環境へのコンプライアンス

近年、気候変動やらSDGやらサステイナブルやらという用語がよく聞かれる様になり、企業による環境などに配慮した取り組みがしばしばクローズアップされる様になった。一時は、日本の大臣の「セクシーに解決」と言った言葉も話題になった。そもそも今日本で、世界で何が取り組まれているのか、探ってみよう。

環境省の取組

環境省のホームページの中では、「環境と経済」という小項目が存在する。
https://www.env.go.jp/seisaku/list/keizai.html

大きく4つの項目に分かれており、
* 環境に配慮した事業活動の促進
* 環境金融の拡大(金融のグリーン化)
* 環境保全に資する製品の普及促進(グリーン購入・契約)
* 環境と経済の好循環のための各種事業
となっている。

この内、今回は1つ目の「環境に配慮した事業活動の促進」を取り上げることにしたい。今日時点で、以下の項目が並んでいる。
* 環境配慮促進法
* 環境経営
* 環境マネジメントシステム (エコアクション21、 ISO14001、 Eco-CRIP )
* 持続可能な開発目標(SDGs)
* 環境情報開示 (環境報告ガイドライン、 TCFD、 環境情報開示基盤整備事業)
* 環境コミュニケーション大賞
* 環境にやさしい企業行動調査

環境配慮促進法

一言で言えば国、地方公共団体及び大企業に環境配慮に関する(積極的な)情報提供を求める法律である。

いくつか条文を抜粋しておくと、

第2条
2 この法律において「環境情報」とは、事業活動に係る環境配慮等の状況に関する情報及び製品その他の物又は役務(以下「製品等」という。)に係る環境への負荷の低減に関する情報をいう。
3 この法律において「環境に配慮した事業活動」とは、環境への負荷を低減すること、良好な環境を創出することその他の環境の保全に関する活動が自主的に行われる事業活動をいう。
4 この法律において「環境報告書」とは、いかなる名称であるかを問わず、特定事業者(特別の法律によって設立された法人であって、その事業の運営のために必要な経費に関する国の交付金又は補助金の交付の状況その他からみたその事業の国の事務又は事業との関連性の程度、協同組織であるかどうかその他のその組織の態様、その事業活動に伴う環境への負荷の程度、その事業活動の規模その他の事情を勘案して政令で定めるものをいう。以下同じ。)その他の事業者が一の事業年度又は営業年度におけるその事業活動に係る環境配慮等の状況(その事業活動に伴う環境への負荷の程度を示す数値を含む。)を記載した文書(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他の人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)の作成がされている場合における当該電磁的記録を含む。)をいう。
第八条 主務大臣は、事業活動に係る環境配慮等の状況の公表に係る慣行その他の事情を勘案して、環境報告書に記載し、又は記録すべき事項及びその記載又は記録の方法(以下「記載事項等」という。)を定めなければならない。
第十一条 大企業者(中小企業者以外の事業者をいい、特定事業者を除く。)は、環境報告書の公表その他のその事業活動に係る環境配慮等の状況の公表を行うように努めるとともに、その公表を行うときは、記載事項等に留意して環境報告書を作成することその他の措置を講ずることにより、環境報告書その他の環境配慮等の状況に関する情報の信頼性を高めるように努めるものとする。

8条にある記載事項については同じく環境省のホームページに定まってあり、以下の7項目だ。

一 事業活動に係る環境配慮の方針等
二 主要な事業内容、対象とする事業年度等
三 事業活動に係る環境配慮の計画
四 事業活動に係る環境配慮の取組の体制等
五 事業活動に係る環境配慮の取組の状況等
六 製品等に係る環境配慮の情報
七 その他

こうした内容を含んだ報告書は色々な形で存在し、必ずしも環境報告書という名前の書面とは限らない。環境省によると、以下の様な書類も環境報告書に含むという。

- 環境活動レポート
- 環境・社会報告書、社会・環境報告書
- CSR報告書
- サステナビリティリポート、サステナビリティ報告書
- 政府や地方公共団体の環境白書

トヨタ自動車環境報告書2019

いくつか事例を見てみよう。トヨタ自動車は環境報告書という名前の報告書を発行しており、そこでは以下の6つのチャレンジが掲げられている。

1)新車CO2ゼロチャレンジ
2050 年グローバル新車平均走行時 CO2 排出量の 90%削減(2010 年比)を 目指す
2)ライフサイクル CO2ゼロチャレンジ
ライフサイクル全体での CO2 排出ゼロを目指す
3)工場CO2ゼロチャレンジ
2050 年グローバル工場 CO2 排出ゼロを目指す
4)水環境インパクト最小化チャレンジ
各国地域事情に応じた水使用量の最小化と排水の管理人と自然が共生する未来づくりへのチャレンジ
5)循環型社会・システム構築チャレンジ
日本で培った「適正処理」やリサイクルの 技術・システムのグローバル展開を目指す
6)人と自然が共生する未来づくりへのチャレンジ
自然保全活動の輪を地域・世界とつなぎ、 そして未来へつなぐ

排ガス規制など、何かとCO2削減で槍玉に挙げられがちな自動車業界。電動車(ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV)等の開発/研究は今後さらに進んでいる。

森永製菓CSR報告書2019

一方の森永製菓はCSR報告書の中で「地球環境・社会への配慮」という項目を設け、報告を行なっている。同社の環境方針は以下の6つだ。

1. 環境に関する法令、条例等の順守
国内外の環境に関わる法令や条例等を順守し、国際的な基準・規格等に対応します。
2. 製品に関わる全過程での環境負荷の低減
製品の企画・開発段階から生産・販売・廃棄に至るまでの全過程において、環境負荷 を考慮し、その低減に努めます。
3. CO2等の温室効果ガス排出量の削減
省エネルギーの推進およびエネルギー使用量の見える化等、カーボンマネジメントを実 施し、CO2等の温室効果ガス排出量を削減して、地球温暖化防止に努めます。
4. 省資源・廃棄物の削減およびリサイクルの促進
水資源および原材料等の有効利用に努め、廃棄物排出量の削減を図るとともに、リサイ クルを推進します。
5. 環境汚染物質の管理および削減の促進
有害な化学物質等の環境汚染物質を適正に管理し、汚染防止と削減に努めます。
6. 生物多様性の保全および生態系の保護

具体的な事例も本報告書にはある。クッキーの チョイスは「個包装の大きさをそのまま に、重なり部 分 を 少 な く し て 、 プ ラ ス チ ッ ク フ ィ ル ム の 使 用 量 を削 減しました。」。「ハイチュウを包む紙の幅を縮寸 し ま し た 。さ ら に 製 品 を ま と め るトレ イ の 板 紙 も 薄 く す る こ と で 、全 体の使用量を削減しています。」
地道な取り組みが重なっての環境配慮に繋がっている。

H30新時代の非財務情報開示のあり方に関する 調査研究報告書

https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/kigyoukaikei/pdf/csrreports30report.pdf

企業活力研究所の同レポートの中でいくつかの企業の取組が紹介されているので抜粋しておこう。

ーターゲットの明確化と開示媒体の棲み分け      ともすると「マルチステークホルダー向け」と開示の対象を明確にしない企業が多い中、ステークホルダーのニーズを踏まえて開示媒体ごとに読者ターゲットを明確化し、読み手に即した内容に編集して情報を届けている。開示にあたっては、ステークホルダーの情報ニーズに寄り添うことが全ての基本となる。
・ 大阪ガスは、ガイドラインは参照するが、ステークホルダーを重視して必要な情報を 開示していくことが基本のスタンスと明確に位置付けている。
・ 大和ハウス工業は、長期ESG投資家をレポーティングの対象として位置付け、サステ ナビリティレポートは ESG レーティングの向上・インデックス選定のためのツール(1 次予選)、統合報告書は関心を持った投資家との対話のツールとしている(2 次予選)。 それに伴い従来マルチステークホルダー向けとしていたサステナビリティレポートの 編集方針も、読み物風から開示のための媒体へと変化させた。
・ 海外読者をダーゲットユーザーとして想定しているのがJTで、急速に進んだグローバ ル化に伴い海外ステークホルダーの関心事の理解とそれに則した非財務情報開示が必 須との認識から、サステナビリティレポートの想定ユーザーを、株式の所有割合が高 い海外機関投資家や海外NGO、国際機関、CSR 専門家へと絞り込んだ。
・ サントリーは、消費者を主要読者として想定している。お客様に信頼と共感を得て頂 くための情報開示を目指し、工場見学で CSR 報告書を配布する、ウェブのコンテンツ への誘導に工夫をするなど、読んでもらうための工夫を行なっている。ホールディン グスは非上場であるが、子会社には上場しているサントリー食品インターナショナル もいること、非上場であることが逆に不信感につながらないよう透明性を大切にして いることから、外部の基準を参照し、上場企業並の情報開示に取り組んでいる。
ー情報の開示から主体的なエンゲージメントへ 情報を開示していることが即ち無条件に情報が届いていることにはつながらない。情報を相手に届け、更に受け取った情報を元に行動を促すには、届けたい相手との主体的な対話・エンゲージメントを行なっていくことが不可欠である。
近年、ESG をテーマにした投資家向けの説明会を行う企業も少しずつ増加しているが、 更にパパ広いステークホルダーを対象に ESG 説明会を行なっているのがオムロンや丸井グル ープである。
・ オムロンは、2017 年度に設定したサステナビリティ目標に向けた具体的な取り組みについて、IR 部門が主導ながら、幅広いインフルエンサーや学生も呼んだ説明会を開催している。
・ 丸井グループは、すべてのステークホルダーの利益が重なり合う部分である「企業価値」を高めるために、「共創経営」を経営における中心的な考え方と位置付け、情報 開示においても同様の姿勢で取り組んでいる。統合報告書である「共創経営レポー ト」の発行初年度には、現場の担当者が中心となって説明会を開催した。2 年目には 初回参加者の要望を踏まえて社外取締役も登壇したほか、お取引様・お客様も登壇 し、共に創る場づくりを実践。3 年目には長期的に財務情報として顕在化につながる プレ財務説明会としてサステナビリティ経営を報告する「共創サステナビリティ説明 会」を開催するに至った。
ー社内体制の整備と開示文化の醸成
統合的な開示のためには、縦割りになっている関連部門のサイロ化から脱することが重要であり、非財務情報の開示促進には、開示することが当たり前となる開示文化を浸透させていく必要がある。また開示情報のバウンダリを組織の実態に合わせる上では、組織体制や事業内容のグローバル化に伴い、開示に関わる社内体制もグローバル化し、情報収集システムの構築と開示チームの構築に取り組んでいく必要がある。
・ 社内の意識変革には、エンゲージメントの場に参加することが有効である。ダイキン 工業では、投資家向けの説明会で担当役員が質問や意見を投資家から直接受けること で意識が高まるきっかけになっているという。
・ ブリヂストンでは現在、事業実態に即した開示を進めるにあたり、従来国内中心であ ったレポートの企画と体制のグローバルへの移行を進めている。
・ すでに数年前から日本と海外(海外たばこ事業の統括本社があるスイス)メンバーで 組成する共同編集体制を敷いているのが JT である。それに伴い、サステナビリティレ ポートは英語を正文、日本語を和訳版としている。これにより英語の品質が向上したことに加え、開示を「当たり前」と考える在欧州メンバーとの議論を通じ、ネガティ ブ情報やこれまで開示したことのない情報などの開示が促進され、開示に対する社内 理解の醸成にもつながった。またグループグローバルでどのように非財務 KPI を把握 するかについての考え方を整理し、データの定義やカバー範囲などを「Basis of Reporting」として開示することで、客観性が向上したとともに、基準が明確化された ことにより、担当者が変わった場合でもスムーズに引継ぎができるようになったとい う効果もあった。
・ 住友化学は SDGs をテーマに従業員の意識高揚を目指す「サステナブルツリー」プロ ジェクトを展開している。従業員一人ひとりがいかに SDGs の 17 ゴールに貢献でき るかを考え、専用 Web 上に投稿するもので、2017 年度は 9,000 件を超える投稿が集 まった。また役員レベルでも担当部門での取り組みについて顔写真付きでコミットメ ントを開示している。
ー短期では達成できない本質的な統合に向けた確かな歩み                                                           非財務情報を価値創造に紐づけ、本質的な統合報告を実践していくことは、短期間でできることではない。統合報告の先進企業と評価されている企業も、統合思考の定着、戦略の策定、体制の構築、着実な改善など、模索を続けながら中長期の視点を持って質向上に取り組んでいる。
・ オムロンは、2012 年から統合報告書を発行しているが、5 年目にして自信を持って統 合報告と呼べるものが完成したと述べている。非財務の側面が戦略に落とし込まれた ことで、経営戦略における非財務情報の位置付けがより明確化された。
・ 丸井グループは、段階的に統合報告を進化させていくことを前提に、3 年をかけて統 合報告の質向上に取り組んできた。取り組みの中心には常に重要なステークホルダー とのエンゲージメントがある。
・ 住友化学は、気候変動に係る機会とリスクの情報開示を進めることがステークホルダ ーからの信頼を獲得し、結果として中長期的な企業価値向上につながるという考えか ら、他社に先駆けて TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に署名をした。 化学産業はエネルギー多消費型の産業であり CO2排出削減に向けたハードルは高い が、欧米企業の積極的な気候変動対応を視野に入れた取り組みを行っていく予定である。


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