雨の日の屋上
ずっと、大丈夫なふりをして生きてきた。
無理して笑って楽しい話をして冗談を言ってこのひとは私といて楽しいだろうか私といることでメリットを感じてくれているだろうかと考えて必死で必死で必死で必死で必死で、
――限界だった。
「お前なんかいらない生まなきゃよかったお前が全部悪いんだでも死なれても迷惑なんだよ死ぬとか言うな気持ち悪い泣くな気持ち悪い世間からどう見られるかだけを考えろ死ぬことはゆるさないでも生まれてきたこともゆるさない」
そう言われながら、笑って「えへへ、ごめんなさい」と答え続けるのは、
「何も感じない、私は何も感じない」と自分に呪いをかけながら何食わぬ顔でやり過ごし続けるのは、
もう、限界だった。
ラインを消した。大学用のメールアドレスを消した。病院と美容院の予約をキャンセルした。恋人に「あなたのことなんか好きじゃなかった」と言って別れた。アパートを解約した。そのあと携帯を川に捨てた。
帰る場所なんてどこにもなかった。
ゆるされたかった。ただ一言誰かに、生きていてほしいと言ってほしかった。ここに帰ってきていいよと言ってほしかった。
それすらゆるされなかった。
何かを求めることすら、居場所を求めることすら、救いを求めることすら、ゆるされなかった。
明るくない私に価値はない。
道化のサーヴィスが出来ない私は求められない。
そんなことに気づきたくなかった。そうではないと信じていたかった。
ゆるすゆるされるの話ではない、という話ではなくて、私は、ゆるされないと生きていけなかった。
つらいのは今、この瞬間であって、必要なのは長期的に飲む漢方薬じゃない、抗生物質だった。
道行くひとすべてが憎かった。寄り添う恋人も楽しそうな家族もすべてが憎かった。せいぜい全員幸せに生きて幸せに死ねばいいと思った。
誰かゆるしてゆるしてゆるしてゆるしてゆるしてゆるして。
そう叫ぶ気力もツイートする媒体も、もう私にはなかった。
雨の降る朝、廃墟ビルの屋上で、私は柵を超えた。
ゆるしてください全部ゆるしてください。
灰色の世界を呪った。誰も彼も死んでしまえばいいと思った。もう何も考えたくなった。
死にたいと言えるうちに、ちゃんと、ゆるされる場所に逃げ込むべきだった。
死にたいと言うことをゆるされる場所で、思う存分泣くべきだった。
私は何を間違えた?
一体どこで何を?
私は雨に濡れながら、最後まで捨てられなかった文庫本を抱いて、涙も出さずに泣いていた。
どうせ死ねやしないんだと思いながら、いつまでもいつまでも泣いていた。
――少女の行方は、誰も知らない。
眠れない夜のための詩を、そっとつくります。