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科学的根拠に基づくミルク育児のポイント

母乳に関することだけでなく、ミルクに関してもまとめようと思います。
母乳育児を希望されている方はこちらの記事をご覧ください。

上記記事にも書きました通り、ミルクを補足することは母乳育児確立の妨げになってしまうこともあります。最初から狙って混合で育てようとするとオートクリンコントロールのメカニズムから母乳が出なくなったり、乳頭混乱により母乳を飲まなくなったりしてしまい、ほとんどミルク育児になってしまうこともよくありますから、この記事はあくまでもミルク育児を希望されて選択される方に向けて書いている、ということにご留意ください。

母乳育児の継続を希望されている方が必要に応じてミルク補足する際には、カップ授乳やチューブによる補足などもあります。
こちらは早産児を対象にした研究ですが、哺乳瓶ではなくカップ授乳を行うことで母乳育児の確立の助けになるだろうことが示されています1)。
カップ授乳のやり方は神奈川県子ども医療センターの資料などが分かりやすいです。

ミルクの種類

実は母乳の代わりに与えるものはたくさんの種類があります。
今回はその中で比較的一般的なものに絞ってまとめます。

①粉ミルク

厚労省の授乳・離乳の支援ガイド2)には「母乳の代替として飲用に供する乳児用調製粉乳」という表現で記載されており、主に牛乳を加工して作られています。
取り扱いについては、世界保健機関(WHO)及び国連食糧農業機関(FAO)が「乳児用調製粉乳の安全な調乳、保存及び取扱いに関するガイドライン3)」を作成しており、厚労省が仮訳を掲載しています。
粉ミルクを製造工程で無菌にすることが困難で、開封後に病原微生物に汚染されるおそれもあることから、乳児用調製粉乳の安全な調乳、保存及び取扱いの方法を定めた、とし、特にサカザキ菌のリスクを抑えるためのものとしています。
なお、ガイドラインの対象は12ヶ月齢以下の乳児、としています。
ポイントとしては、

乳児用調製粉乳の調乳に当たっては、使用する湯は70℃以上を保つこと。
調乳後2時間以内に使用しなかったミルクは廃棄すること。

と記載されています。
つい最近にも粉ミルクに混入したサカザキ菌による死亡が報告されていますので、調乳に使うお湯の温度は必ず70℃以上にしましょう。
なお、ペットボトルの水を用いる場合は、腎臓への負担や消化不良を避けるため硬水は避けたほうがよいです。

②液体ミルク

災害時の利用を想定し、平成30年8月8日に乳児用調製液状乳として省令が交付され、国内での製造・販売が始まりました。
厚労省の授乳・離乳の支援ガイドには、

・乳児用液体ミルクは、液状の人工乳を容器に密封したものであり、常温での保存が可能なもの。
調乳の手間がなく、消毒した哺乳瓶に移し替えて、すぐに飲むことができる

と書かれています。
粉ミルクに比べて欠点としては、賞味期限が短い比較的高価といった点が挙げられます。
紙パックのものは賞味期限が半年と短いのですが、スチール缶のものには1年半もつものもあるので、災害時のための備蓄としてはそちらを選んだほうがよいでしょう。
基本的に常温でそのまま飲めるものなのですが、寒い季節は人肌程度に温めたほうが赤ちゃんが飲んでくれやすいこともあります。
温め方としては、哺乳瓶に移してから湯煎したり、カイロで温めたり、服の中に入れて温める方法などがあります。
ただしこの方法は粉ミルクでは絶対に行ってはいけません
また、電子レンジでの加熱や煮沸をしたりお湯を混ぜたりすることは禁止されています。
粉ミルクと同じく、飲み残しは絶対に破棄することが大原則です。
少々高価ですし、災害時は特に希少な物資となると思われますが、飲み残しを与えると感染症にかかったり重篤な状況に陥る可能性もありますので、必ず破棄するようにしてください。
直接乳首をつけることができるアタッチメントも販売されているのですが、こちらも必ず毎回洗浄・消毒する必要があります。
災害時は水が十分にない可能性があり、液体ミルクが活躍する場面があるわけですが、この洗浄・消毒のためにも水が必要になるところが難点です。
使い捨ての乳首を用いるか、カップ授乳を行うこともできます。

③フォローアップミルク

誤解の多いところなのですが、フォローアップミルクは育児用ミルクではありません母乳代用品ではないのです。
このことは厚労省の授乳・離乳の支援ガイド2)にもはっきりと書かれています。

フォローアップミルクは母乳代替食品ではなく、離乳が順調に進んでいる場合は、摂取する必要はない。離乳が順調に進まず鉄欠乏のリスクが高い場合や、適当な体重増加が見られない場合には、医師に相談した上で、必要に応じてフォローアップミルクを活用すること等を検討する。

このように原則不要で、医師の判断により検討されることが稀にある、というものです。
日本では表現が比較的優しいですが、米国小児科学会などは、「飲むのを避ける」、「幼児を害する可能性がある」とまで表現しています。
1歳になったからフォローアップミルクを与える、というような考え方をする必要はまったくありません。

④アレルギー用ミルク

通常のミルクは牛乳が原材料となっているため、牛乳アレルギーのある赤ちゃんは飲むことができません。
そのため、加水分解乳アミノ酸乳大豆乳などが用いられます。
最近興味深い研究4)があり、粉ミルクを継続して飲ませたほうが牛乳アレルギーが少ないという発信がされていました。
しかし実は、そもそも生後3日以内にミルクを与えていなければ牛乳アレルギーにはならない、という事実も明らかになってきています5)。

ミルクを補足する際に少なくとも生後3日間、アミノ酸乳(エレメンタルフォーミュラ)を用いた場合はアレルギーが有意に減少したのです。
こうした研究などから、最近のガイドライン6)には生後早期の通常のミルクの補足を避けるような記載があるものも出てきています
まだまだ検証が必要な段階ではありますが、今後さらに明らかにされていくでしょう。

哺乳瓶の種類

さて、歯科医師的にはこっちも気になる、哺乳瓶の種類もまとめてみましょう。ここでは特に特徴のあるものをピックアップして解説します。

①ピジョン 母乳実感

市場シェアNo.1のピジョンの母乳実感。
近所のドラッグストアにはこれしか置いていない、ということも。
2022年2月にリニューアルし、新たにラッチオンラインという母乳と同様に深く吸わせるための工夫や、素材をやわらかくしておっぱいに近づけているそうです。
サイズやカットを変えた6種類の乳首があり、赤ちゃんの発達に合わせて交換していくことができます。
乳首も劣化しますので、ミルクが出やすくなってしまった状態では正しい飲み込み方にならず、口腔機能の発達を妨げる可能性がありますから注意が必要です。
ただ、適切な乳首を選んだとしても特別に口腔機能を育むというものでもありませんので、歯科的な視点からは特段利点があるわけでもありません。

②ピジョン 母乳相談室

桶谷式直接訓練用の製品。母乳実感と同じくピジョンの製品ですが、乳首の形等は全く異なります。
母乳哺育に移行するためのトレーニングや、乳頭乳房トラブルなどで一時的に直接母乳をあげられない時などに用いられます。
専門家の指導が必要となるため、一般に市販はされていません。
母乳育児支援をしている助産師さんはこちらを用いることが多い印象です。

③ビーンスターク 赤ちゃん思い

歯科医療従事者イチオシの哺乳瓶。
実はこれ以外の哺乳瓶と母乳とでは、飲み方が全然違うのです。
直接お母さんのおっぱいから授乳する場合には、赤ちゃんは咬筋を含む咀嚼に関わる筋肉をしっかりと使います
一方、一般的な哺乳瓶で飲む場合には、それらの筋肉があまり使われないことが分かっています7)。

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この図は咬筋の働きを筋電図で見たもので、上が哺乳瓶、下が直接授乳です。
明らかに働きが異なることが分かりますね。
ビーンスタークの哺乳瓶は母乳と同じように咬筋を使って飲むように弁が内蔵されています
口腔機能を育むという視点から、歯科医療従事者がおすすめすることの多い哺乳瓶です。

④ヌーク

ビーンスタークと同様に歯科医療従事者オススメの哺乳瓶がヌークのもの。
母乳を飲んでいるときと同じように顎を使うようデザインされています。
ただ、ビーンスタークが弁を内蔵しているのと異なり、ヌークは乳首の形状で工夫しているため、上手にくわえさせないと顎の動きは引き出されません。ちょっとテクニックのいる哺乳瓶です。

⑤ドクターベッタ

瓶の形がぐにゃっと曲がった特徴的なデザインの哺乳瓶。
母乳を与えるときの赤ちゃんの姿勢を再現するための形です。
ただ、よくよく考えれば母乳の赤ちゃんの授乳姿勢もいろいろなやり方がありますので、あまり神経質にならなくてもよいかも。
上体を起こしたほうがむせにくいのはそうかもしれない?

今回はミルクに関する知識をまとめてみましたが、ミルク育児もけっこう考えることがありますね。
母乳育児でもミルク育児でも、それぞれのライフスタイルや選択に合った支援が受けられることが大切だと考えています。

1) Allen E, Rumbold AR, Keir A, Collins CT, Gillis J, Suganuma H. Avoidance of bottles during the establishment of breastfeeds in preterm infants. Cochrane Database Syst Rev. 2021 Oct 21;10(10):CD005252. doi: 10.1002/14651858.CD005252.pub5. PMID: 34671969; PMCID: PMC8529385.
2) 授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版)厚生労働省
3) 乳児用調製粉乳の安全な調乳、保存及び取扱いに関するガイドライン 世界保健機関/国連食糧農業機関共同作成 2007 年
4) Sakihara T, Otsuji K, Arakaki Y, Hamada K, Sugiura S, Ito K. Randomized trial of early infant formula introduction to prevent cow's milk allergy. J Allergy Clin Immunol. 2021 Jan;147(1):224-232.e8. doi: 10.1016/j.jaci.2020.08.021. Epub 2020 Sep 2. PMID: 32890574.
5) Urashima M, Mezawa H, Okuyama M, Urashima T, Hirano D, Gocho N, Tachimoto H. Primary Prevention of Cow's Milk Sensitization and Food Allergy by Avoiding Supplementation With Cow's Milk Formula at Birth: A Randomized Clinical Trial. JAMA Pediatr. 2019 Dec 1;173(12):1137-1145. doi: 10.1001/jamapediatrics.2019.3544. PMID: 31633778; PMCID: PMC6806425.
6) Halken S, Muraro A, de Silva D, Khaleva E, Angier E, Arasi S, Arshad H, Bahnson HT, Beyer K, Boyle R, du Toit G, Ebisawa M, Eigenmann P, Grimshaw K, Hoest A, Jones C, Lack G, Nadeau K, O'Mahony L, Szajewska H, Venter C, Verhasselt V, Wong GWK, Roberts G; European Academy of Allergy and Clinical Immunology Food Allergy and Anaphylaxis Guidelines Group. EAACI guideline: Preventing the development of food allergy in infants and young children (2020 update). Pediatr Allergy Immunol. 2021 Jul;32(5):843-858. doi: 10.1111/pai.13496. Epub 2021 Mar 29. PMID: 33710678.
7) Inoue N, Sakashita R, Kamegai T. Reduction of masseter muscle activity in bottle-fed babies. Early Hum Dev. 1995 Aug 18;42(3):185-93. doi: 10.1016/0378-3782(95)01649-n. PMID: 7493586.

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