妊産婦に纏わる法律事情(2)

国家公務員/地方公務員育児休業法

公務員の休業体系は別に存在する。各々「国家公務員の育児休業等に関する法律」「地方公務員の育児休業等に関する法律」に定めがある。ここでは前者の国家公務員育児休業法を見てみよう。以下、文章を見やすくするために( )部分は適宜、(略)と表記して省略させて頂いた。


第三条 職員(略)は、任命権者の承認を受けて、当該職員の子(略)であって、当該職員が現に監護するもの、児童福祉法(略)を養育するため、当該子が三歳に達する日(常時勤務することを要しない職員にあっては、当該子の養育の事情に応じ、一歳に達する日から一歳六か月に達する日までの間で人事院規則で定める日(当該子の養育の事情を考慮して特に必要と認められる場合として人事院規則で定める場合に該当するときは、二歳に達する日))まで、育児休業をすることができる

一般の公務員は3歳まで育児休業が可能である。ただし、給料は出ない。

第五条 育児休業をしている職員は、職員としての身分を保有するが、職務に従事しない。
2 育児休業をしている期間については、給与を支給しない

第12条から始まる第3章はいわゆる時短勤務を定める。土日勤務を認めていたり、それなりのオプションがあることが分かる。

第十二条 職員(略)は、任命権者の承認を受けて、当該職員の小学校就学の始期に達するまでの子を養育するため、当該子がその始期に達するまで、常時勤務を要する官職を占めたまま、次の各号に掲げるいずれかの勤務の形態(略)により、当該職員が希望する日及び時間帯において勤務すること(以下「育児短時間勤務」という。)ができる。ただし、当該子について、既に育児短時間勤務をしたことがある場合において、当該子に係る育児短時間勤務の終了の日の翌日から起算して一年を経過しないときは、人事院規則で定める特別の事情がある場合を除き、この限りでない。
一 日曜日及び土曜日を週休日(勤務時間法第六条第一項に規定する週休日をいう。以下この項において同じ。)とし、週休日以外の日において一日につき三時間五十五分勤務すること。
二 日曜日及び土曜日を週休日とし、週休日以外の日において一日につき四時間五十五分勤務すること。
三 日曜日及び土曜日並びに月曜日から金曜日までの五日間のうちの二日を週休日とし、週休日以外の日において一日につき七時間四十五分勤務すること。
四 日曜日及び土曜日並びに月曜日から金曜日までの五日間のうちの二日を週休日とし、週休日以外の日のうち、二日については一日につき七時間四十五分、一日については一日につき三時間五十五分勤務すること。
五 前各号に掲げるもののほか、一週間当たりの勤務時間が十九時間二十五分から二十四時間三十五分までの範囲内の時間となるように人事院規則で定める勤務の形態

26条は「育児時間」の取り決め。

第二十六条 各省各庁の長は、職員(略)が請求した場合において、公務の運営に支障がないと認めるときは、人事院規則の定めるところにより、当該職員がその小学校就学の始期(略)に達するまでの子を養育するため一日につき二時間を超えない範囲内で勤務しないこと(以下この条において「育児時間」という。)を承認することができる。

金銭補助(雇用保険法・健康保険法)

出産等に関する金銭の法律を整理しておこう。
まず、出産育児一時金制度である。これは、健康保険法等に基づく保険給付として、健康保険や国民健康保険などの被保険者またはその被扶養者が出産したとき、出産に要する経済的負担を軽減するため、一定の金額が支給される制度のことで、一般的には42万円(ケースによっては39万円)が支給される。

ここで話題となる健康保険法とは、医療保険給付の全般についてまとめた法律で、
第1章 総則
第2章 保険者
第3章 被保険者
第4章 保険給付
第5章 日雇特例被保険者に関する特例
第6章 保健事業及び福祉事業
第7章 費用の負担
第8章 健康保険組合連合会
第9章 不服申立て
第10章 雑則
第11章 罰則

という構成を取っている。今回関係するのは、4章「保険給付」の部分だ。その冒頭は、

第五十二条 被保険者に係るこの法律による保険給付は、次のとおりとする。
一 療養の給付並びに入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費、療養費、訪問看護療養費及び移送費の支給
二 傷病手当金の支給
三 埋葬料の支給
四 出産育児一時金の支給
五 出産手当金の支給

六 家族療養費、家族訪問看護療養費及び家族移送費の支給
七 家族埋葬料の支給
八 家族出産育児一時金の支給
九 高額療養費及び高額介護合算療養費の支給

となっている。四・五が出産に関係するもので、各々に

第百一条 被保険者が出産したときは、出産育児一時金として、政令で定める金額を支給する。
第百二条 被保険者が出産したときは、出産の日(出産の日が出産の予定日後であるときは、出産の予定日)以前四十二日(多胎妊娠の場合においては、九十八日)から出産の日後五十六日までの間において労務に服さなかった期間、出産手当金を支給する。

となっている。「妊娠・出産に関する医科受診は保険が効かない」と言うのは、つまり保険給付の対象に入っていないということだが、厳密には、個別の診察や薬剤の支給に対して保険給付をするのではなく、「出産育児一時金」と「出産手当金」でカバーされる、と表現するのが正しい。

逆に、「療養」には保険給付が行われる。

第六十三条 被保険者の疾病又は負傷に関しては、次に掲げる療養の給付を行う。
一 診察
二 薬剤又は治療材料の支給
三 処置、手術その他の治療
四 居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護
五 病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護

「処置、手術その他の治療」に帝王切開は当たるので、保険が適用になるというわけだ。

さて、101条に言う「政令」とは、健康保険施行令を指す。

第三十六条 法第百一条の政令で定める金額は、四十万四千円とする。ただし、病院、診療所、助産所その他の者であって、次の各号に掲げる要件のいずれにも該当するものによる医学的管理の下における出産であると保険者が認めるときは、四十万四千円に、第一号に規定する保険契約に関し被保険者が追加的に必要となる費用の額を基準として、三万円を超えない範囲内で保険者が定める金額を加算した金額とする。
一 当該病院、診療所、助産所その他の者による医学的管理の下における出産について、特定出産事故(出産(厚生労働省令で定める基準に該当する出産に限る。)に係る事故(厚生労働省令で定める事由により発生したものを除く。)のうち、出生した者が当該事故により脳性麻痺にかかり、厚生労働省令で定める程度の障害の状態となったものをいう。次号において同じ。)が発生した場合において、当該出生した者の養育に係る経済的負担の軽減を図るための補償金の支払に要する費用の支出に備えるための保険契約であって厚生労働省令で定める要件に該当するものが締結されていること。
二 出産に係る医療の安全を確保し、当該医療の質の向上を図るため、厚生労働省令で定めるところにより、特定出産事故に関する情報の収集、整理、分析及び提供の適正かつ確実な実施のための措置を講じていること

本当にややこしく作られているが、細かく言うと支給額の原則は40万4千円である。産科医療補償制度というのに加入している病院で出産して初めて42万円になる。

次に「出産手当金」について。これは早い話が、産休を取得した時に給料の3分の2が貰えるというものだ。
法律的には実は102条には続きがあり、

2 第九十九条第二項及び第三項の規定は、出産手当金の支給について準用する。

となっている。99条は病気等で仕事ができなかった時に休業期間中支払われる「傷病手当金」を定めた条文で、「準用する」とはこれと計算根拠が同じであるということだ。

2 傷病手当金の額は、一日につき、傷病手当金の支給を始める日の属する月以前の直近の継続した十二月間の各月の標準報酬月額(被保険者が現に属する保険者等により定められたものに限る。以下この項において同じ。)を平均した額の三十分の一に相当する額(その額に、五円未満の端数があるときは、これを切り捨て、五円以上十円未満の端数があるときは、これを十円に切り上げるものとする。)の三分の二に相当する金額(その金額に、五十銭未満の端数があるときは、これを切り捨て、五十銭以上一円未満の端数があるときは、これを一円に切り上げるものとする。)とする。ただし、同日の属する月以前の直近の継続した期間において標準報酬月額が定められている月が十二月に満たない場合にあっては、次の各号に掲げる額のうちいずれか少ない額の三分の二に相当する金額(その金額に、五十銭未満の端数があるときは、これを切り捨て、五十銭以上一円未満の端数があるときは、これを一円に切り上げるものとする。)とする。
一 傷病手当金の支給を始める日の属する月以前の直近の継続した各月の標準報酬月額を平均した額の三十分の一に相当する額(その額に、五円未満の端数があるときは、これを切り捨て、五円以上十円未満の端数があるときは、これを十円に切り上げるものとする。)
二 傷病手当金の支給を始める日の属する年度の前年度の九月三十日における全被保険者の同月の標準報酬月額を平均した額を標準報酬月額の基礎となる報酬月額とみなしたときの標準報酬月額の三十分の一に相当する額(その額に、五円未満の端数があるときは、これを切り捨て、五円以上十円未満の端数があるときは、これを十円に切り上げるものとする。)

ところでこの手当金は出産の日以前四十二日から出産の日後五十六日、までしか出ない。それ以降はどうなるのだろう。

今度は「育児休業給付金」と言うものに変わる。

雇用保険法
第六十一条の四 育児休業給付金は、被保険者(略)が、厚生労働省令で定めるところにより、その一歳に満たない子(略)を養育するための休業をした場合において、当該休業を開始した日前二年間(略)に、みなし被保険者期間が通算して十二箇月以上であつたときに、支給単位期間について支給する。

詳細は下記厚生労働省のHPに譲るが、ポイントはこちらは「雇用保険法に定めがある」と言う点だ。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000158500.html

雇用保険とは、「労働者が失業した場合及び労働者について雇用の継続が困難となる事由が生じた場合に必要な給付を行うほか、労働者が自ら職業に関する教育訓練を受けた場合に必要な給付を行うこと」(第一条)のことであり、出産58日目からは失業者として扱われ、それに対してお金が出るという仕組なのである。

●育児休業終了後の職場復帰を前提(ただし、育児休業期間中に退職した場合は、それまで受給した育児休業給付を返金する必要はない)
●受給手続は事業所を管轄するハローワークに申請

といった点も「雇用保険法」と言うことを考えるとすんなり頷けることだろう。
なお、育児休業給付の1支給単位期間ごとの給付額は、「休業開始時賃金日額×支給日数×67%(ただし、育児休業の開始から6か月経過後は50%)」、である。

最後に、余談となるが、

医師法
第二十一条 医師は、死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、二十四時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。

保健師助産師看護師法
第四十一条 助産師は、妊娠四月以上の死産児を検案して異常があると認めたときは、二十四時間以内に所轄警察署にその旨を届け出なければならない。

となっていて、法律上、「出産」と言うと、妊娠4か月(85日)以上の分娩を指す。

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