拝啓、バレンタイン殿
こんなはずじゃなかった、こんなはずじゃなかった、と口ずさみながら駅前を歩く。
ひとひとひと、ひとの群れ。
寂しいなぁ寂しい寂しい寂しい、と口ずさみながら、ひとりでチョコレート屋さんに入る。
ひとひとひと、ひとりきり。
贈り物ですか、と聞かれて、いえ、ひとりで食べます、といらんことまで答えてしまう。
人生はもしかしたら
こんなはずじゃなかった、と
凶暴な寂しさとの戦いなのかもしれない。
だってどれだけ考えて何を選んだって
結局こうしてひとり寂しく歩くことになるんだから。
でも、私は暗い気持ちではなかった。
自分用のガトーショコラがあるから。
店を出る。いたずらにきらきらした夜の間を縫うように歩く。こんなはずじゃなかったんだけどな、寂しくて仕方ないんだけどな。あーあ、お腹がすいたな。
私はここにいる。ここで生きている。
そう言葉にし続けたらきっと、同じようにひとりで寂しく歩いているひとと出会える。
たぶん私は、そう信じている。
信じていれば夢は叶う、も
信じられるものなど何一つない、も
どちらもわりと真理なのだと思う。
ひとひとひと、ひとの群れ。
ひとひとひと、ひとりきり。
ガトーショコラに合うウイスキーでも買ってかーえろ。
眠れない夜のための詩を、そっとつくります。