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明日を生きるためのツールとしての履歴書と遺言書

■今日のテーマは何?

履歴書と遺言書は,自省のためのツールとして使えます,という話です。



■明日を生きるための履歴書?

この点については,鳩山玲人さんの以下の一文をお読みいただくのが最も分かりやすいかと思います。ちなみに,著者の鳩山さんは,東大の民法学者であった鳩山秀夫先生のひ孫です。

「私は毎年,年末に自分の履歴書を書き直すことを習慣にしています。1年の仕事の実績を整理するとともに,自分のなかで改善できたことは何か,新たに加えられたスキルセットは何かを振り返って,紙にまとめておくのです。これは,15年近く前からずっと継続しています。」。


履歴書は自分の歴史を表し,未来の自分にいかにつながっていくかを示すものです。」。
(いずれも鳩山玲人『桁外れの結果を出す人は,人が見ていないところで何をしているのか』〔幻冬舎,2013年〕135頁。太字は原文のママ。)



■明日を生きるための遺言書?

遺言書についても,上記の鳩山さんのご指摘が妥当します。

まず,遺言がどんなものなのか,グーグル先生に聞いてみましょう。

→ 「遺言」で画像を検索した結果

だいたいイメージできたでしょうか?

色々なことが書いてありますよね。

ただ,遺言書は,結局のところ,あなたが誰の未来を想い,そのために何を残したいかを法的に記録するためのツールです。


もし,例えば,あなたが,今,「遺言書を書け」と言われたらどんなことを考えて,何を書きますか?

遺言書を書くとき,実際には,あなたはこう考えます。

今の自分にとって,誰が大切で,その人のために自分が今まで何をしてきたか,そして,これから自分何をしていきたいか。


このような思考の整理は,上記の鳩山さんのご指摘同様,ご自身の人生を振り返り,明日をどう生きるかを考えるに際して,とても有益なはずです。


……本来,今日のテーマはここで終えるはずだったのですが,一応,以下では,遺言書に関する法的な説明を,簡単にしておきたいと思います。



■遺言書を作ると法律上,何か良いことがあるの?

遺言書を作った方が良い理由は色々あるのですが,とりあえず,遺言書が作ってあると,相続の処理が明快になります(※1)。 ← 非常にざっくりとした説明です。

つまり,遺言書があれば,あなたの死後,あなたの遺産が,あなたの望んだように処理されます。

※1 遺言で決めることができる事項は,大きく分けると以下の4つになります(内田貴『民法4』〔東京大学出版会,2002年〕461頁参照。)。
(1)法律で定まっている「相続」のルールの修正に関すること
(2)遺贈や信託の設定などに関すること
(3)死後の認知などの身分関係に関すること
(4)遺言を執行する人物に関すること


裏を返せば,遺言書がない場合,あなたの遺産は,あなたの望んだように処理されるとは限りません。

まず,あなたが,遺言書を作っていない場合,あなたの遺産は,原則として民法900条が定める法定相続分に従って,ご遺族が相続します。

(法定相続分)
民法第900条

 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
1  子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各2分の1とする。
2  配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、3分の2とし、直系尊属の相続分は、3分の1とする。
3  配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、4分の3とし、兄弟姉妹の相続分は、4分の1とする。
4  子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする。


ただし,遺言書を作っていない場合でも,(1)ご遺族の間で,遺産分割協議が成立した場合,(2)裁判所が遺産分割審判などで一定の判断を示した場合は,例外的にその協議 or 判断に従って,ご遺族があなたの遺産を相続します(民法907条)。

(遺産の分割の協議又は審判等)
民法第907条

1 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる。
2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる。
3 前項の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。


そして,一定程度の財産があるのに,遺言書が作られておらず,かつ,ご遺族の人間関係があまりうまくいっていないと(≒昼ドラのような状況であると),ほぼ確実にもめます

びっくりするくらい,遺産をめぐって,人はトラブルを起こします。多分,これは,それまで溜まりに溜まっていた色々な感情や情念や恩讐が,相続をきっかけに噴出しているのだとは思いますが……。


他方,遺言書があると,一応は,それに従って相続の処理がされることになります。
ですから,あなたが遺言書を作られれば,それだけで――その数分~数時間の作業だけで――,何年にも及ぶ遺族間のトラブルを防ぐことができます。



■じゃあ遺言書ってどうやって作ればいいの?

遺言書の作り方には6種類あるのですが(※2),1番お手軽で安いのは「自筆証書遺言」(民法968条)です。

自筆証書遺言であれば,証人も必要ありませんし,公正証書を作成する必要もありません。

(自筆証書遺言)
民法第968条

1 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

作成方法は物凄く簡単です。

遺言の内容を全て手書きで書き,年月日まで正確に日付を書いて,署名して印鑑を押すだけです。

それだけです。

財産について細かく正確に書きたいのであれば,一定の書き方をしなければなりませんが,ざっくりと,「私の遺産のうち,2分の1を太郎に,2分の1を次郎に相続させる。」という書き方をしても問題ありません。

また,印鑑はどんな印鑑でも構いません。ただ,実印の方が無難です(無印を認めた特殊な事例としては,最判昭和49年12月24日民集28巻10号2152頁があります。)。

この部分の詳細は,グーグル先生に聞いてください(笑)

※2 自筆証書遺言,公正証書遺言,死亡危急時遺言,遭難時遺言,伝染病隔離遺言,在船時遺言の6つです。



■余談

この「遺言」という単語,皆さんは,どう読みますか?

もちろん,国語としては,正しくは「ゆいごん」と読みます

ただ,法曹界では伝統的に「いごん」と読みます。

そのため,法律の教科書(業界では基本書と言います。)の索引では,「遺言」は,しばしば,「や行」の項目ではなく「あ行」の項目にあります。
どうして,この単語を意図的に「いごん」と読むのかは,私も詳しくは知りません。

ちなみに,私の友人は,美容院でたまたま遺言の話題になったとき――美容院でどうして遺言の話になるのかよく分かりませんが――この単語を「いごん」と発音してしまい,

「あ,恥ずかしい間違いしましたねー。正しい読み方は『ゆいごん』ですよ。」

と美容師さんに指摘され,「どうしよっかなー,説明しよっかなー」と一瞬考えた末に,「あ,やべ。間違えました。」と回答して,話を終わらせたそうです。


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