free「嘘が嫌い。だいっきらい。でも」

 嘘つかないで。
なんて無理難題をぶつける女だったんだろう、と今年も反省する。毎年この日がくるたび思い出す。嘘ばかりついて、私に一瞬の眩い光のような夢をみせて、幸せだと錯覚させた男のことを。大好きだったから。その嘘をも、あなたがくれる数少ない私だけのもの、そんな風に、、、。

 愚かな女だった。でもじゃあ、残酷な現実だけを突きつけるような男を愛したのか、、、きっと答えはnoなの。彼は言った。本当のことなんてすべて貴女を傷つけるだけ。それなら、せめて俺だけは優しい嘘で貴女を守ってあげたいんだ。・・・どっちもどっちだな、ズルい男とバカな女。お似合いすぎて気持ち悪いまである。なのになぜ一緒にいられなかったのだろう。あの人は今も、優しい嘘で誰かを守るフリして、正直さを求める相手の心の内側を傷つけているのだろうか。…きっとそう。

 数年前から、SNSのアイコンが変わった。私が撮った後ろ姿から、花を撮る貴方を少し後ろから撮った花畑の画像に。私より先に幸せになったら許さないと言ったじゃないか。なにそんなとこで嬉しそうに写真とってんのよ。重度の花粉症のくせに。きっと目を真っ赤にして、流れる涙と鼻水と戦ってるくせに。でも「花粉症じゃないよ、全然つらくないもん。花粉症ならこんなとこ来ないでしょ」と言って笑うんだろう。相手のことを思ってつく嘘は、嘘じゃないとも言ってたな。悪気がないから始末が悪い。それが相手のためと信じて疑わず、本当のことを求めても応えてくれない。でも。

 「花粉症で辛いから真っ暗な映画館で、大好きなジョニーくんの新作が観たい」と言ってくれたほうが幸せだった。間違いなく。お花見も草原の散歩も、近所の公園すら行けなくても。貴方の本心が知りたい、そう思い続けた数年間。本当の気持ちがきけたのは、長すぎた春の終わるその時だけだった。遅すぎるよ、何もかも。でも貴方の言った通りだった。本当の気持ちなんて、ただただ相手を傷つける。そして終わる。

 今でも嘘は嫌い。だいっきらい。でも、辛いだけの現実よりはマシ。そんな気がする。優しい嘘じゃなく、嘘をつかせる優しい気持ちが、愛、なのかなと。なんて。毎年こんなことを思ってしまうので、今日が嫌い。早く終わってしまえ、今日。

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