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授業参観で防災頭巾袋は

 授業参観に行った。週末の木曜から土曜まで、給食も含めて公開になり、都合のいい時間に行ける仕組みだ。娘は「算数の時間に来てほしい」と言うので、会社に行く前に出かけた。

 その日の授業は「確かめ算」だった。先生が65-38=22と筆算で黒板に書く。それで、「この答えが合っているかどうかを調べるには、どうしたらいいと思う?」とみんなに聞くが、30人いる児童たちの反応は見事にバラバラ。指されていないのに大声で答えを言ってしまう子、答えが分からず、頭を抱えている子……。

 「この答えは間違っているよね。正しい答えは27。じゃあ、今度はこの答えが本当に正しいか、もう一度、確かめてみよう。どうしたらいい?」と聞かれると、またまた、大声で答えを言ってしまう子、頭を抱え、白紙のノートにへんてこな記号を書いている子……。先生は大変だ。でも、答えを言ってしまう子をしかったり、分からない子のそばにも行って教えたりしながら、テンポよく授業を進めていた。

 娘はというと、これまで同様、なかなか手をあげない。みんながあげているのに、娘だけあげていない時もある。あげたとしても、普通は先生が「分かる人!」と言った途端、みんな「はいっ」と手をあげるのに、遅いのだ。しかも、やっとあげたひょろ長い腕は、まっすぐの形から次第に折れてきて、彼女だけ直角になっている。やる気がないのか、分からないのか、恥ずかしいのか……。

 1年生の時の授業参観では「手をあげろ!」と怖い顔で念を送っていたが、今回はもう腹が立たなくなった。1年の時の授業参観では私も緊張していたのかもしれない。時折、後ろを向いて私ににっこりし、また前を向く娘の、髪を二つにぴょんと結んだ後ろ姿は、かわいいなぁと勝手なことを思いながら眺めていた。「手を全然あげないのは、公文に通っているから、簡単すぎてつまらないのかもしれない」などという考えも頭をよぎった。でも、帰宅後、「なんで手をあげなかったの?」と聞くと、「難しくて分からなかった」という答えだった。

 それよりも、気になったことは、みんなのイスの背にくくりつけてある防災頭巾袋が一様に色あせ、すりきれ始めていることだった。入学時、あんなに大騒ぎし、近所の手芸店で作ってもらった防災頭巾袋だ。

 「あれ、いつまでもつのかしらねぇ……」

 隣のお母さんもつぶやいていた。入学時、手芸店のおばあさんはとても高齢に見えた。最近は店を開けていない日もある。おばあさんが亡くなったら、誰に作ってもらえばいいのか……。授業を参観して、一番気になったのはそのことだった。

2010年7月4日

【追記】

 防災頭巾袋は結局、6年生までそのまま使い切った。ピンクのキルト生地で、小さな模様がいろいろ付いていたはずだが、最後は白の無地になった。

 この記事を読んで、2年のころにすでに擦り切れ始めていたのかと驚いた。

 手芸店はその後、取り壊され、今は駐車場になっている。

☆2009年から2012年まで子ども向けの新聞につづった連載を改編したものです。

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