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占いを信じて止まない私たち


人生いろいろあれば、誰かに進むべき道を
指し示してほしいときだってある。

私は依然占いを不定期に、でも狂信的に利用しているときがあった。
仲の良い友人の姉が占いが好きで、
「神田の駅に、ミカドっていう喫茶店があって、
そこの一角で占いをしている人がいるんだけどよく当たるらしい」
と教えてくれたのが占い師という職業人との出会いの始まりだった。

神田のガードしたに並んだ飲食店の並びにレトロというのか、
古びたというのか喫茶店があって店内に入るとき、案内の店員さんに
「占ってもらいに来ました」告げる。
そうすると、一般の喫茶コーナーより奥に設けられた小上がりの一角を指し示してくれるので
いそいそとその喫茶スペースとは異なった席へ着く。

その奥の席には頭がつるっとして小柄なおいじいちゃまが座っていて、
いかにも占い師!!という紫のローブに目の前には水晶という感じではなかったけれど
今さんという名前だった。

正直、もう20年近い前のことなのでうろ覚えの状態だ。
占ってほしい内容はいつだってそれは男性関係の問題だったし、
決して自分がよく生きるための道がわからないとか
会社の人間関係がとかそういう内容だったことは一度もない。

この時も一つの恋にやぶれ、そのことが人生のすべてであるかのような絶望感で
いてもたってもいられない状態だった。

一人の男性と人間関係が築けないことは、私が人間として欠損品で、
生きている価値すらない。それを改善するためにはどうしたらいいか?
そしていま感じている焦りを何とか誤魔化すためには早く次の出会いを
見つける方法と、いつぐらいにその時期が訪れるかを知りたかった。
自分では分からないし、決められないから何とかその占いで、
よく当たるその占いで私の未来を見てほしい!!
そんな状況だ。

恋愛経験だけが人をつくる訳ではないが、
私という個人が異性を通して認められる付き合いができるということが
私という存在が最高に評価されていることだと今はそんなことないと理解できる。
けれど二十歳そこそこの田舎から上京してきた私にはまだまだ理解できない。
とにかく早く大人になりたかったし、彼氏がほしかったし、
それが自分のステータスをあげると信じていたから、それが叶わない状態を
一刻も早く改善したい。仕事でいい結果を残すより私には今後数年に渡り重要課題で
あり続けた。

そう、話を今さんに戻すと。
姓名判断と生年月日、四柱推命などをみてもらったと思う。そして手相。

占い初心者の私は、その一挙手一投足見逃したくなくて身を乗り出して話を聴いた。
たぶん、よく頑張ってきたねとか、あなたにはいい運気がついているとか、
ご先祖様が見守ってくれているとかそういうことをたくさん声がけしてもらったと思う。
私は泣きながら話をし、その言葉を一つ一つ受け取りながら
頑張ってきたことの労を労ってもらったことといま自分が男に振られてこんなに苦しいのも、
きっと運気の流れのせいだし、きっとこれから赤い糸で結ばれた素敵な男性に
出会えるだろうという思いに安心した。

でも、私はもっと早くその運気を手に入れたい。
なんならこの帰り道、次の素敵な男性に出会いたい。
もっと早く、たくさん泣いたのでスッキリはしたけれど今この苦痛を和らげるには
とにかく次の男性しかない。

その声が聞こえたのか聞こえないのか定かではないがこのあと、
今さんに印鑑を作るよう薦められた。

・実印
・銀行印
・認印
象牙三点セット、桐箱入り、保証書付き。
結婚して名字が変わったら彫り直しもしてくれるという。

お値段、30万円。

「買います!」

私の決断は早かった。
とても早かった。
30万円でこれからの明るい未来を約束されるなら、
それは安いお買い物だ。

印鑑購入の手続きを済ませて、10日後にミカドに取りにくるよう言われた私の帰り道の足取りは、
軽やかだったに違いないと思う。
これで私は大丈夫だ〜ありがとうございます〜良かった!良かった!
苦痛からはだいぶ和らいで、未来への希望はしっかりと約束された気持ちだった。

そして印鑑を取りに行く数日前に次の彼氏が、できた。

印鑑を受け取りに行ったとき、もちろん今さんにその話をした。
返ってきた返事は、

「あなたは決断が早かったものね。それがきっかけになったんでしょうね」

そのとき、歴史が動いた!決断の早さ、ここの占いと出会えたことも
すべてが後押しされているような気持ちがした。
それはもう今でも感謝しかない。

そこから数年後、印鑑で勝ち取った運気でできた彼氏とも4年近いお付き合いの末、破局を迎えた。
ここで、また私の絶望感と喪失感が一気にわき起こってきた。

そして雑誌の巻末広告記された電話占いのキャッチコピーに釘付けになる。
あなたの復縁、叶えます。
そうだ、世の中には【復縁】という言葉があるじゃないか。
復縁のためにまた占い師さんに相談しようと思って、
再び神田の喫茶店ミカドの今さんに連絡を取ろうとした。

ここの記憶が曖昧なのだけど、このとき今さんも喫茶店のミカドもなくなっていた。
なくなっていたけれど、今さんの意志を継いだ占い師さんがいて同じく神田周辺のカフェで
占いをしているという情報を手に入れた。

話は逸れるが、こう言うときの情報収集にかける情熱とか
集中力ってすごかったなあと改めて思う。
ネットはもちろんあったけど、今よりもっと情報は少なかったろうし。
いまはそこまでの情熱や集中力があるのかと考えると
若いってすごいなと思う。

さて、今さんの意志を引き継いだ方と連絡が取れて神田のコーヒーショップで待ち合わせをした。
店内での待ち合わせで、指定された場所に行くと派手ではないけれど持ち物や服の上質さが
滲み出る上品なご婦人が会釈して迎えてくれた。

このご婦人の占い方法はダウジングだった。。
水晶のきれいなダウジングを紫のサテンの布から出して占っていた。
それに影響を受けて、私もダウジングを買ったしそれが今でも家にある。

そして、そのとき占ってもらったのはもちろん復縁についてで、
私の置かれている状況、相手の心境などをダウジングで読み取り
とても細かいアドバイスをもらった。

1まずはじめに今の状況で送るメールの内容
2返事が来たら
3返事がこなかった場合三日後に送るメールの内容
4その返事が来たら

ここまでで終了の時間となったので、お礼を言って帰宅した。
いち早く実行したかったが、細かなタイミングも言われた通り実践した。

実践したところ相手からは占いの通りに返事が来たし、このアドバイスをもらい続けていれば
きっとうまくいくんじゃないかと思ってきた頃。

それでも結果を急いだ私は、大きな失敗を犯した。
たぶん。
さすがにこのあたりの記憶が、私の保身なのか苦痛を紛らわすための大量の酒のせいなのか
記憶が曖昧だ。

占い師さんとの打ち合わせにないタイミングで連絡を取り、打ち合わせにない内容を主張し、
すでに合わなくなっている噛み合わせのズレを更に大きくねじ曲げた。

それがきっかけでお別れは確定的になったので、
もう復縁に関する相談事がなくなった私は神田の占い通いをあっさりやめた。

それから何年も経って、友人も友人の姉も私も
東に行い占い師がいると聞けば東へ行き
西に行い占い師がいれば西に行き、私たちの共通は
男性関係の相談内容が主要だったが
その時々で盛り上がった感情とどうにも思い通りにならない状況の慰めと、
運気というリズムを掴むために翻弄されながら、

「この時期の、出会いの場に行きなさい」とか
「いまは運気が低迷中だから、次の出会いに向けて
自分磨きをしましょう」的な助言を心より所にして
磨きに磨きをかけ、出会いや開運のためにお金と時間を費やした。

それはそれで励みにもなり、励まし合い
その時期にまつわる出来事のすべてに一喜一憂しながら
占いという未来を予測してもらうことへの依存を深めたり、
忘れるくらい仕事が忙しくなってまた次の占い師を渡り歩きながら過ごしている。


昨年友人が2020年は新型コロナに乗じて不安に駆り立てられた人たちで
占い業界が急成長しているので、私も占い師を副業でしたいと言い出した。
そこにビジネスチャンスがあるという。
クライアントは不安がいっぱいだから、不安な人たちが大勢いて
その人たちがいいお客さんになるだろうから占い業界に参入したいと言い出した。

占いとは、統計学を基にしたものやカードを使用するもの
霊能者のように見えない世界と繋がるものや、
儀式として動物の生け贄をもとに行われるものなど
古来より人類の発展とともに世界中で使われてきた伝統的
手法だ。

当たるも八卦、当たらぬも八卦

当たったらラッキー、当たらなくてもまあいいや

そのくらいの調度いい距離感で付き合うことができるなら
今年の上半期、あなたの運勢!を年末年始に
好奇心で見るのは楽しい。わくわくするし、希望をもって
始められる。

私が占いなしではいられない状態だったときは
とにかく、行動の一つ一つに占い師の助言がほしかった。
これが正しいのか、次にどうしたらいいのか?
私はどうしたら幸せになれるのかを、決めてもらわないと
世界が終わるような気がしていたことだ。

いま情勢が不安定な中で、友人のビジネスとしての着眼点は
カモがいっぱいいるから稼げるに違いないということで
人は経験を重ねると自分が頼ってきたものを上手に使い方を
逆転させることができるようになるのかと笑ってしまった。

何かこう、皮肉なものだなと思う。

占い、もしくは占い師は人の未来を予測する要素もあるし
それを定期的に授けることによって、クライアントと占い師の関係は
お互いが勝てる仕組みになっているのだろう。

でも私自身が占いに熱を上げて、占い師さんの助言がなくては
何かするのも不安で誰かの許可や承認がない状態が
どのくらい不自然だったか分かる。

お客さんとしてはいいリピーターだが、これを一生続けることは
誰の人生を生きているのか分からなくなる。
占いはあくまで占いであり、本当に大事なことは
自分がどうしたいのかを人の意見や世間体は置いておいて
ちゃんと確信を持っていることだ。
正しいかどうかが大切なんじゃない。あなたが本当にやりたいことかどうか?
その真ん中があるかが大切だ。

私の人生は私が選択して決めることができる。
今までも、これからも。
自分の真ん中の声に自信が持てるようになった時、私は占い師巡りをやめた。

占い師になりたいと言っていた友人に、その言葉を聞いたすぐに
私の持っているタロットカードの教則本とカードをプレゼントした。
一ヶ月くらい経って会った時に、返された。

「私には人の悩みを聞くのは無理だと思ったし、もらったタロットなんか
スピリチュアル過ぎて難しかった。」ということだ。

そう、人の悩みをお金をもらってでも聞くのは想像より大変だ。
それはやってみたから分かったことだが。

それはまた違うテーマで書きたい。

最後に、20年前に作った象牙の印鑑3本セットは今も現役だ。
結婚して苗字が変わったので彫り直しの発注をするため鑑定書に記載された
何とか協会をネット検索した。
これかと思った印鑑作成の会社に連絡したが違った。
でも大丈夫、彫り直しをやってくれるハンコ屋さんは全国にいろいろある。
占いはもう行かないが、この印鑑は私を助けてくれるアイテムに違いないし
30万円分のもとはとったと信じている。

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