今日のランチ 〜大丈夫じゃない人ほど大丈夫と言う〜

 もう3月半ばだというのに寒い日が続く。寒くても花粉は容赦なく飛んでいるため、寒さに震えながら鼻水とクシャミを撒き散らすという、ただの風邪患者にしか見えないムーヴを日々余儀なくされている。皆様、いかがお過ごしだろうか。

 社会の歯車としてキシキシ働いている私(就活の時は自らを潤滑油だと言う人間が多かったが、働き出すとみな一様に歯車と称されるのは皮肉が効いている)は、唯一の楽しみであるランチへ向かっていた。

 私はランチのためのルートをいくつか確保しており、その日の気分によって使い分けている。今日はうどんを食いたい気分だったので、一番時間がかかるルートを選んだ。

 目的のうどん屋に着くと、外には行列が出来ていた。これは想定内。人気のうどん屋なので、混み合うのも当然である。うどん屋からの分岐は2パターンあり、私は右のルートを選択した。

 行先のラーメン屋も行列。これも仕方ない。その先のいつも空いている定食屋へ向かった。
するとどういうことか、そこも満席だった。日頃の行いの悪さがここで効いてきたのだ。

 腹はペコペコで、職場からもかなり離れてしまっている。もうこの辺りでランチを済ませるしかないと思い、辺りを見回すと、怪しげなインドカレー屋を見つけた。職場の近くに美味しいインドカレー屋があるので、見知らぬカレー屋には入りたくなかった。

 しかし、背に腹はかえられぬ。かえられたとしても、それでは背中がペコペコになってしまう。私はその怪しいインドカレー屋に入ることにした。

 店に入ると、 「イラッシャイマセー」とカタコトのネパール人店員が出迎えてくれた。日本のインドカレー屋の多くはネパール人が経営している。これだけでも覚えて帰ってくださいね。

 席に着くやいなや、私は妙な違和感を覚えた。あまりにも音がしないのだ。他のインドカレー屋だと、独特なインド音楽が流れていたりするのだが、その店はとにかく無音。客も数人いたが、黙々とカレーを喰らうのみで、店内は静寂に包まれていた。

 ランチセットを頼み、周りに倣って無言で待っていると、先程の店員が漬物が入ったビンを持ってきてくれた。ビンには「ネパールのニンジンのおつけもの very hot 」と書かれていた。せっかくなので食べてみるかと漬物を口に入れたのだが、それが驚くほど辛かった。驚いた勢いで変な飲み込み方をしてしまい、より状況は悪化した。

 店内の静寂をぶち破り、むせかえる哀れな成人男性同性愛者。それを見つめる無言の客たち。駆け寄ってきた店員が「ダイジョウブデス」と声をかけてきた。 「大丈夫ですか?」と聞きたかったのか、「むせても大丈夫ですよ」と言いたかったのかは分からない。

 私はただ、「ダイジョウブデス」と奇しくも同じ言葉を返すことしか出来なかった。何も大丈夫じゃないのに。


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