、毎日何かを発明し続けたい。だから、自分の能力への認識もあったけど、それ以上に自分はコーチをやりたいっていう想いが強かった。

【行き着いた壁の先の扉を開け続けていくこと】
林:里さんはこの先どうしていきたいですか?

里:世の中にある「なぜ」って、解明されているようで解明されていないことが多いと思います。例えば、スポーツで言うと、戦略戦術的にここを攻めた方が良いってわかるとそこが終着点のように見えてきます。でも本当は違くて、先の扉が実はあります。我々が行き着いた壁の先には実は扉があるんですよ。そしてその扉を探さないといけない。このことを教えるのが僕の仕事だと思っています。

多分一人一人と話して悩みを聞いたら、「あなたの壁のここに扉があります。」って僕は答えられると思います。でも、本質に沿ってこうやって探してごらんって教えてあげられたら僕は良いなって思っていて、そうしたら、扉の先の壁にたどり着いた時、さらにもう一枚の扉を次は自分で開けられるから。そういう問いかけに僕はチャレンジしたいです。

林:めっちゃいい。僕たちがブランドとしてやりたいことって、まさに問いかけなんです。誰かに判断を委ねるのではなく、自分の人生の責任を背負って、自由と感動の世界を生きたほうが気持ちよくない?って。

一人一人を説得するのではなく、こんな選択肢もあるかもよって気づきを与えたい。もちろん扉は自分で開けなきゃ意味ないんだけど、良い問いかけは良い扉への気づきだと思うから。里さんのやりたいことっていうのは、GRIT NATIONの目指すことと一致していると感じました。

里:はい。僕はこの作業を示し続けたいです。扉に辿り着ける本質を見つけられたら良いな。そして、人生の中でヒヤヒヤする勝負事、降りてもバレない。でもその時にあの小さな自分が決断をしたことに対して誇りを持って、今もこうやって生きていますって当時の少年里くんに言えるようにしたいです。

林:探し続けるのも人生の旅なんでしょうね。今日はありがとうございました。

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