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#感覚

透明な言葉

深い深い海の中。 シャボン玉のような透明で厚い膜で体は守られ、深海をゆらゆらと一人たゆたっている。私に音が届かない。 そんな錯覚に私は陥る。 言葉が次々に私の体をすり抜ける。 するりするり。 捕まえようと手を伸ばしても、掴めない。 つるりと逃げる。 精一杯手を伸ばしても、触れることはない。言葉らしきものの音の残響だけが、私の身体にまとわりつく。 目の前にいる人は私と同じ言語を使っているはずなのに、その言葉は意味をもたない。口をぱくぱく動かして、なにか音を発している。