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「●●大臣」・「●●知事」という肩書付きで選挙応援の投稿をSNSにしたら公選法違反?


■質問内容

大臣や都道府県知事のような公務員の方が、選挙期間中に(つまり、一般論として選挙運動自体はOKな期間中に)、特定の候補者を当選させるための投稿(選挙運動としての投稿)をSNSにした場合、それは公選法136条の2(公務員等の地位利用による選挙運動の禁止)に違反しますか?


■回答

投稿内容やその投稿が送られた方々(その投稿を読む方々)の範囲等にもよるので、ケースバイケースですが、不特定多数の一般の方々を対象とした投稿(例えば、一般公開されているTwitter上での投稿)の場合、その投稿自体が直ちに公選法136条の2(公務員等の地位利用による選挙運動の禁止)に違反することはないと考えられます。


■理由

◆条文抜粋

(公務員等の地位利用による選挙運動の禁止)
第136条の2 次の各号のいずれかに該当する者は、その地位を利用して選挙運動をすることができない。
 一 国若しくは地方公共団体の公務員又は行政執行法人若しくは特定地方独立行政法人の役員若しくは職員

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC1000000100_20230301_504AC0000000016


◆説明

細かい議論を横に置いてご説明いたしますと、今回のご質問については、公選法136条の2第1項1号の要件を満たすか否かが問題となります。
つまり、以下の1.~3.の要件全てを満たすか否かが問題となります

  1.  国若しくは地方公共団体の公務員か?

  2.  地位を利用したか?

  3.  選挙運動をしたか?


結論から申しますと、今回のご質問では、1.と3.は満たします。
大臣や都道府県知事は「国若しくは公共団体」の公務員ですし(争いがありません)、選挙運動であることは所与の前提とされています。

そのため、「2. 地位を利用したか?」が本稿のテーマとなります。

この「地位を利用」という要件については、一般に、次のように説明・理解されています(引用部分の太字は引用者によります)。

「『その地位を利用して』とは、その公務員及び公庫の役職員(以下「公務員等」という。)としての地位にあるがために特に選挙運動を効果的に行い得るような影響力又は便益を利用する意味であり、職務上の地位と選挙運動の行為が結びついている場合をいうものである。地位利用による選挙運動であるか否かは、個々具体の事例について判断されるべきであるが、次に掲げるものなどは地位利用に該当すると思料される(昭三七、六局議決定)。

⑴ 補助金、交付金等の交付、融資のあっせん、物資の払下げ、契約の締結、事業の実施、許可、認可、検査、監査その他の職務権限を有する公務員等が、地方公共団体、外郭団体、請負業者、関係団体、関係者等に対し、その権限に基づく影響力を利用すること。
⑵ 公務員等の内部関係において、職務上の指揮命令権、人事権、予算権等に基づく影響力を利用して、公務員等が部下又は職務上の関係のある公務員等に対し、選挙に際して投票を勧誘すること(法令上当然には指揮監督権はなくとも、人事、予算等につき影響力を有する地位にあることをもつて足りるとした例 昭三九・五・一一名古屋高裁)。
⑶ 官公庁の窓口で住民に接する公務員等や各種調査等で各戸を訪ねる公務員等が、これらの機会を利用して職務に関連して住民に働きかけること。

 このような場合が、地位利用に該当するわけであるが、推薦状に単に職名(○○大臣、○○県知事等)を通常の方法で記載すること、演説会において単に職名を名乗ることは直ちに地位利用とはならないが、⑴又は⑵に掲げる者をもっばら対象として行うときは地位利用に該当することもある。また、⑶に掲げる窓口等の職務上の機会の利用の場合でも、たまたま訪れた知人を相手とする場合は、直ちに地位利用に該当するとはいえまい。

黒瀬敏文ほか編著『逐条解説 公職選挙法 改訂版(中)』(ぎょうせい、令和3年)1096-1097頁


この考え方は、広く支持されており、他の文献でも次のような説明がなされます。

「このような場合が、地位利用に該当するわけであるが、推薦状に単に職名(○○大臣、○○県知事等)を通常の方法で記載すること、演説会において単に職名を名乗ることは直ちに地位利用とはならないが、ア又はイに掲げる者を専ら対象として行うときは地位利用に該当することもある。また、ウに掲げる窓口等の職務上の機会の利用の場合でも、たまたま訪れた知人を相手とする場合は、直ちにこれに該当するとは解されない(引用者注:ア、イ、ウはいずれも上記⑴、⑵、⑶と同じ)。」

警察庁刑事局捜査第二課『公職選挙法解説 十二訂版』38-40頁

「右のうち、特に1(引用者注:上記⑴と同じ)については、当該公務員が独立固有の職務権限として公務所の意思決定をなし得る者であることを必要とせず、その職務上関係業務について権限ある上司に対し報告するとか、意見を具申するなどの方法によって、密接かつ重要な関係において補佐する立場から該業務に参与する者も、その主体たり得ると解すべきである(略)。しかし、影響力と職務権限との関連が非常に薄く、単なる事実上の影響力としかみられない場合は、本罪の行為に当たらない。たとえば、国会議員が選挙地盤の選挙民に対し自己が影響力を持つことを見越したうえ、他の選挙の候補者の応援演説をしたとしても本罪には触れないと考えられる。」

伊藤榮樹ほか編『注解特別刑法〔第3巻〕』(立花書房、昭和58年)63頁


このような次第でして、選挙運動が可能な期間中(これが大前提です)に、選挙運動のための投稿を、「●●大臣」・「●●知事」という肩書き付きで投稿をしたとしても、それだけで直ちに公選法136条の2に違反することにはならない、というのが一般的かと存じます。

尚、冒頭でも申し上げましたように、例えば、「●●大臣」・「●●知事」の許認可権の影響を直接的に受ける事業者で構成されるグループ投稿等で、このような投稿が為された場合は話は別です(違反になる可能性が高いと考えられます)。

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