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私だけのパワースポット

望まない引っ越しだった。


どんなに願っても、引っ越しが出来なかった11年。それが、この1年で2回も引っ越しをした。

最初の家は浄化のため、今の家は癒しのために導かれた。今は、そう思う。


最初の引っ越しは、人生最大のトラブルの後にやってきた。それも強引に。あの時ほど、不思議な力を感じたことはない。

11年住んだ家に、私はずっと囚われていると感じていた。離れたいと思えば思うほど、苦痛を与えられていた。あの家で、心が安らかだったことはない。

家が私を離すまいとする力が強いから、あそこまで力ずくでなければ、引っ越せなかったんだろう。


最初の引っ越し先は、いい造りの家だな、ここに住みたいと思ってずっと見ていた、まさにその部屋だった。

実際、隣と接しているのは水回りだけだったので、騒音から解放された上に、買い物も至極便利だった。おまけに勝手口があり、この勝手口からベランダに出て、満月を眺めるのが大好きだった。

ただ、空が狭かった。                                         
高いマンションに囲まれていたから、どうしようもなく空が狭かった。

それでも、私をあの家から救い出してくれたこの家がとても気に入っていた。

そんな家と、わずか7ヶ月でお別れすることになるとは。引っ越しが決まった時は、泣いた。少しだけ涙した…。


今の家は、場所が嫌だった。自分で探したわけではなく、与えられた家。すぐ引っ越すつもりだった。そんな中、コロナが次第に大変なことになり、身動きとれなくなったので腹をくくるしかなかった。当面、ここに住むしかない。

腹をくくってからは、段ボールの山と向き合う毎日。一つ一つを丁寧に見ていき、不要なものには「ありがとう」と言い、さよならした。引っ越しの時に、ほとんどの家具は処分し、洋服などもあらかた処分していたが、それでも、けっこうな量が出てきた。どれだけいらないものを後生大事に抱えて生きていたんだか。

荷物が減って身軽になったら、不思議と気持ちも軽くなった。

何よりも、好みでない、汚れて古ぼけた家具がなくなった代わりに、家中が私好みのもので溢れたことが、とても私にいい影響を与えてくれた。視界に不快な物が入らないと、こんなにも気持ちが晴れやかになるのかと思った。

持ってきた家具も布を張り替えたり、かごを編んだり、毎日なにかしら作っていた。         
そして、少しずつ、ゆっくりと家中を私らしさで溢れさせた。

汚い言葉は使わない。                                       
耳にしたくない言葉を垂れ流すテレビも見ない代わりに、好きな音楽をかけて、心地よい音霊で部屋を満たす。お香をたいて、空間を好みの香りで満たす。毎日、丁寧に掃除をする。

気づいたら、私は、この家が大好きになっていた。

なにより、空が広い。                                         
毎朝カーテンを開けて、空を眺めるのが今の私の日課だ。

他の人にとっては、ただの家だが、私には最高のパワースポット。

この家に引っ越して良かった。                         
ありがとう。




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