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縫い目を辿る日

永遠に続くかのような縫い目に気持ちを託す。

古くなったズボンのチャックを付け替えて、出来上がったと眺めていたらあちこちの縫い目がほつれて切れているのに気づいた。
戦時中の話を映像でいくつか流しながら手縫いの補修作業を続けた。

手で縫うことで辿れるものがある。
一針一針縫いながら、そのズボンが経てきた時間を遡る。
あっという間に裁断されて、工場のミシンで伸び伸びと新しい縫い目をつけながらピカピカのズボンになったのだろう。そんな元気だった縫い目を辿ってゆくのだ。
補修が済んでまた履くようになると、今度は手縫いのこの目を一つ一つ辿る時が来るのかもしれない。

ズボンを履くと補修で丁寧に針を運んだ気持ちの温かさも一緒に身につけるような感覚になる。
穴の空いた服を着るのは素晴らしいことだ。もしその穴を補修して着るのなら。
そしてそんな補修をしている時には穏やかな幸せがある。
自分の親もそのまた親も、遥か昔のご先祖様まで、そうやって繕いながら着ていたのだろうから。そんな彼方からの着る物への愛着は運針に乗って今に重なる。

どんな時も手仕事の先には先人達の愛を感じる。

サポートいただいた場合には、古民家等での展示費用として活用させていただきます。