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月面のレゴリスによる健康影響

月レゴリスとは

https://www-curator.jsc.nasa.gov/education/lpetss/regolith.cfm

月レゴリスは月の岩盤への隕石や微粒子の衝突や風化作用で生じた
岩石破砕物が砂礫として堆積したものです。
月面はほとんど砂状のレゴリスに覆われており、
レゴリスの組成は質量別に、Oが40%、Siが20%で、
残りがFe、Al、Mg、Ti等を含有しています。


月の重力は地球の6分の1しかないため,
少しの活動でも粉じんが舞い上がり、舞い上がった粉じんは
すぐに沈降せず長く浮遊します。


レゴリス生成の過程で、鉄をはじめとする金属も
構成成分として入るため、レゴリス自体も磁気を持つようになり、
静電気が発生するようになります。


月面には動植物や微生物がいない(確認されてない)ことから、
その分解産物である有機物や粘土等を含みません。


粒子の表面が削られていなものも多く、
鋭利な物が含まれる場合も多いです。


このような月レゴリスは
月面での作業において視界不良や機械の故障の原因となるばかりでなく,
健康への影響も懸念されています。

一方で月面での作業時には機密性の高い宇宙服を着用するため、
月レゴリスに曝露される機会はないと思ってしまいがちです。


しかし,微小な月レゴリスは静電気を帯び,宇宙へ付着します。
そして、払いのけることが難しいことから宇宙船内へ持ち込んだり、
宇宙服を脱ぐときに身体に触れてしまうといったことが起こります


月レゴリスによる呼吸器への影響


主にケイ素が原因で生じる珪肺症が最も重要と現在は考えられています。


珪肺症は遊離結晶性シリカの塵の吸入により起こります。
肺に線維成分が増えることで、呼吸機能が低下していきます。
初期には無症状または軽い呼吸困難のみですが、進行していくと
呼吸困難、低酸素血症、肺高血圧症などが生じます。


また、合併症として感染症にかかりやすくなったり、
癌になりやすかったりするため長期的な対応が必要になってきます。


月レゴリスによる眼への影響

月レゴリスの成分であるケイ素によって角膜障害も生じます。

具体的には角膜裂傷や角膜鑽孔を生じえます。

加えてウィルス感染、結膜炎、角膜潰瘍、レンズの混濁、視力低下などが
二次障害として起こり得ます。

具体的な想定実験でも障害が起こるとする報告が出ています。


月レゴリスによる循環器障害

実験レベルでは月レゴリスと同等成分をマウスに暴露したところ、
心臓の筋肉に炎症性の障害が生じたとする報告があります。

今後の検討が非常に重要となってきています。


月レゴリスによるアレルギー反応

アポロ17号のハリソン・シュミット宇宙飛行士の経験から,
「lunar dust hay feve」として話題になりました。

月レゴリスには有機物がないことから抗原とはなり得ないが、
黄砂でアレルギー反応の増悪もあるように
増悪因子とはなり得ます。

しかしデータ不足もあるため今後の検証が重要となっています。

感想

今回は月のレゴリスについて、その概論と健康影響について
調べていきました。
レゴリスの性質を知ることで、その危険性や有効性を
考えることができます。
月のレゴリスは危険性だけでなく、酸素を作ったり、金属を単離
したりと様々な用途を考えられているようです。
健康被害についても、単に防ぐだけでなく、レゴリスを利用する
形で解決に向かっていけないかと期待しています。

【参考文献】
https://www-curator.jsc.nasa.gov/education/lpetss/regolith.cfm
https://ntrs.nasa.gov/api/citations/20060051776/downloads/20060051776.pdf
BMC Ophthalmol. 2012 Jul 20;12:26.
日本マイクログラビティ応用学会誌 2009 年 26 巻 4 号 p. 303-
J UOEH(産業医科大学雑誌)34( 3 ): 237-243(2012)
Toxicol Res (Camb). 2019 May 6;8(4):499-508.
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/01/post-92217.php

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