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攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEXの解説と感想 第2話 「暴走の証明」

【1】アヴァンタイトル

 緑豊かな自然に囲まれた山奥の土地に無機質な印象を与える小さな街があります。高層ビルのような背の高い建物はなく、巨大なドーム状の建築物が目を引きます。やがて視点はそのドームの内部へ。そこには巨大な野戦場のような地形が広がっていて、倉庫から外に出てどこかへ向かおうとする多脚式戦車の姿が映し出されます。どうやら、ここは兵器の実験場のようです。周囲の技師は驚いた様子で、「あの戦車には誰が乗っているんだ」と騒いでいます。技師が勝手に動き出した戦車を静止しようとすると戦車はよっこいしょという感じで振り返り、両腕に備え付けられたガトリングを斉射します。慌てて逃げる技師たち。どうやらその攻撃はただの威嚇だったようで怪我人は出ていません。続いて主砲を発射。残り2機の戦車に命中すると、それぞれ大きな爆発とともに破壊されてしまいます。

 ドームの内壁に設置された観覧席のような場所では、軍服を着た偉そうなオジサンたちがその様子を見ています。背後で電話を掛ける背広の男は「いったい何が起こっているんだ」と状況が把握できず困惑している様子。この戦車の振る舞いは、予想外の出来事のようです。他方、走り出す戦車を見つめ、「これでいいんだな、加護」と意味深な心の声を発する作業着の男。戦車は28と書かれた鉄の扉を破壊し、ドーム施設の外へと飛び出していきました。

多脚式戦車:キャタピラやタイヤの代わりに複数の脚を持ち、歩行することで移動する戦車。男の子のロマン。車両が侵入困難な山岳部や都市部など、凹凸や障害物が多い地形に対応するための未来の兵器として生まれた概念である。ちなみに「キャタピラー」は米国キャタピラー社の登録商標であり、一般名詞としては無限軌道あるいは履帯というべきである。

 さて、ここで攻殻機動隊の舞台となる場所の説明をしておきましょう。まず、公安9課の本部があり、本編の主な舞台となるのが新浜県新浜市。神戸沖に位置する海上人工都市です。原作では、東京は1999年に核攻撃で壊滅しており、その後、暫定首都となり繫栄したのが新浜です。SACの時点では福岡が新首都に決まり、中央官庁のほとんどは福岡市に移転しましたが、いくつかの官庁、政府機関は新浜に残っています。SACの世界では東京以外にも仙台、新潟、舞鶴などが核攻撃で壊滅し、クレーターが残っている状態です。沖縄もまた核攻撃で消滅しています。

 第2話の舞台の一つである播磨研究学園都市は、電脳技術ビッグバンを促した神経素子(ニューロチップ)が誕生した場所であり、タチコマたちの生まれ故郷です。現実の日本にある播磨科学公園都市がモデルです。
 また、これもまた第2話の舞台である新浜大橋ですが、これは現実の日本にある明石海峡大橋がモデルです。

★攻殻機動隊は大体、神戸のあたりが舞台と覚えておきましょう!

【2】新型多脚戦車暴走事件

『暴走の証明』『TESTATION』とタイトル。今回も背景は緑色。一話完結のエピソード(スタンドアローン)です。

シーン①:倉庫で整備を受けるタチコマ。赤服と呼ばれる技術スタッフがデータを検証しています。

赤服「今のところ各機体ごとの個体差は認められんな」             バトー「つまり、お前には個性がないってことだよ」           タチコマ「個性?」                         赤服「どの機体をチョイスしても、同じスペックで扱えると言って欲しいね」                                バトー「ふふん、だがそれじゃあ面白味がねぇぜ」

 兵器であるタチコマが個性を持つということの意味。それは本作のテーマの一つです。タチコマはあくまで兵器であり、常識的な立場から見れば赤服さんの意見はもっとも。面白味のために自分のタチコマを特別扱いするバトーさんは困ったオジサンでしかありません

バトー「お前にいい物をやろう。天然オイルだ」            トグサ「いいのか、そんなものを入れて。変な学習をするかもしれないぜ」バトー「いいのいいの。これは機械に対する愛なの、愛」        タチコマ「おお、いつもの合成オイルと違いますねぇ」

 思い付きで好き勝手しちゃう困ったオジサンです。

 ちなみにタチコマたちはデータを並列化(共有)しているので、どんなデータを与えたところで、それだけでは個性といったものは生まれません。ではもし、タチコマに個性というものが生まれるとしたら、その違いはどこから生まれるのでしょうか?ゴーストに刻まれた個人の体験なのでしょうか。そもそもAIにゴーストはあるのでしょうか。

 バトーは古い年式のスポーツカーを好んで乗り回すような「物に愛情を持つ」タイプの人間です。その愛に機械も答えてくれると考えているロマンチストさんなのかもしれません。

シーン②:素子登場。タチコマ6機フル装備で出動準備とのこと。播磨研究学園都市内の剣菱重工の演習ドームで新型多脚戦車が暴走を始めたのだ。搭乗者は、1週間前に死亡した戦車の設計者である加護タケシの認識コードを用いた正体不明の何者か。内務省はテロの可能性を示唆し、公安9課に出動要請がされたということです。

素子「暴走の原因がハード及びソフトのセキュリティ面の欠陥であったとなれば、すべての責任を剣菱に押し付けたいというのが、正式採用を検討中だった陸自の本音よ」

 軍は、本件とは無関係という立場を貫きたいため本件に協力しない様子。スペックも不明な新型多脚戦車を相手にする危険な任務を押し付けられた形だ。

 件の戦車は播磨研究学園都市を出て、播磨テクノラインへと移動。素子はこれをチャンスだといいます。テクノラインは山道を切り開いた専用道路、周りは農村ばかりなのだ。戦車がテクノライン上にいるうちに叩くことを決める素子。

 今回の役割分担

 パズ:電脳化、義体化に反対するテロリストから犯行声明が出ていないかを確認。(地味な裏方仕事ですね)

ボーマとサイトー:先行して播磨テクノライン上で迎撃準備。最も被害が出にくいポイントで戦車を狙撃、停止させる。

トグサ:剣菱重工で課長と合流。戦車暴走の原因を究明。(適材適所だと思いますが、トグサは不満そうな表情。ドンパチがしたいのでしょうか)

素子とバトー:タチコマ6機で暴走戦車を誘導。

バトー「それが君のお仕事」                     トグサ「戦車に吹っ飛ばされて、泣くな」

 割り当てられた役割に不満げなトグサにわざわざ嫌味をいうバトーと悪態を返すトグサ、いつも仲のいい二人ですね。

 オスプレイのようなティルトローター機に乗り込むタチコマ6機。タチコマたちの雑談から播磨研究学園都市はタチコマのニューロチップが作られたところらしいことが判明。故郷に凱旋というわけだ。

シーン③:農道を封鎖する警官隊。お仕事お疲れ様です。そこにオスプレイもどきが着陸し、タチコマが展開する。タチコマの背中のポッドが開き、ひょっこり顔を出す素子がかわいい。

素子「我々は攻殻機動隊だ。状況の説明を」

 珍しく攻殻機動隊を名乗る素子。敬礼して答える警察の特殊部隊の隊長。攻殻機動隊という名称はそれなりに浸透しているのだろうか?

 そして姿を現す新型多脚戦車HAW-206。思わず声を上げ、動揺する警官たち。今まで被害者を出していないことから、下手に手を出さなければ向こうから攻撃してくることはないようだ。素子は警官隊に後は自分たちに任せて道を開けるように命令する。タチコマも、HAW-20の後を追いかける形をとり迎撃ポイントまで干渉はしない方針。

警官隊「攻機初めて見たよ」「実在していたんだな」

などと雑談しながら素子たちを見送る警官たち。攻殻機動隊という名称もそれなりに有名みたいだね。

バトー「ジガバチだ。陸自の奴ら、高見の見物のつもりかよ」

ジガバチは、自衛軍の対戦車戦闘ヘリで型式番号は「ATH-29」。協力はしないが情報収集は欠かさない姿勢。剣菱重工に対する牽制と保険だと解釈する素子。

ここでバトーのボヤキ。新型多脚戦車の目的が分からない。果たして本当に人が乗っているのか?それが今回のミステリー。テロなのか?愉快犯なのか?はたまた戦車泥棒か、AIの暴走か。パズの報告では該当しそうな23のテロリストのうち20の組織を調べたが動きはない。この調子だとおそらく残り3つも無関係だろう。

シーン④:播磨研究学園都市、剣菱重工の社内。荒巻課長とトグサ、イシカワが情報収集。

トグサ、イシカワは開発担当者・加護タケシの同僚である大場トシオの事情聴取を担当。アヴァンタイトルで意味深な心の声を発したあの男です。事件発生の直前まで戦車を整備していたのが大場らしい。

荒巻は、剣菱重工の上層部に掛け合う。社長室には開発部長と社長の姿がありました。社長は椅子に座ったまま荒巻に背を向け、顔さえ見せない様子。荒巻課長は新型戦車に関するすべての情報の提示を求めます。これに応じ資料を提供する開発部長。データを送られた素子は「これなら何とかなる」と安堵、だが、しかし……。

シーン⑤:狙撃ポイント。サイトーは地面に設置した大型の狙撃銃を構えている。普段は眼帯なような物で覆われている左目が開くと、メカメカしいサイボーグ・アイが出現。「鷹の目」という、男の子ってこういうのが好きなんでしょ!衛星とリンクし、いざ引き金を引く。……狙撃を躱す多脚式戦車。驚くサイト―。第2射。コレも回避。

サイト―「鷹の目のデータが盗まれている。奴は衛星とリンクしているようです。目視であとワンチャンス」

 ここで諦めず、目視での狙撃を試みるサイトー、かっこいい。多脚式戦車の煙幕弾を発射し対抗。第3射はなんとか車体をかするも、致命打にはならず。

 サイト―の鷹の目は衛星とリンクし、狙撃に必要な地形や天候のデータを取得していると思われる。しかし、HAW-206もまた衛星とリンクする機能を持ち、鷹の目に送られているデータを入手し、逆算することで狙撃の弾道を予測したというわけ。そこでサイトーは、衛星に頼らず目視による狙撃に切り替えたわけです。ちなみに長距離の狙撃の場合、単に照準で相手を捕らえればいいというわけではなく、天候、気圧、気温、湿度、風向や風力、果てはコリオリ力といった要素による弾道の変化を計算する必要があります。ターゲットとの間に水たまりや池、沼などがあれば蜃気楼の発生も考慮する必要がありますし、銃弾の形状や回転など道具による差異も考慮する必要があります。現実世界の遠距離狙撃の世界記録は3450メートル。2017年、カナダ軍の特殊部隊所属のスナイパーがイラクでイスラム国(IS)の兵士を射殺したケースのようです。現実のスナイパーの場合、計算に20分以上かけることもあるそうです。

 なお、今回のサイトーの狙撃距離は約1946m。

荒巻「残念ながら、すべての情報を与えてはもらえなかったようですな」

 状況を理解し、社長に詰め寄る荒巻。素子は迎撃ポイントでの決着を諦め、撤収を指示する。どうやら、あの新型戦車にはまだまだ明らかにされていない機能があるようです。この期に及んで、自社の兵器のスペックを明かさない剣菱重工に、荒巻課長もいらだちを隠しません。

【3】第2ラウンド

シーン①:映し出されるのは高層ビルの乱立する都市の姿。立ち去るジガバチ。代わりに現れるのは報道機関のヘリ。報道管制が破られる頃合いのようです。

 映し出される道路標識。この先、道は大蔵谷と新浜大橋に別れる。多脚式戦車が選択したのは新浜大橋へのルート。

シーン②:社長室

開発部長「HAW-206は剣菱が6年の年月をかけて開発したんだぞ。スペックを公開することで受ける損害をあなたたち警察が補償するとでもいうのか」                                荒巻「それは購入先があってのことでしょう。このままでは剣菱のマークが入った宣伝カーが最悪のデモンストレーションをして回ることになりますが。よろしいか」                          社長「なんとかおたくの戦車だけで、あれを足止めすることはできんかね」

開発部長が、必死に荒巻に対し弁解する隣で、背を向けた社長の顔がドアップになるという特徴的な構図。今回は、顔のアップの構図が何度か登場しています。

開発部長は、荒巻に対して「あなたたち警察が補償するのか」と声を上げます。どうやら、警察と認識されているらしい。これは内務省公安部が一般的に警察(国家警察)と認識されているということでしょうか?

国家警察:中央政府の機関としての警察。現在の日本では、警察は国ではなく都道府県の組織である。これを自治体警察と呼ぶ。戦前の日本でも、東京以外の府県警察部は各知事の統制下にあったが、東京の警視庁のみ内務省の直轄に置かれていた。

シーン③:事情聴取

 トグサの取り調べに対し、黙って何も答えない大場トシオ。大場は何かを気にしている様子。粘り強く説得するトグサ。

シーン④:追跡

 HAW-206を追跡するタチコマたち。素子はHAW-206がどこに向かおうとしているのかが気になります。バトーは市街地に向かうと予想しているわけですが……。

 素子はHAW-206の正面に回り込み、攻撃を仕掛けてみます。HAW-206の反撃、タチコマ1機がハチの巣にされます。何とか会話はできているみたいですが、行動不能。救助を待つことに。

タチコマ「いいな、いいな。壊れたよ。」               タチコマ「構造解析されちゃうかも。」

ハチの巣にされた仲間を見て呑気にはしゃぐタチコマたち。彼らにとっては無惨に破壊されることも『貴重な人生経験の一つ』なのでしょう。

 オフィスビルから高速道路を走るHAW-206を眺める社員の姿。いよいよ都市部へと侵入してきたことを表現しています。HAW-206は、市街地ではなく、新浜大橋を渡るルートを選択します。

素子「課長。奴は橋に進路を向けたわ。対戦車ミサイル使えるラストチャンスかも。アイツにそれが有効かだけでも聞いて。しくじればスプリングエイトの4倍の税金をかけた橋を落とすかもって」             荒巻「だ、そうです。いかがかな、開発部長。」

スプリングエイト:SPring-8(スプリングエイト、Super Photon ring-8 GeV)。現実世界では、播磨科学公園都市内に位置する大型放射光施設。1997年10月から供用を開始した。建設費約1100 億円。和歌山毒物カレー事件での鑑定に使用されたことで一躍有名になった。

シーン⑤:橋を渡るHAW-206。ヘリから対戦車ミサイルを構えるサイト―。

開発部長「ミサイルはやめた方がいい。モードLで操作されていると思われるので、ほとんどの無線誘導弾にジャミングをかけられます」
荒巻「レーザー誘導でも?」                        開発部長「レーザー誘導の場合には欺瞞信号を出して、ミサイルを逸らします。オンライン誘導でも射程距離が300メートル以上の場合なら90%以上の確率でハッキングをかけ、ミサイルを発射した本人に送り返すことも可能です」

ぎりぎりのタイミングでハッキング機能に気付き、ミサイルの発射を諦めるサイトー。

ミサイル:推進装置と誘導装置を持つ兵器。自ら進路を変えながら、自力で飛翔できる。誘導弾とも。なお、誘導装置を持たないものをロケット弾、推進装置を持たないものを誘導爆弾という。

誘導方式の分類:ミサイルの誘導方式は、工学的な観点からホーミング誘導、指令誘導、プログラム誘導、複合誘導の4つに分類できる。ホーミング誘導は、目標からの信号を得て追尾する方式。指令誘導は、外部装置の指令に従ってミサイルを操舵・誘導する方式。プログラム誘導はミサイルの飛行経路を発射前に設定して誘導する方式。複合誘導はそれら方式を複合する方式だ。

電波誘導:目標から返ってくる電波(レーダー波)をシーカーで検知し、目標を捉える方式。さらにパッシブ方式とセミアクティブ方式、アクティブ方式の3種類に大別される。

光波誘導:目標が発する赤外線を赤外線センサによって捉え、目標を追尾して命中させる誘導方式を赤外線誘導という。目標に対してレーザー光を照射し、目標からの反射光をミサイルのシーカーで捉える方式をレーザー方式という。

生物誘導:誘導装置に生物を用いる方法。アメリカでは調教された鳩を使ってミサイルの誘導を行うプロジェクト鳩という計画が存在した。手動操縦は人間を用いた生物誘導ともいえる。

ジャミング:ジャミングとは妨害装置を用いたレーダー波に対する妨害 のことをいう。電波ノイズで信号を受信できなくする方式をノイズ・ジャミング、敵の捜索用や火器管制用のレーダー波の放射を受けると、同一周波数で強度を高め、送信する(欺瞞信号)方式を欺瞞反復方式という。


社長室に入ってくるトグサ、イシカワ、そして大場トシオ。戦車に誰が乗っているのかが判明したそうです。大場がいよいよ自供したようですね。

今まで背を向け続けた社長がとうとうトグサの方に顔を向け、誰があれを動かしているんだと問いかけます。その意外な答えとは。

トグサ「加護タケシです。」                     開発部長「加護タケシだって!? 奴は1週間前に死んだんだぞ」

 なんと、死んだはずの開発者、加護タケシがあの戦車に乗っているそうです。

トグサ「死んだ加護の脳を戦車のAIにつないだそうです」       開発部長「なぜそんなことをしたんだ!!」                 大場「それが、彼の遺言だったからです」

 自分のキャリアを投げ捨ててでも、同僚の遺言を叶えた大場。普通に逮捕されますよね、これ?その心情はいったいどのようなものだったのでしょうか。

トグサ「ええやばいです。加護タケシの目的は両親への復讐ではないかと思われます。加護は兵器の設計に天才的な才能を発揮し、大学在籍中にスカウトされた人物ですが、生まれつき体が弱く、医師からも義体化しない限り20歳の春は迎えられないと言われていたようです。しかし、宗教的な理由から義体化はもちろん電脳化すら許されず、ほとんど戦車の開発への執念で28まで生きていたような状態だったようです……」

戦車の目的地は加護タケシの両親の実家だと判明します。動機は復讐。

トグサ「似たような境遇に育ちながら、義体化することで生き永らえた大場は加護の死ぬ間際の遺言、肉体が死んだら宗教から解放される。そしたら脳を取り出し戦車につないでくれという約束を実行したんだそうです」
トグサ「生前加護は病弱な体に産んだ両親を恨み、ことあるごとに鋼鉄の体に生まれ変わりたいと言っていたそうです。生から解放されれば、両親の教えに背くことなく鋼鉄の肉体を手に入れられる。加護は、その夢を大場に託したんです」

【4】第3ラウンド

シーン①:荒巻は淡路署の石塚に連絡済み、淡路では住民の避難が始まっています。

高速道路から飛び降り、いよいよ淡路の市街地に侵入するHAW-206。なお現在まで、死傷者はゼロ。加護は無関係な第三者を巻き込むことは避けたいようです。しかし、今後どうなるかはわかりません。

社長は、はじめて荒巻をまっすぐに見据え、機密データの入ったディスクを差し出します。「死傷者はゼロ」、その言葉が彼を決断に導いたようです。

社長「わしは剣菱自体を明日に残さねばならんのだ」          荒巻「ご協力感謝いたします」

シーン②:タチコマがワイヤーを発射、足を狙います。実家に向かうHAW-206の足止めを試みます。しかし、HAW-206もとうとう主砲の使用を決めます。とっさにワイヤーを切断し、民家の屋根に飛び移ることでなんとか回避に成功するタチコマ。同タイプの戦車を一撃で粉砕した主砲です。直撃すればタチコマなんて跡形も残りません。

 物理的攻撃は無理だと判断する素子。バトーは無茶は起こすなと忠告する。軍の防壁は強力で、素子でさえ脳を焼き切られる可能性が高い。それでもやれるだけやると素子は、戦車の胴体部分に飛び移り有線による接続を試みます。しかし、これは本当に無茶な行動のようでバトーもお怒りです。

 そこにヘリに乗った荒巻とイシカワが登場。イシカワは対戦車ミサイルのようなものを構えますが、大丈夫なのでしょうか。いえ、どうやら違うようです。発射された弾は戦車の胴体に命中すると緑色の粘体をまき散らします。いわゆるトリモチ弾ですね。5発、6発、7発と連射してなんとか戦車を動けなくすることに成功。

バトー「剣菱の対多脚戦車兵器か。あるならとっとと寄越しやがれ」

強力な兵器を開発する裏では、当然その対抗策も開発しているのが兵器メーカー。一粒で二度おいしい。両方売って大儲けです。

 荒巻経由で攻性防壁解除の暗証コードを手に入れた素子は、安心してハッキングを仕掛けることができます。ハッチを開き、加護の脳を取り出そうとします。

素子「戦車の防壁が無ければ、ただの無防備な脳だな」

もはやまな板の上の鯛。さすがのHAW-206も、対多脚戦車兵器と攻性防壁解除コードの前に太刀打ちできません。これで事件も一件落着かと思いきや。

母親「タケシ……タケシなのかい」

なんとここで加護の両親登場。両親の手にはHAW-206のミニチュアが握られています。HAW-206は最後の力を振り絞って、動き出します。

素子「馬鹿な。なぜ避難していない!」とお怒り。淡路の警官は無能なのでしょうか。一番重要なターゲットが、退避することなく家に留まっていたようです。HAW-206の腕が、両親に向けられます。素子はとっさに有線接続。加護の脳を焼き切ります。流れ込んでくるイメージ。加護の記憶でしょうか。

HAW-206は完全に沈黙。

攻性防壁:ネットワーク上の不正アクセスに対する防御手段(防壁)のうち、ハッキング元を逆探査し、ハッカーに対し破壊的な攻撃を行うものをいう。「脳を焼く」と表現されるようにハッカーの電脳にダメージを与えたり、生命維持機能に異常を起こさせるものが考えられる。元ネタとしては、ウィリアム・ギブスンのスプロール・シリーズに登場するICE(Intrusion Countermeasure Electronics:侵入対抗電子機器/アイス)。特に致死性なものはブラックアイスと呼ばれる。攻性防壁は危険なものであるから法規制がなされていて、誰でも、どんなものでも使えるというわけではない。本編でバトーが言っているように軍用の防壁は強力かつ危険と考えるべきだろう。

シーン③:社長室では、電話対応に追われる社長と開発部長の姿。ぺこぺこと頭を下げることで精一杯です。トグサはすべてが終わったことを大場に告げます。加護の脳が焼き切られたことを知り、悲壮な表情の大場。

バトー「クソッタレ。そこまで自分の親が憎かったのか」        素子「違う。加護の脳を焼いたとき、一瞬だけど感じた。どうだい母さん。鋼鉄の体になった俺の姿。そんな、自慢とも復讐ともつかない奇妙な感覚」バトー「やめとけ。それはただの錯覚だ」                素子「ならいいんだけど。それを確かめるすべは二度と無くなったわ」

 はたして加護の目的は復讐だったのか、それとも両親との再会だったのか。ビターなエンドです。

 そして、言及されないお父さん。男はつらいよ。

【5】感想

メタレベルでいうと、まだまだ第2話、視聴者の関心を引くための派手な戦車戦を持ってきた&タチコマ活躍回という鉄壁の布陣。

その一方で宗教的な理由で、電脳化、擬人化を拒む人間もいるというサイバーパンクなテーマを扱っています。加護はある意味犠牲者と考える人もいるとは思いますが、両親を悪と断じない大人の脚本。加護は、両親の信仰には共感はしていないようでしたが、そんな両親を受け入れ、自らの意思で運命を決したのでしょう。両親も実家から避難せず、息子の最後の姿を見届けました。このあたりの匙加減が、脚本家には必要なのでしょうねぇ。エンタメとしても、サイバーパンクとしてもよくできたお話。第2話も隙はありませんね!

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