第三者委員会報告書を読む前の基礎知識

企業不祥事においてよく参照される基本文書をまとめてみた。

人事院「懲戒処分の指針について」

国家公務員の人事を司る独立機関が人事院である。国家公務員法第二章「中央行政機関」においては、

第三条 
内閣の所轄の下に人事院を置く。人事院は、この法律に定める基準に従つて、内閣に報告しなければならない。
○2 人事院は、法律の定めるところに従い、給与その他の勤務条件の改善及び人事行政の改善に関する勧告、採用試験(採用試験の対象官職及び種類並びに採用試験により確保すべき人材に関する事項を除く。)、任免(標準職務遂行能力、採用昇任等基本方針、幹部職員の任用等に係る特例及び幹部候補育成課程に関する事項(第三十三条第一項に規定する根本基準の実施につき必要な事項であつて、行政需要の変化に対応するために行う優れた人材の養成及び活用の確保に関するものを含む。)を除く。)、給与(一般職の職員の給与に関する法律(昭和二十五年法律第九十五号)第六条の二第一項の規定による指定職俸給表の適用を受ける職員の号俸の決定の方法並びに同法第八条第一項の規定による職務の級の定数の設定及び改定に関する事項を除く。)、研修(第七十条の六第一項第一号に掲げる観点に係るものに限る。)の計画の樹立及び実施並びに当該研修に係る調査研究、分限、懲戒、苦情の処理、職務に係る倫理の保持その他職員に関する人事行政の公正の確保及び職員の利益の保護等に関する事務をつかさどる。

とあり、この内、懲戒の基準を公にしたものである。

この中では、第1に基本事項として、

具体的な処分量定の決定に当たっては、
 ① 非違行為の動機、態様及び結果はどのようなものであったか
 ② 故意又は過失の度合いはどの程度であったか
 ③ 非違行為を行った職員の職責はどのようなものであったか、その職責は非違行為との関係でどのように評価すべきか
 ④ 他の職員及び社会に与える影響はどのようなものであるか
 ⑤ 過去に非違行為を行っているか
 等のほか、適宜、日頃の勤務態度や非違行為後の対応等も含め総合的に考慮の上判断するものとする。

とされ、第2標準例において、

1 一般服務関係
2 公金官物取扱い関係
3 公務外非行関係
4 飲酒運転・交通事故・交通法規違反関係
5 監督責任関係

 に分けて、何をするとどのような処分が下るのか具体的な事例集が提示されている。


人事院「懲戒処分の公表指針について」

同院は懲戒処分の適切な公表に関する指針も定めている。それによれば、

1 公表対象
  次のいずれかに該当する懲戒処分は、公表するものとする。
  (1) 職務遂行上の行為又はこれに関連する行為に係る懲戒処分
  (2) 職務に関連しない行為に係る懲戒処分のうち、免職又は停職である懲戒処分 
2 公表内容
 事案の概要、処分量定及び処分年月日並びに所属、役職段階等の被処分者の属性に関する情報を、個人が識別されない内容のものとすることを基本として公表するものとする。
3 公表の例外
 被害者又はその関係者のプライバシー等の権利利益を侵害するおそれがある場合等1及び2によることが適当でないと認められる場合は、1及び2にかかわらず、公表内容の一部又は全部を公表しないことも差し支えないものとする。
4 公表時期
 懲戒処分を行った後、速やかに公表するものとする。ただし、軽微な事案については、一定期間ごとに一括して公表することも差し支えないものとする。
5 公表方法
 記者クラブ等への資料の提供その他適宜の方法によるものとする。
 

日弁連「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」


日本弁護士連合会、通称「日弁連」と呼ばれる弁護士会の連合団体が定めた第三者委員会設置におけるガイドライン。冒頭にこうある。

不祥事によって失墜してしまった社会的信頼 を回復することは到底できない。そのため、最近では、外部者を交えた委員会を設けて調 査を依頼するケースが増え始めている。この種の委員会には、大きく分けて2つのタイプがある。ひとつは、企業等が弁護士に対し内部調査への参加を依頼することによって、調査の精度や信憑性を高めようとするものである(以下、「内部調査委員会」という)。確かに、適法・不適法の判断能力や事実関係の調査能力に長けた弁護士が参加することは、内部調査の信頼性を飛躍的に向上させることになり、企業等の信頼回復につながる。その意味で、こうした活動に従事する弁護士の社会的使命は、何ら否定されるべきものではない。
しかし・・・(中略)・・・、独立性の高いより説得力のある調査を求め始めている。そこで、注目されるようになったのが、企業等から独立した委員のみをもって構成され、徹底した調査を実施した上で、専門家としての知見と経験に基づいて原因を分析し、必要に応じて具体的な再発防止策等を提言するタイプの委員会(以下、「第三者委員会」という)である。すなわち、経営者等自身のためではなく、すべてのステーク・ホルダーのために調査を実施し、それを対外公表することで、最終的には企業等の信頼と持続可能性を回復することを目的とするのが、この第三者委員会の使命である。

ガイドライン第1章「基本原則」では、

第1.第三者委員会の活動
1.不祥事に関連する事実の調査、認定、評価 第三者委員会は、企業等において、不祥事が発生した場合において、調査を実施し、事 実認定を行い、これを評価して原因を分析する。
(1)調査対象とする事実(調査スコープ) 第三者委員会の調査対象は、第一次的には不祥事を構成する事実関係であるが、それに 止まらず、不祥事の経緯、動機、背景及び類似案件の存否、さらに当該不祥事を生じさせ た内部統制、コンプライアンス、ガバナンス上の問題点、企業風土等にも及ぶ。
(2)事実認定 調査に基づく事実認定の権限は第三者委員会のみに属する。 第三者委員会は、証拠に基づいた客観的な事実認定を行う。
(3)事実の評価、原因分析 第三者委員会は、認定された事実の評価を行い、不祥事の原因を分析する。 事実の評価と原因分析は、法的責任の観点に限定されず、自主規制機関の規則やガイドライン、企業の社会的責任(CSR)、企業倫理等の観点から行われる。  2.説明責任第三者委員会は、不祥事を起こした企業等が、企業の社会的責任(CSR)の観点から、 ステークホルダーに対する説明責任を果たす目的で設置する委員会である。 3.提言 第三者委員会は、調査結果に基づいて、再発防止策等の提言を行う。 第2.第三者委員会の独立性、中立性
第三者委員会は、依頼の形式にかかわらず、企業等から独立した立場で、企業等のステークホルダーのために、中立・公正で客観的な調査を行う。  第3.企業等の協力 
第三者委員会は、その任務を果たすため、企業等に対して、調査に対する全面的な協力 のための具体的対応を求めるものとし、企業等は、第三者委員会の調査に全面的に協力する。 

上場会社における不祥事予防のプリンシプル

日本取引所グループの一員として、証券取引所の上場審査、上場管理、売買審査、考査等の業務を一手に担っている日本取引所自主規制法人が2016年に作った原則。
[原則1] 実を伴った実態把握
[原則2] 使命感に裏付けられた職責の全う
[原則3] 双方向のコミュニケーション
[原則4]不正の芽の察知と機敏な対処
[原則5] グループ全体を貫く経営管理
[原則6] サプライチェーンを展望した責任感
 の6つの原則からなる。

原則2は経営陣によるコンプライアンスへのコミット、原則3の「双方向」とは現場と経営陣のこと。原則6でサプライチェーンすなわち業務委託先や仕入先・販売先などの不祥事も他人事にしない様にクギを刺しているのが特徴的だ。

上場会社における不祥事対応のプリンシプル

他方で同自主規制法人は不祥事対応用の原則も設けている。
https://www.jpx.co.jp/regulation/listing/principle/nlsgeu000001ienc-att/fusyojiprinciple.pdf

2枚の短い文章に以下4つの原則が並ぶ。
1: 不祥事の根本的な原因の解明
2: 第三者委員会を設置する場合における独立性・中立性・専門性の確保
3: 実効性の高い再発防止策の策定と迅速な実行
4: 迅速かつ的確な情報開示



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